第216話 どんな時でもヒモ聖女
俺達がアグマリナを連れて聖女邸に飛び込むと、ミリィ達が待ち構えていた。
「聖女様! 成功ですか!」
「成功だよ!」
「よかった!」
そこには先に助けられたマロエもいて、アグマリナはマロエに駆け寄って抱き着いた。二人とも声を上げて泣いている。そうなるのも仕方がないと思う、自分が生きて来た家に二度と戻れないのだ。家族と別れた悲しみと、これからの不安そして絶望を考えれば致し方ない。しばらく俺達、聖女邸の面々は二人を囲んで眺めていた。
少しずつ冷静になった、マロエとアグマリナが俺に深々と礼をしてきた。
「聖女様。本当にありがとうございます」
「いえいえ。状況次第になるかと思いますが、明後日には西方部隊が帰ってきます。既にセクカ伯爵が捕らえられていますので、彼の自白により反王派の誰かは粛清の対象に浮かび上がるでしょう。そしてそれは伯爵家になる可能性が大きいのです。子爵や男爵は王派に取り込まれる形になると思いますが、伯爵家はそうはいきませんからね。あなた方を救出するなら、今日しかありませんでした。突然の事で心の準備も無かったでしょうが許してほしい」
マロエが答える。
「そうですよね…。いつになるか分からないけどと、そのような話を母がしておりました。それでも父は欲に生き、私腹を肥やそうと必死でございました」
「お父上は恐らく悪い人からそそのかされているのでしょうが、だからといって本人に責任がないとは言えません」
「はい」
そして俺はミリィに言う。
「まずは軽い食事を用意して。暖かいものを口にすれば少しは落ち着くでしょう」
「はい」
俺達がマロエとアグマリナを連れて食堂に入り、食卓に座るとそこに軽い料理が運ばれて来た。料理を運んで来たのは、リンクシルとルイプイとジェーバだった。彼女らはメイドの姿で現れたのである。
それを見たマロエとアグマリナが声を上げて近寄った。
「リンク! ルイ! ジェビー!」
するとリンクシル達三人が、彼女らに深々と礼をして言った。
「すみません。騙していました! 私達は聖女様の召使なのです」
マロエが笑って言う。
「そんなことはどうでもいいのです。あなた達のおかげで助かったのは紛れもない事実ですから」
「聖女様の指示通りにやっただけです!」
すると今度はアグマリナが言った。
「分かっております。でもあなた方が私に向けてくれた心は本物でした。たくさんの優しい言葉に励まされて、私達はめげずにやって来れたのです」
「それは…」
リンクシルも何て言っていいか分からないようだ。そこで俺から説明する事にする。
「マロエさん。アグマリナさん。実はこの三人はとても恵まれない境遇にいたのです」
「そうなのですか?」
「はい。三人とも奴隷商人から盗賊に売られ、牢獄に捕らえられておりました。三人とも幸せになる権利があると言うのに、何の権利もない奴らが彼女らを売り飛ばしたのです」
伯爵の娘達が、ウンウンと頷いて言った。
「私達がなんの後ろ盾も無く、国外に逃げていたら同じ目にあっていたでしょう。ですからあなた達が、遠い小国の貴族の娘だと聞いて近づいたのです。私達は打算があってあなた方に近づいたのです」
「マロエの言う通り。腹黒いのは私達の方」
リンクシルとルイプイとジェーバが首を振った。
「お二方はとても心根がお綺麗です」
「二人は優しかったです」
「そしてとても楽しかった!」
それを聞いて俺がマロエとアグマリナに言った。
「国外に出れば、本当にあなた方の未来は分からなかった」
「覚悟の上でした」
「私も既に覚悟しています」
「だから国外には出さない」
「「えっ?」」
「もう社交界に戻れる事はないでしょうが、平和な暮らしを保証します。その為の身請け先も既に確保してありますので安心してください。私が暮らしのめんどうをみます」
俺がそう言うと、二人はまたポロポロと泣き出した。
「聖女様…ううう…なぜにそれほどまでに私達の事を…」
「私達など、ただ能天気に女子会をする様な馬鹿な貴族の娘でございますのに」
かわいいからなんだけど。
「お二人が大事な人材ですから当然の事をしたまでです。とにかくあなた方は何処にもいかせない、安全な場所で平和に暮らしてもらいます」
もう二人は顔を上げなかった。嗚咽を漏らしながら座っている。するとリンクシルとルイプイとジェーバが、二人の傍らに近寄って肩を支え背中をさすった。二人は彼女らに抱きついて、おいおいと泣き始めたのであった。
そこで俺が言う。
「さあ落ち着いたら夜食を食べましょう。それが終わったらお風呂です。しばらくは入浴が出来ないかもしれませんので、今日はゆっくりとお湯に浸かってください」
「「はい」」
よっしゃぁぁぁ! 伯爵の娘達と風呂に入れるぜぇぇぇぇぇ! もちろん二人の為に優しい心で用意したことではあるが、俺の下心がかなり勝っているんだぜぇぇぇぇぇ!
こんな悲しんでいる子らを前に、人としての常識が思いっきり無いと思われるかもしれないが。
ない!
そんなものはない!
俺はヒモとしての欲望全開で、目の前に置かれたパンをちぎりながらマロエとアグマリナを見る。その俺の目は間違いなく、性的ないやらしさを秘めているだろう。だが二人は俺が清廉潔白な聖女だと信じて疑わない。俺はどんな時でも、超美人な聖女としての職権を乱用しまくるのだった。
すると、うるんだ眼差しでマロエが言う。
「ありがとうございます。何から何まで」
アグマリナも言う。
「感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」
いいんだよ。君達は何も心配する事はないんだ。可愛いいから幸せになる権利がある。
俺は聖女としてこれ以上ないくらい、神聖で極上の笑みを浮かべるのだった。
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