第209話 貴族の娘達のSOS
俺達がマロエとアグマリナの話を聞いていると、他愛もない女子トークに花を咲かせている。俺達もそれに合わせて笑ったり、似たようなエピソードを話した。だが俺達が親身になって話をしているうちに、マロエとアグマリナの表情に焦りのようなものが見え隠れしているような気がしてきた。
そこで俺が二人に訊ねる。
「どうされました?」
すると二人が目を合わせ、ウンと頷いて俺に向かって言う。
「あ、あの。リンクさんルイさん、私の部屋にいきませんか?」
女子の部屋! いきたい! 前世では女子の部屋を転々としていたから、ぜひこの世界の女子の部屋を見てみたいという衝動に駆られる。それにもまして大事な話があるのであれば、是非もない。
「かまいませんよ」
「では」
そう言ってマロエは、アグマリナと俺達を連れて二階の自分の部屋に上がった。伯爵の娘の部屋だけあって、ベッドも大きくテーブルにも余裕で四人が座れる。俺達が座ると、マロエが窓際に行ってカーテンを閉めた。室内が暗くなったのでランプに火を灯す。
「ごめんなさい、こんなこと」
「かまいません」
「知り合ったばかりですと言うのに、いきなりこのような事をお話するのは気がひけるのですが」
「どうぞ」
すると再び、マロエとアグマリナが目を合わせて頷いた。
「実はあなた方の事をミステルから聞いて知りましたの。彼女から聞いてお店で待ち伏せして待っていたのです」
そうだったんだ…。それは知らなかった。
「なぜそのような事を? どうしてミステルさんがここに居らっしゃらないのです?」
「はい。彼女のお家は安全で無関係だからです」
どうやらこの二人は、いろんな事情を知った上で俺達に接触を図って来たらしい。この緊迫感から、俺はすぐに察する事が出来た。
「あなた方のお家はなにか危険なのですか?」
「それは…」
「どうぞ正直にお話しください。お友達が困っているというのに、放っておくわけには参りません」
するとマロエが意を決したように言った。
「もしこの事が外にバレてしまえば、私達は一族か他の貴族に殺されてしまうでしょう」
そいつは大変だ。
「なんです?」
「実は私とアグマリナのお家なのですが、王家に対して裏切り行為をしているようなのです。どうやら王家と大臣や貴族達が、それを察知したようで粛清に向けて動いているのです」
そこまで感づいてるんだ。きっと親が話したのだろう。
「それは大変なことです!」
「はい。そこで他国から来たという、あなた方に接触を図りました」
「そうなのですね?」
「はい…あの…」
マロエが口をつぐむと、アグマリナが意を決したように言った。
「私達を国外に連れ出してはいただけないでしょうか? このままでは巻き込まれて私達も殺されてしまいます」
いいよ。
「それは…マロエさんのご家族と、アグマリナさんのご家族と言う意味ですか? 流石にそれはかなり厳しいです」
「いえ! 私達とアグマリナの妹だけです。もし家ごととなれば国際問題になり、戦争になってしまう事もあり得ます。ですが、私達だけであれば引き渡しなど無いと思います」
健気な。女の子の小さな胸で思いなやみ、蜘蛛の糸にすがるように俺に相談して来たのだ。
「あなた方が私の国に来たとして、どうやって生きていくのです?」
「町娘になって市場で働くなど出来れば!もしくは教会に入って修道士になります!」
二人が力強く俺を見つめて来る。そこで俺は二人に聞いた。
「その気持ちに嘘偽りは?」
「ございません」
「私も!」
そして俺は雰囲気を変えた。
「わかりました。ですがまだ事が起きるかどうかはっきりしていませんよね? この件、一度持ち帰らせていただきまして、それからお返事しても?」
「もちろんです。リンクさんやルイさんの一存では決められないでしょう。お父様にご相談いただけたら幸いです。少ないですが、私達の蓄えた金品をお渡しする事モ出来ると思います」
そんなんいらねえし。俺は二人の目を見て深く頷いた。
「わかりました。まず安心してください、あなた方を見捨てる事はございません」
ほんと、マジで。
「こちらで手はずを整えますので、次にお会いする日を決めましょう。白昼堂々と逃げ出すわけにはいかないでしょうから」
二人が俺に縋りついて来る。
「「おねがいします!」」
「はい。くれぐれも慌てる事無く、そしてこのことは誰にも話してはいけませんよ」
「「はい!」」
そうして丁度話を終えた時、コンコンとドアがノックされた。マロエは慌ててランプを消して、カーテンを開ける。
呼びに来たのはメイドだった。
「旦那様と奥方様が戻られました」
「はい」
そして俺達は部屋を出て行く。下に行くと階段下で両親が待っていた。俺とリンクシルが二人にカーテシーで挨拶をする。
すると神経質そうな父親が、するどい目で俺達を見つめ言った。
「これは可愛らしいお嬢さんがただ。あなた方はどちらの娘さんでしたかな?」
「はい。遠い東の小国から観光で訪れた者です」
「隣国から…」
父親は目を細めながらも、目の奥底では俺達をぎろりと睨んでいる。だが俺は表情を変える事無く、微笑みを返し続けた。
マロエが父親に言う。
「お茶をしておりましたが、彼女らはお帰りになる所でした。あまりお引止めしても良くないかと思います」
父親は振り向き大声で人を呼んだ。俺は咄嗟に懐に手を忍ばせ、アンナを呼ぶスクロールに手を伸ばす。向こう側から、男が二人こちらにやって来る。
「「は!」」
「こちらのお嬢さんがたをお送りしてくれ。今の王都は物騒だからな、帰りに怪我でもされたらたまらん」
「「は!」」
まずい。俺達が帰る場所は聖女邸だ。一緒に帰ったら怪しまれるかもしれん。
「私達は、宝石屋に立ち寄って行こうと思っているのです。そんな場所へ殿方をお連れするのは、私の国では結婚前にして良い事ではございません。もし父がそれを見たのなら、女性のお友達とお茶会をしたのが嘘だと思われます」
しばらく沈黙が襲った。どうやら俺達をスパイか何かだと怪しんでいるらしい。
そして父親は行った。
「そうですか! それではマロエ、あなたが送ってやりなさい」
「はい」
どうにか父親を丸めこんで、マロエの家を出る事が出来た。そしてしばらく繁華街に向かって歩いて行くと、リンクシルがクンクンと鼻をならし俺の耳に囁く。
「つけられてます」
マジか…。
とにかく俺達は宝石店に行って、宝石を見る振りしながら外の様子を伺う。確かに道向かいに先ほどの男達二人が潜伏していた。俺は適当に指輪を二つ買ってマロエとアグマリナに渡した。
「これをもっていてください」
「えっ! いいのですか?」
「はい。これは私からあなた達の覚悟に対しての気持ち。だからその日までこれを見てくじけないで」
二人が泣き始める。相当不安だったろうが俺が必ず守ってやるからね。だが泣いて外に出れば、付いて来た男達が怪しむかもしれない。
「こんなことで泣いてはダメ。強くいてください」
「「はい!」」
二人は涙を拭いて外に出た。俺達はそれに続いて外に出る、店の前で別れると男二人が俺達を尾行し始めた。
…どうするか…。
すると俺の後でドサッと転ぶ音がする。チラリとそちらを見ると男二人が転んでいた。その前にアンナが仁王立ちして見下ろし、思いっきり啖呵を切った。
「どこに目をつけている! きちんと前を向いて歩け!」
その間に俺達はサッと街角に消えた。流石アンナ、俺達を尾行する男に気が付いて機転を利かせたらしい。俺達は無事に男達を撒いて、聖女邸に帰る事が出来たのだった。
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