第206話 子爵の娘ミステル
貴族の娘との接触作戦は、二回目できちんと情報を持って来た。流石はアデルナ、町でのコミュニケーションの取り方を重点的に教え彼女らを上手く動かした。そのおかげで三回目の作戦にて、貴族の娘コミュニティカーストの下にいる、子爵の娘ミステルとの接触に成功した。
どうやら服屋で知り合い、女子会をする約束をして来たらしい。
「とうとう今日だね! やっぱり出来ると思っていたよ!」
俺が言うと、リンクシルとルイプイとジェーバの三人はニコニコして笑っていた。無駄金も使う事は無くなり、上手に立ち回れた事で自信をつけて来たらしい。
「「「はい!」」」
今日は街のスイーツ店で待ち合わせをして、女子会をするらしい。ミステルは子爵の娘なので、それほどお金を持っているわけではなく、庶民も通うようなスイーツ店でVIP扱いされているようだ。
それを聞いてミリィが言う。
「それでは、気合を入れておしゃれをいたしましょう」
そう言うと、リンクシルとルイプイとジェーバが鏡の前に座らせられ、ミリィを筆頭としたメイドが群がった。あれよあれよと化粧を施され、きっちり髪を結われてどこからどう見ても貴族の娘になる。
そして俺が言う。
「そろそろ時間だ。今回は私とアンナが町娘に変装していくから」
「「「はい!」」」
俺達は馬車で聖女邸を出て、適当なところで降り店まで歩いた。俺はリンクシル達と別れて、少し離れた所からスイーツ店を見る。リンクシル達が店の前で待っていると、通りの向こうからミステルが二人の女を連れて歩いて来た。
俺は一瞬、連れて来たのは伯爵の娘達と思ったが、身なりからすれば恐らく下級の貴族の娘だろう。ミステルが手を振ってリンクシル達も手を振り返している。
六人の女子が早速スイーツ店に入ったので、変装した俺とアンナもスイーツ店に潜入した。見渡すと彼女らは窓際に陣取っていたので、俺達は店員に言ってその後ろの席に座った。俺が女子達を見て座ればバレるかもしれないので、背中を向けて座りアンナが対面に座る。
早速聞き耳を立てた。
すると、案の定ミステルが連れて来たのは男爵の娘らしい。自分がマウントを取れる相手を連れて来たのだろう。そう言うところも女子っぽくて俺は嫌いじゃない。
ミステルが言う。
「こちらが遠い異国の地からいらっしゃった、伯爵様の娘さん達です」
「リンクです」
「ルイです」
「ジェビーです」
おお! 凄い。リンクシル達が偽名を使っている。きっとアデルナからいろいろ教えてもらったんだろうな。
男爵の娘が言う。
「どんなお国なのです?」
「ええ。ヒストリアのような大国とは比べ物にならない、小さな小国なのです。こんな都会にこれて幸せです」
なるほど。リンクシルはちょっと本当の事を交えながら、上手く嘘をついている。流石はアデルナの教え、突っ込みどころのない答えた。そしてルイプイとジェーバも言う。
「私達は従妹で、同じ国から参りました」
「都会の貴族様のお知り合いになれて幸せですわ」
な、なんだ! ジェーバの言葉遣いがめっちゃ丁寧だ。俺はその事に感激していた。
「今日はこのお店でお話をした後、王都を案内しますわ」
ミステルがニッコリ笑って言った。若干マウントを取っているような感じだが、嫌味な感じではない。元々王女ビクトレナの腰ぎんちゃくの腰ぎんちゃくなので、出しゃばるような事もなさそうだ。
それからしばらく他愛もない話をしながら、成長した聖女チームの女子トークを聞いていた。アデルナはよくぞここまで三人を育ててくれたと感心する。逆にめっちゃキツイ指導があったんじゃないかと勘繰ってしまう。
俺がトン。と軽くリンクシルに合図を送ると、リンクシルがミステルに言った。
「ちょっとお化粧直しに」
「ああ、どうぞ」
「では私も」
「私も失礼して」
リンクシルについて、ルイプイとジェーバが立ち上がりトイレに行った。ここが俺達の作戦だった。彼女らがいなくなった時に、ミステルが何を話すのかを注意深く聞く。
「可愛らしい子達でしょう?」
すると男爵の娘達が頷いた。
「そうですね」
「でも、ミステル様のような可憐さはありませんわ」
「いやいや、そんな事はないですわ。ほほほほほ」
まんざらでもないらしい。まあ可愛くない訳ではないので俺は微笑ましく聞いている。
「でも田舎の貴族なのですよね? なぜお付き合いを?」
「そうですねえ…」
ミステルが少し間を開けて言った。
「最近は上流貴族の集いが無くなったのです。ソフィア様は別荘地に移られましたし、王城で何があったのか知らないのですが、ビクトレナ様もお忙しくなったようなの。なのでパーティーなどが行われる事も無くなったのよね」
「確かにそうみたいですねえ」
「私はお話するのが好きだから、たまたま服屋に行ったら彼女らがいたのです」
「だからといって仲良くされるのですか?」
するとミステルがスッと男爵の娘達に顔を寄せて行った。
「あの子達、とっても懐具合が暖かいらしいの。お店の店主から聞きましたのよ。恐らく小国でもお金のある有力貴族じゃないかって。これからどうなるか分かりませんし、他国の貴族と仲良くするのも悪くないのでは?」
「「なーるほどー!」」
男爵の娘二人が頷いた。
「まあお父様からは、東スルデン神国やアルカナ共和国の人でなければ、お付き合いしてもかまわないと言っておりましたし」
「「そうですね」」
確定した。
ミステルの家はシロだ。娘にそう言うという事は、王派閥に属しているか無所属でも王派に近いと考えられる。女子会ではソフィアにくっついていたから、どっちか分からなかったが、親世代は王派なのだろう。
男爵の娘が言った。
「でも本当に戦争は起きるのでしょうか?」
「分かりませんわ。でもヒストリア王国は大国ですから、負けはしませんわよ」
「そうですね」
「早くビクトレナ様のお茶会に呼ばれるようになりたいわ」
「羨ましいです」
「私達、男爵の娘は呼ばれる事はございませんし」
「まあカジュアルな会が模様されるときは、推薦しておきますわ」
「ぜひお願いします!」
「私も!」
そこにリンクシルとルイプイとジェーバが戻って来た。俺がすれ違うようにトイレに行き、リンクシルにスッと紙切れを渡す。
リンクシルが紙を見て俺にコクリと頷いた。そして俺が席に戻りアンナと共にその店を出るのだった。
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