第201話 神様の言うとおり
大臣や貴族は今か今かと待ちかまえていたようだ。ざわざわとざわついていたが、王と俺達が入って行くとぴたりと会話が止まる。俺の従者であるアンナやミリィは賢者シーファーレンと共に傍聴席のような所に座った。
俺と偽賢者シルビエンテが厳かにルクスエリムに従い歩き、ルクスエリムが座る席のそばに座った。会議が始められ早速口火が切られる。
「陛下! 聖女様がお戻りになられたのですね! かなりのご活躍だったそうで何よりです!」
「うむ。まずは聖女から報告をもらうとしよう」
「はい」
俺は壇上に立って、西側で起きた出来事を説明していく。いずれミラシオンとマイオール達が帰ってくれば分かる事なので、嘘のないように丁寧に話して行った。
第二騎士団は嫌疑無し。第四騎士団は一部に謀反の意があり、それに巻き込まれたものが数名いる事。第四騎士団の副団長ドペルが東スルデン神国と繋がっていた事。ヴィレスタン辺境伯の実の娘が殺され、その伴侶が誘拐されていた事。その陰謀に加担したのが、王都の貴族であるセクカ伯爵だった事。更に炭鉱の町タンザを治めるバルバット領主の執事が、敵国との手引きをしていた事。東スルデン神国の兵士を数十単位で拘束し捕虜にした事。東スルデン神国の司令官を一人逮捕した事。
「以上です」
するとさっきまでざわざわとしていたのが、シンと静まり返った。そして軍の最高指令であるダルバロス元帥が口を開いた。
「いやはや…その捜査と解決までをひと月もかけずに全てやってきたと?」
そりゃそうだよ! 男連中といつまでも一緒にいられるかってーの。女の園に戻るために迅速にやったさ。二カ月も三カ月もむさい騎士達と一緒に行動し続けたら気がおかしくなるって!
「左様でございます」
ダルバロス元帥が大臣達に向かって言う。
「実際に話を聞くまではどこまでが本当かと耳を疑ったが、帝国戦と同じように全て実話だったようですな」
大臣と貴族達が賛辞の声をあげてざわついた。そこで俺が一つ言う。
「私の力ではございません事を、知っておいていただきたく思います」
すると一人の大臣が聞いて来る。
「どういう事でございましょう?」
「すべては女神フォルトゥーナ様のお導きによるもの。信心深い皆様であれば理解に優しいことでございましょう?」
するとざわつきが少し収まった。しかし今度は貴族の方から声が上がる。
「セクカ伯爵が裏切ったとなれば、もちろんその処分は陛下がお決めになるのでしょう?」
「もちんじゃ」
「ですが、その前にセクカから聞かねばなりますまい? 王に反旗を翻そうとしていた貴族たちの名を」
「うむ」
やっぱりそうなるよね。セクカが王都に連行されるまでは時間がある。奴が帰ってくればいろんな名が出てくるかもしれない、そうなればいよいよ粛清の声が強まるだろう。そうなってくると、ルクスエリムはいつまでもそれを止めておくことが出来なくなる。
仕方ないから、少し論点ずらしをするために話を変えよう。
「この度、西の辺境を周った際、他国の情報を入手いたしました」
「ほう。それはどのような?」
「私の暗殺を企てる引き金になった、強力な魔獣のテイマーでございますが、東スルデン神国の貴族が謎の組織に売った事から始まっております」
「そのような情報を?」
まあ…俺が他国を侵犯して、貴族から直接聞いて来たなんて言えないので、適当に誤魔化す事にする。
「私は冒険者を連れておりますので、ギルドにも多少の縁があるのです。そこで他国からの冒険者などにも話を聞く事ができました」
「なんと…」
会場がざわざわとなり、カンカーン!とガベルが鳴らされる。その事で貴族と大臣達が静かになった。
「ですので、事の発端は海外にあると思われます」
すると他の貴族が言う。
「それはそうとして、謀反を起こした第三騎士団の事もございます。早いうちに獅子身中の虫をどうにかする事が大事ではないでしょうか?」
粛清ね。まあそう思うのは当然だけど、こいつらはどこまで絡んでいるのかを分かっていない。本当に事を荒立てたら内乱が起きるのは間違いないのだ。
仕方ないからめっちゃハッタリをかますしかない。
「恐れ入れいますが、それは人間社会の判断と言う事でございましょうか?」
「なっ? どう言う事でございますか?」
俺はめっちゃもったいぶってから、少し大きめの声で嘘をつく。
「神託でございます!」
「なんですと?」
「そのような…」
「お告げを…」
三者三様、いや…十人十色の反応をしている。いきなりスピリチュアルな内容に変わったので、なんて言っていいか分からなくなってしまったようだ。
「私は女神フォルトゥーナ様の声を直接頂きました! そして今日はその証人をここにつれてまいりました!」
すると偽賢者シルビエンテがスッと立ち上がり礼をする。それを見た貴族と大臣達が言った。
「賢者様が…」
「であれば、その話もあり得る事でしょうな」
「そう言う事か」
おお! 偽賢者! めっちゃ信頼ある。流石賢者と言われているだけあって、昨日今日、聖者になったばかりのペーペーの俺とは違う。だが賢者はただにこやかにそこに立って、笑顔を振りまいているだけだ。特に何を言う訳でもない。
なので俺が言う。
「女神フォルトゥーナは言いました。目下の敵は内には無いと!」
ざわざわざわ。
まるで命がけのギャンブルをやっているかのようにざわつく。
「我々の真の敵は、邪神であると導かれました」
大臣の一人が聞いて来る。
「どういうことですかな?」
ここでもう一発適当なハッタリをかまそうと思う。
「邪神は人の心を操れるのです。その人が悪い事をしたいと思わなくても、邪神によって操られる事があると言うのです」
まあ嘘だけど。
「と言う事は、悪事を働きたくなくてもやってしまうと?」
「もちろん全員がそうではございません。本当に悪事をやっている者と操られている者がいるという事でございます」
「そんな…」
「恐ろしい」
「人の心を…」
そこで俺が言う。
「ですが! ご安心ください! 私が聖女として授かった聖の力をもってすれば、その真偽を見分ける事が出来るのです」
またざわつく。そして大臣の一人が言った。
「本当なのですか? 聖女様は本当に真贋を見分けられると?」
そこでようやく偽賢者シルビエンテが言った。
「ふぉっふぉっふぉっ! 恐れ入りますが大臣殿。大臣殿は聖女様のお力をお疑いになるのでしょうかな?」
「べ、別に疑ってなどは」
「聖女をよく見て下され」
皆が俺をジッと見つめる。すると偽賢者のシルビエンテが満足そうな顔で言う。
「不敬であるのを承知で申しますが、どこからどう見ても小娘じゃと思う。まあとびっきりの美しさを兼ね備えてはいるがの」
すると貴族や大臣達が言う。
「それはいささか不敬では?」
「聖女様に向かって小娘などと」
「賢者様とは言え言葉をお選びくださいませ」
「もちろん分かっておるよ! わしは心より心服し信仰を捧げておる。じゃが普通に考えてみて下され、この小娘のいでたちのお方が、ひと月も立たずして数々の難事件を解決に導けるじゃろうか?」
「それは…確かに」
「大の男でも無理でしょうな」
「半年はかかるやもしれん」
「でしょう? 女神フォルトゥーナの神託無くしては出来んでしょうな! 賢者のわしの経験からしても不可能と言いたいのじゃ」
そしてくるりと偽賢者シルビエンテが振り向いて聞いて来る。
「聖女様。全ての事件の解決は女神様の御神託によるものですか?」
俺は大きな声で言う。
「もちろんです!」
「わしからは以上です」
貴族も大臣もめっちゃ納得している。この賢者のいでたちで言われると、めっちゃ納得できるというか正論に聞こえて来る。
とりあえず俺は大臣と貴族達に言った。
「神託をお疑いなさいますでしょうか?」
「いえ! 失言でございました!」
質問をした大臣が言うと周りも完全に納得してくれたようだ。偽賢者の中の人である、シーファーレンに俺は最大の感謝を捧げる。流石は賢者だ。
「今は内部をお咎めする事はしないほうが良い。そう言う神託を受け入れてくださいますか?」
貴族と大臣達は真っすぐに頷いた。とりあえずこれで時間は稼げそうだ。
すると今度は元帥のダルバロイが聞いて来た。
「外部はどうですかな? 東スルデン神国は?」
は? 別に攻めても良いよ。敵意がそっちに向いているうちは、ソフィアに牙が向かないし。やるならやってほしい。
「女神がおっしゃるには、時を見てとの事です。いわゆる準備が出来たらと言ったところでしょうか?」
「わかりました!」
そこでルクスエリムが立ち上がった。
「聖女は帰ってきて間もないのじゃ。あまり疲れさせて、その身に何かあっては困る。今日の所はこのくらいでよいじゃろう」
会議はそこで閉廷された。大臣と貴族達は帰されて、俺達もルクスエリムに感謝されつつ戻されることになった。
ソフィアに伸びる粛清の手を、他に向かわせたことに俺は心でガッツポーズをするのだった。
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