第196話 ギルマスの手も借りたいほど忙しい

 俺が帰った連絡が王宮に届いたようで、すぐにルクスエリムから使者が送られて来た。その事で俺はヒッポがいるありがたみを嚙み締める。もし馬車でなんか帰って来ていたら、この数日の聖女邸の皆とのイチャイチャ時間が確保できなかったからだ。このイチャイチャ無くして、俺が行動し続けられるわけがない。だが女エキスをチャージしたおかげで、俺の稼働限界は上がりまくっている。


 これ以上チャージしたら暴走してしまうかもしれない。


 ウオオオオオオオオン! 


 と俺は心の中で叫びながら、迎えに来たアデルナと一緒に応接室へと向かった。すると執事と二人の騎士が、俺が部屋に入ると同時に床に跪いてくる。


「聖女様! 西での活躍の報を聞き、その大きな功績を称えたいと陛下より賜っております! 諜報部をしのぐ活躍ぶりに、王宮のみならず大臣や軍部も騒ぎになっておるようです」


「そんな大それた事はしてないです」


「いえ! 神の如き御業に貴族の面々も大層驚かれておるようです」


 まあ重要参考人を捕らえたからかな? とりあえず俺は使者に尋ねる。


「それで、私はいつ登城すればいいのです?」


「急ではございますが、明後日大臣達をそろえるそうです。王宮からお迎えにあがりますので、その馬車でいらっしゃってください」


「わかりました。それでは明後日」


「は! そしてこちらを預かっております」


 使者から書簡を受け取る。


「ありがとうございます。以上でしょうか?」


「は! それでは明後日に使者が参りますので」


「わかりました」


 使者が立ち上がり深く礼をして応接室を出る。俺達も一緒に玄関まで送った。すると使者が振り向いて俺に言う。


「今日はお会い出来て光栄でございました。それでは失礼いたします」


 そう言って使者は出て行った。俺は一息ついてアデルナに言う。


「すごい勢いだったね」


「しかも明後日ですから。相当急いでいらっしゃるのでしょう」


 俺は一人で書簡を持って自分の部屋に行き、椅子に座って封を切った。巻物を開くとそこには、他には知られたく無いような情報が記されている。


 なるほどね…


 どうやら、反王派を調べ上げて粛清しようという機運が高まっているという内容だった。王としては国を二分するような内戦が起きれば、他国からの軍事介入を誘う可能性もある為、どうやって収めようかと言う相談がかかれていた。 


 俺は一通り読んで、それを机にしまい込みベッドに行ってボフンと横たわる。


 そうか…困ったな。どうやって収めようとか言われてもな。ルクスエリムも頭の痛いところだ。反王派の調査と粛清するタイミングをどこまで伸ばせるか、あまり動かなければ王に対しての不満が募ってしまうだろうし、腰抜けの王として求心力が弱まってしまうかもしれん。かといって反王派をのさばらせておいても、反乱準備をする時間を与えてしまう。


 そのタイミングと規模などの調整をすればいいのか? それとも全く違う方法があるのか。さっぱり見当がつかない。


 さっき使者には大したこと無いなんて言ったけど、めっちゃ大変だったんだよな。なんでか弱い女にそんな相談をしてくるのか? 大臣や軍部に頼りになる奴はいねえのかよ? ルクセンがそばにいれば相談も出来ただろうけど、ダルバロス元帥とかケルフェン中将はあまりにも真面目そうだしなあ。そもそも騎士団の腐敗の一件で、彼らもお咎め無しと言う訳にはいかないだろう。


 うーむ。俺も誰に相談して良いのか分からない。


 いや…まてよ。そういえば、女神フォルトゥーナと邪神の事をルクスエリムに告げた人が居たって言ったな。賢者と学者連中だっけ? こいつらの話を聞く事ができたら、何かの糸口を見つける事が出来るかもしれない。でも呼び出しは明後日なんだよなあ、そいつらに前もって会って話がしてみたいが。


 そうだ! ギルドマスターのビアレスならなんか知ってるかもしれない。


 そう思い立った俺は、すぐに部屋を出てアデルナの所に行く。


「アデルナ!」


「はい」


「ギルマスを今日呼べないかな! 明日の午前中でもいいのだけど」


「いや、それはいささか無理かと思われます。ギルドにいるならいいですが、いつもいるとは限りませんし。それにも増して、案件が詰まっていれば身動きすらできないかと」


「そうかあ…」


「どうなさいました?」


「ギルマスに聞きたいことがあって」


 するとアデルナが少し考えて言う。


「すぐにと言うのであれば、こちらから伺えばよろしいと思いますよ。聖女様直々ならお時間を開けてくださいますでしょう」


「そう?」


「はい」


「わかった。アンナはどこ?」


「庭で修練をしております」


 アデルナから聞いて俺はすぐに庭に行く。すると人間離れした修練を積む、アンナとリンクシルが居た。最初の頃とは比べ物にならないほどの戦闘訓練だ。怪我をさせても行けないので、俺は庭の縁に座って二人が終わるのを待つ。だがアンナがすぐに気が付いて、俺のもとにやって来た。


「どうした?」


「アンナ! いますぐギルドに行きたいんだけど!」


「わかった。リンク! 修練は一人でやっておけ」


「はい!」


 アンナがリンクシルにそう伝える。部屋に戻り俺とアンナはある程度の装備を身に着けて、馬に二人乗りして聖女邸を出た。俺が前に乗りアンナが後ろで手綱を握ってくれている。まるで王子様にされるようだが、それが女のアンナだと思うとキュンキュンくる。


 俺がドキドキして気もそぞろになってくるとアンナが言う。


「ほら。ちゃんと捕まっていろ」


「うん」


 好き。


 そんな事を思っているうちにギルドに到着した。アンナが馬を括り付けて、二人でギルドの玄関を開けるとエントランスにいる冒険者が全員こっちを見た。


 うっ!

 

 俺が一歩後ろに下がりそうになるが、アンナが俺の手を取って受付に走る。特級冒険者が来た事で、並んでいる冒険者が一斉に道を開けた。受付に一直線に来たアンナが言う。


「ちょっといいか?」


 アンナに言われ、ギルド嬢が頬を赤くしながら答える。


「はい」


 どうやらアンナはギルド嬢から見てもイケメンらしい。だがダメダメ! アンナは俺の!


 そしてアンナが俺を見たので俺はギルド嬢に告げた。


「ギルマスに会いたい。聖女が来たと伝えて」


「は、はい!」


 ギルド嬢は奥に行き、すぐにビスティが飛んでやって来た。


「聖女様! すぐに奥へ!」


 そうして俺達は、エントランスにいる冒険者達とギルド嬢たちの視線を受けて階段を上がっていくのだった。ギルマスの部屋の前に立ってビスティがノックすると、すぐに中からドアが開かれる。


「よくぞいらっしゃいました!」


「どうも」


「すでにヴィレスタンギルドから話は聞いております。とんでもないことが起きたらしいですな!」


 どうやらビアレスも俺の話を聞きたかったらしい。そして俺がビアレスにいう。


「聞きたいですか?」


「それはもう! お願いします!」


「いいですが、私からも頼みごとがあります」


「はっ? わかりました! 出来る事でしたら」


「よろしく」


 俺達はギルドマスターの部屋のソファーに腰かけ、テーブル越しにビアレスと向かい合って座る。そして俺が先に、ビアレスにヴィレスタンで起きた出来事でギルドがらみの事を話す。既にギルドから通達が来ているようなので、話したところで既にビアレスが知っている事だ。


「本当だったのですね」


「とにかく無事に事件は解決しました」


「よかったです。それで頼み事とは?」


「賢者をご存知か?」


「もちろん知っております。ヒストリア王国の魔法使いの頂点でございますから」


「それなら話は早い。その人がいるところに連れて行ってほしい」


「賢者様の所に?」


「はい」


「いつです?」


「今すぐ」


「いまですと!?」


「急を要するのです。それに私達は炭鉱の町タナトスで、犯罪を犯した冒険者を捕らえたのですよ? 本当はギルドのお仕事ですよね? そんな私達がこうして頭を下げているのです」


「……」


 ビアレスが考え込んでいたが、呼び鈴を鳴らしていビスティを呼んだ。


「すまんビスティ。今日の仕事は全てキャンセルだ。スケジュールを組みなおしておけ」


「えっ! 結構スケジュール組むの大変だったんですよ!」


「重要な仕事が入った」


「……わかりました。ではそのように」


「すまんな」


 ビアレスが上着を着始める。どうやら連れて行ってくれるらしい。準備が出来たので俺達はビアレスについてギルドのエントランスに降りた。突然のギルドマスターと聖女、特級冒険者の登場にシンっと静まり返る


 ビアレスは受付嬢に言った。


「これから出る。帰りはいつになるか分からん」


「かしこまりました」


「では聖女様。まいりましょう」


 俺達はギルドを出て馬を駆り、市中を走り始めるのだった。

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