第194話 女エキスチャージ

 これから大変なことが山ほど待っている。出来れば逃げだしたいとも思うが、大好きな公爵令嬢ソフィアが待っている。だから俺は走って走って走り続けなければならない。


 だが! もう俺の女のゲージが底をつこうとしていた。そんな中での、ルクスエリムからの帰還命令はめっちゃくちゃありがたい。王都上空から降りていき、聖女邸が見えてくると俺はデカい声で叫んでしまう。


「聖女邸よ! 私は帰って来たあ!」


 聖女邸の庭にヒッポが降りると、聖女邸の中から皆が飛び出て来た。俺達が馬車を降りると、ミリィとスティーリア、ヴァイオレット、アデルナが走り寄って来る。

 

「みんなあ!」


「「「「聖女様!」」」」


 皆が俺に縋りつき、俺は皆をグッと抱きしめた。


 ああ…ええ匂いやあ。


 そして俺は待ってましたとばっかりに、ミリィ吸いをしてしまう。


 スゥゥゥゥゥ!


 ああ。天国だ! 俺は天国に戻って来たんだぁあ!


「よくぞご無事で!」


「いろいろあったけど、なんとかやり遂げて来たよ!」


「素晴らしいです! 流石は聖女様です!」


 そして次にスティーリア吸いをした。うん! 慣れ親しんだ香りだ。


「書類仕事はぜーんぶ片付けておきました!」


 なんて偉い子だろう! 俺はヴァイオレット吸いを思う存分やった。


 最後にアデルナが言った。


「聖女邸は変わりなく、いつも通りでございます」


 もちろん。アデルナは吸わない。ビッグママといったような雰囲気の年配の女性は、俺の大事な人ではあっても吸う事はない。だが俺はアデルナの手をガシっと握って言う。


「留守を預かってくれてありがとう」


「はい」


 アデルナも目に涙を浮かべていた。だがアデルナが俺から目を落として尋ねて来た。


「そちらの子は?」


 そこにいたのはゼリス。ゼリスはどうしていいか分からずにもじもじしていた。こんな女ばかりの所に連れてきたら、こうなってしまうのは仕方がない。


「マグノリアの弟を救出して来た」


 するとアデルナと他の人らの頭の上にハテナマークが浮いている。


「弟? 男の子?」


「そう。訳があって女装させてた」


「まるで女の子のような可愛らしさ」


 皆がゼリスを見て微笑みかける。まずい…ちっさいイケメンに俺の立ち位置が脅かされてしまう。俺が話を変えるように言った。


「越境して連れて来た」


「えっ! まさか! 他国へ?」


「うん。実はこっそり進入して探し出し見つけて来たんだ」


「なんと危険な事を! ご無事で本当に何よりでございます」


「ありがとう。とにかく成人するまでは、ゼリスもここに住んでもらう事になる」


「かしこまりました」


 そしてヒッポから馬車を外すと、ヒッポは食事の為に天空高く飛び去って行ってしまった。俺達は聖女邸に入り、ようやく自分の部屋へと戻って来る。そしてそのままバフッとベッドに飛び込んだ。


「はぁぁぁぁ。疲れたぁ!」


 ミリィが来て、俺の靴の紐をほどいて脱がせてくれる。そしてマントを脱がせ、あっという間に服を脱がせてくれた。楽になった俺は、ベッドの縁をポンポンっと叩いて言う。


「ミリィ! ここにおいで!」


「はい」


 俺はミリィの太ももに顔をがっちりとうずめる。そこでも思いっきりミリィ吸いを堪能して、そのまま頭を上に向けた。するとミリィは俺の頭をゆっくりと撫でてくれる。


 これこれ! これぇ!


 俺はうっとりしながらミリィの撫でを堪能するのだった。そのままウトウトして、少しの間俺は寝てしまった。目を覚ますと変わらずにミリィが微笑みかけてくれる。


「あ、ごめん。重かったね」


「いえ。聖女様のぬくもりと重さを感じる事が出来て幸せです」


「寝ちゃってた?」


「ほんの三十分程度かと。夕食までこのままお眠りになってもよろしいと思いますが」


 うわーん。ミリィは相変わらず優しいー! 甘やかしてくれる! 部屋には二人しかおらず、俺はミリィに聞いた。


「アンナは?」


「アンナ様とリンクシルは久しぶりに修練をすると言って庭に」


「もう?」


「はい」


「マグノリアは?」


「ゼリスちゃんを連れて館内の案内と、皆の紹介をしていると思います」


 ヤベエ! 小さなイケメンの人気が急上昇しちゃうんじゃないの? 


 俺はスッと身を起こして、ミリィに言った。


「着替える」


「はい」


 俺が久しぶりにクローゼットに入ると、見慣れない服が結構置いてあった。


「これ、どうしたの?」


「いない間にいろんな方がいらっしゃいまして、服やその他の物をいろいろと持っていらっしゃいました」


 ご苦労なこった。まあ王を救ったヒーローなのだから、王派からすれば貢いでおきたい気持ちも分かる。だがこんな事件の真っ只中で、早速貢物をしてくるなんて貴族とは因果な生き物だ。


「軽いのが良いかな」


「はい」


 するとミリィは俺のいつもの室内着を出してくる。だがそれも新しいような気がした。


「これ新しい?」


「アデルナが新調しました。どうせ、男の貴族からもらった物など、聖女様は着ないだろうからと」


 正解。アデルナも良く分かっている。男のプレゼントなんて、そのうち誰か知り合いの貴族の娘にでもくれてやろう。また、最近は自分で服を着付けていたが、やはりミリィの着替えは手際が良くあっという間に終わる。


「館内を周るよ」


「はい」


 俺が執務室へ行くと、スティーリアとヴァイオレットが俺のもとに来て手を引いてくれた。


 そして羊皮紙を開いて見せてくれる。


「孤児学校もだいぶ進んでおります。モデストス神父の所におられる、聖女様に救われた修道士達が尽力していると聞いております」


「そっか。彼女らも元気なら何よりだ」


「後は、ギルドからこういった書類も」


 それを見ると、王城襲撃の一件から王都内の貴族の動きが記されていた。俺が貴族の娘の事を調べて欲しいという意図を理解し、分かれた派閥の力関係や慌ただしく動いている貴族の名も記されていた。


 それで俺は一つの文章をじっと見つめる。


「やっぱり…。最初はここ」


「そのようです」


 そこに記されていたのは、近々司祭クビディタスの教会及び孤児院のガサ入れが始まりそうだという事だ。本格的に反王派の洗い出しを行うつもりだろう。なかなか尻尾を出さない反王派の件も、セクカ伯爵が捉えられた事で大きく進むはずだ。その最初の一件目が、裏で影響を及ぼしているクビディタスの存在が挙げられたのだろう。


「スティーリア」


「はい」


「明日から忙しくなりそう」


「もちろんです」


「だから、今日だけ! 今日だけは皆でゆっくりしよう!」


「はい!」


 ミリィが微笑みながら俺に言う。


「皆でお風呂が先ですか? それともお食事になさいましょうか?」


「お風呂にしよう!」


 もちろんだ! 三度の飯より、女達との裸の付き合いが先に決まっている。ミリィが素早くそれを伝えに下に降りていき、スティーリアとヴァイオレットも自分の部屋に着替えを取りに行った。


 俺も完全復活の儀式を前にして、ウキウキしながら一階に降りていくのだった。

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