第189話 王都からの使者

「お父様!」


 玄関からウェステートが飛び出して来て、シベリオルに抱きついた。シベリオルは愛娘を抱きしめ涙を流すが、それを見た俺も思わずもらい泣きしてしまう。するとそれにつられたのか、リンクシルもマグノリアも涙を流していた。


 それを見つめるルクセンとミラシオンが優しい目で見つめている。


 するとシベリオルから離れてウェステートが言った。


「あの! 王都よりお客様が到着しておりますわ!」


 俺達が王都に通達をしてからしばらく経つが、ようやく使者が来たようだ。


「どちらに?」


「既に取り調べに入っておりまして、今は兵舎にて待機しておいでです」


 するとミラシオンが指示を出す。


「ルベール殿。先に罪人と敵兵を投獄します! ご協力を!」


「は!」


 それを聞いたルクセンが自軍の兵士を呼んだ。


「罪人を牢獄に案内せよ! 取り調べは後ほど行う!」


「「「「「は!」」」」」


 ミラシオンとウィレース、ルベールとエトスが大勢の騎士達を率いて罪人達を連れて行った。そして俺がウェステートに言う。


「使者の所へ」


「はい」


 俺達が兵舎に入ると、そこにいたのは第一騎士団副団長のマイオールだった。騎士達は俺を見ると、一斉に膝をついて挨拶をしてくる。


「聖女様! 第一騎士団が遅ればせながら到着いたしました!」


「これはマイオール卿。良く来てくださいました」


「は! しかしながら、到着したのは第一騎士団の一部となります」


「それは仕方ないです。王都を警護する者がいなくなるわけにはいきません」


「は! そしてルクスエリム陛下からの書簡をお預かりしております!」


「わかりました。まだ戻ったばかりの旅支度ですので、一度平服へ着替えてもよろしいですか?」


「もちろんでございます!」


 俺達は兵舎を出て自分達の部屋へ戻り、アラクネの装備を脱いだり鎧を脱いだりした。そこにウェステートとシベリオルがやって来る。


「すみません。先ほどは見苦しいものをお見せした」


 シベリオルが言うが俺は首を振る。


「親子の再開が見苦しいなどと思いません。お二方の涙に私も心打たれました」


「聖女様が、尽力くださったのだとウェステートより聞きました」


「仕事ですから」


「それ以上だと聞き及んでおります。私に協力できることが御座いましたら、何なりとお申し付けください! この命を捧げる覚悟で臨みます」


「せっかく助かってウェステートのもとに帰って来たのですから、その命大事になさってください」


「ありがとうございます!」


 そしてウェステートがパンパンと手を鳴らすと、メイド達が軽い食べ物を運んで来てくれる。


「本当にありがとうウェステート。今、一番うれしいかも」


「暖かいうちにどうぞお召し上がりください」


 俺達聖女チームは席に座り、暖かい食べ物を口にした。疲れた体に負担がかからないようなものを用意してくれており、ウェステートの気遣いが分かる。


 そしてウェステートに言った。


「ウェステートが私を動かしたから捜査が進んだと思う。今回の事でかなりの事が分かって来るはず。遠征の成果が出て来てホッとしているけどね」


「そう言っていただけるとありがたいです」


 そして俺はシベリオルとウェステートに言った。


「今日は親子水入らず、ゆっくりなさったらどうです? 使者との捜査は私達に任せて良いかと」


「そう言う訳には参りません!」


「いえ。生死が不明だったお父様が、たった今帰っていらっしゃったのです。ウェステートも一緒に居たいと思います」


「聖女様! 私は大丈夫です!」


「ウェステートも、今日は甘えていいから」


「ですが!」


「だめだめ。聖女の命令です」


「わかりました…ありがとうございます」


「詳しい話は後日」


「はい」


 ウェステートとシベリオルが部屋を出て行った。俺達は食事を終え、ルクスエリムから渡された数冊の書簡の封を開く。


 目を通しながら俺はアンナに言う。


「うわあ、諜報部が来るみたい。秘密裏に会いましょうだってさ」


「しかたあるまい」


「あの人苦手なんだよね。なんか薄気味悪くて」


「諜報活動をしているのだ、目立つ奴は務まらん」


「まあそうだけど」


 一通り書簡を読むと、今後どうするのかの指示がかかれていた。全てを読み終わり、俺はふぅっとため息をつく。


「どうだった?」


 アンナが聞いて来た。


「捜査次第。でも私的にはかなり本筋に近づいたと思ってる」


「だな。そろそろ行くか?」


「だね」


 身支度を整えて兵舎に向かう。マイオールは真面目に仕事をしていたようで、既にリューベンや不正を行った騎士達の調査も終えていた。兵舎のブリーフィングルームのような場所に通され、俺はマイオールと対峙する。するとマイオールが尋ねて来た。


「どのように進めましょう?」


「人がそろってからの方が良いでしょう。ミラシオン卿とルクセン卿が戻られたら話をしたらよろしいかと。誘拐されていたシベリオル卿も無事保護しましたし」


 すると熱血マイオールが苦笑いしながら言う。


「まったく…聖女様は凄い」


「仕事ですから」


「帝国軍を追い払いワイバーンを倒し、第三騎士団の謀反と王城襲撃から生還しただけでも驚きです。それなのに遠征してすぐに不正を見抜き、誘拐された辺境伯のご子息を保護するなんて。まさに神業、女神フォルトゥーナ様の寵愛を一身にお受けになっているようです」


「ですが、第四騎士団の副団長ドペルを逃しました」


「いや。それですら、敵国の関与を確定づける事実となりました。それで上層部では攻め方がはっきりしたようです。我々軍部にも指針が降りてくるでしょう」


「それは良かった。とにかく情報は山積みです」


「わかりました」


 そこにようやくルクセンとミラシオンがやって来る。マイオールと挨拶を交わして全員がテーブルに着いた。そして第一騎士団が連れて来た文官達が側に座る。これからの捜査の道筋を決めるのだが、ここからは一字一句文官達が記録していくのだ。


 マイオールが尋ねてくる。


「ミラシオン様。戻って休まれていないようですが、このまま初めても?」


 すると真面目なミラシオンが答える。


「不要。ですがルクセン様はお休みになってもよろしいのでは?」


「ミラシオンよ。年寄り扱いするでないわ! ワシも立ち会わせてもらうとするよ」


「は!」


 マイオールが言う。


「それでは始めます。皆さんが知っている情報を全て話していただき、その話を精査したうえで取り調べをさせていただくようになります。異議はございますでしょうか?」


「ありません」

「無い」

「もちろんわしもじゃ」


 そして俺達は捜査のスケジューリングをし始めるのだった。これから数日の打ち合わせと取り調べの内容次第で、俺は恐らく遠征の任から解かれるだろう。それだけにめっちゃ真剣に会議に臨むのだった。

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