第185話 魔獣討伐での失態

 その魔獣を見た俺達は、驚愕の表情を浮かべ言葉も無かった。ミラシオンもルクセンも見たことが無いらしく、リンクシルもポカーンと口を開けてみている。


 するとアンナがチャリッと剣を掴んで言った。


「討伐開始だ」


 俺が慌ててアンナに言う。


「えっ! うっそ! あれを討伐するの?」


「ああ」


「あれ、なに?」


「ワーム。と言う魔獣だ」


「大きすぎない?」


「何も臆する事はない。ドラゴンに比べれば遊びみたいなものだ」


「弱いの?」


「問題ない。A級が三パーティーもいれば討伐出来る相手だ」


「三パーティー? うちら一パーティーだし、そもそも初心者だし」


「ああ、そう言う事か。それなら問題ない、わたし一人でやる」


「危ないよ」


「危なくない」


 そんな問答をしていたら、リンクシルが言った。


「気づかれたみたいです」


 するとアンナがバッと岩影から飛び出した。そのスピードにワームはついていけないのか気づいていないようだ。アンナは一気にワームの尻尾の先に剣を突き立てる。


 シャァァァァァァァ!


 ワームはくるりと振り向いて、いっきにアンナに飛びかかった。


 まずい。アンナには身体強化も施してないのに!


 俺は思わず飛び出してしまった。するとワームの尻尾が俺に向かってブンと振られた。


「まず! 金剛!」


 咄嗟に自分の体に金剛をかけたが、その力はすさまじく俺は大きく飛ばされてしまう。それを見たリンクシルとミラシオンとルクセンまで飛び出して来てしまった。三人は剣を構えてワームに飛びかかって行く。


 するとアンナが叫ぶ。


「止まれ!」


 くるりと振り向いたワームの口から何かが吐き出され、ミラシオンに向けて飛んだ。アンナから指示を受けていたので、辛うじてミラシオンは飛びのく事が出来た。だが液体の一部が左腕にかかったようだ。


「くっ!」


 俺が立ち上がろうとすると、金剛をかけたにも関わらず足が折れていた。


「痛っ!」


 俺はすぐさまヒールをかけて足を治すと、そこにアンナがやってきて俺を抱き飛び去った。俺がいた場所にワームが吐いた液体が降り注ぐ。


「あれは毒だ」


「アンナぁ、ごめんよ!」


「黙って見てて良かったんだよ」


 着地して俺はアンナに強化魔法を唱える。


「筋肉増強! 脚力上昇! 敏捷性上昇! 思考加速!」


 まだ途中だったが、アンナはダッ! と走り出してワームの頭に飛びかかる。どうやらワームがルクセンに向かって毒液を吐こうとしていたようだ。飛びあがったアンナは、口の下から頭に向けて剣を突き通した。そしてアンナが飛びのくと、ワームが倒れて動かなくなる。


「聖女!」


 アンナが呼ぶので見ると、ミラシオンの腕から肩にかけて紫色に腫れあがっていた。俺はすぐにミラシオンに向けて魔法の杖をかざした。


「毒解除! 組織再生! メギスヒール!」


 シュゥゥゥゥ! と音をたててミラシオンの体が治っていく。みるみる腫れが収まり肌色に戻った。


「ふぅ」


 俺が一息ついて腰を下ろすと、ミラシオンが俺に礼を言う。


 するとアンナが言った。


「聖女がいなかったら死んでたな」


「ありがとうございます」


 だが俺の方が頭を下げる。


「ごめんなさい。私が飛び出さなければこんなことにはならなかった」


「いえ。毒を浴びたのが聖女様でなくて本当に良かったです」


 そこにルクセンとリンクシルもやって来た。そしてルクセンが言う。


「アンナよ。わしを庇ってくれたようじゃな、礼を言う」


「ルクセン卿に何かあれば、聖女の目標が遠のいてしまうのでね」


 アンナが嘘をつかずに本音を言ってしまうとルクセンが笑う。


「わーはっはっはっはっ! 全ては聖女様の為と言う事か!」


「すまんがそうだ」


「わーはっはっはっはっ!」


 ルクセンが本当に愉快と言った感じで腹から笑っている。そしてリンクシルがアンナに謝った。


「ごめんなさい。止められなかった」


「問題ない。説明が足りなかった」


 戦いは一瞬だったが、俺の不用意な動きのせいで皆を危機に陥らせてしまった。魔獣討伐の難しさを改めて知る事になる。そして俺はアンナに言った。


「アンナがソロで魔獣に挑む理由が分かった」


「ふっ、まあそういうことだ」


 アンナは魔獣を狩るにあたり、仲間の援助などいらないのだ。むしろコミュ障がたたって、仲間が危険に陥る可能性の方が高い。なぜ冒険者パーティーを組まないのかを、こんなところに来て知る事になるとは思わなかった。


 ルクセンが言う。


「で、どうする? あの巨体は持ち帰れん」


 そこで俺が言う。


「ちょっと待って」


 俺は魔獣の笛を吹いた。すると天空からマグノリアが操るヒッポが降りて来る。俺はマグノリアに行った。


「えっと、これを麓まで運べるかな?」


 マグノリアが答えた。


「高くは飛べないようですが、いけるようです。怖い魔獣を倒してくれて喜んでいるみたいです」


 ヒッポを見ると、ワームの頭をゲシゲシと蹴っ飛ばしていた。どうやらさっきビビらせたことを根に持っているらしい。


「じゃあお願い」


「はい」


 そしてヒッポは前足の鋭い爪で、ワームの首あたりを抑える。最初は重そうにバタバタと羽ばたいていたが、そのうち空中に浮いて山を下って行った。どうやら重くて高く飛ぶ事は出来ないらしい。


「じゃあ私達も降りましょう」


「うむ」

「はい」


 そうして俺達の魔獣討伐はあっさり終わった。鉱山の麓の広場に降りると、炭鉱夫の人だかりができていた。その先にワームの死体とヒッポがいる。


「ちょっとすいません」


 炭鉱夫をかき分けながら前に行くと、ヒッポがようやく警戒を解いた。


 するとミラシオンが言う。


「だれか! 馬車を用意してくれないか! 金は払う!」


 数人の炭鉱夫が走って行った。しばらくすると鉱石を積む用の頑丈な荷車が来た。そしてアンナが言う。


「全部は乗らないか。なら半分に斬るからマグノリアがギルドに半分持って行ってくれ」


「はい。それなら普通に飛べます」


 アンナが二つに切って、頭の方を荷車に乗せ体を折りたたむ。残りはヒッポが掴んで飛んで行った。半分になった事で高く飛ぶ事が出来たようだ。


 そして炭鉱夫たちが口々に礼を言って来た。


「立ち入り禁止にいた魔獣を狩ってくれてありがとう!」


「これで上の鉱山にも行けるぞ!」


 炭鉱夫達は喜んで俺達に礼を言って来た。


 馬で荷車をギルドまで持って行くと、ギルドの前にも人だかりができていた。俺達がかき分けていくと、ヒッポとワームの半分がそこにいた。


 アンナがマグノリアに話しかけると、冒険者達から感嘆の声があがる。


「やはり、特級冒険者の仲間はすごいなあ。ヒポグリフを使役するなんて見た事ねえ」

「しかも、あんな特大ワームを狩ってくるなんてな。凄いパーティーだ」


 いや。アンナ一人でやったんだけどね。


 ギルドからギルドマスターが飛び出して来て言う。


「もう狩って来たのですか?」


 するとアンナが言う。


「たかがワームだ」


「たかがって…」


「素材は分解して全部売る。焼いた頭蓋を領主邸に運びたい、それと荷車と馬を貸してくれた炭鉱夫に売った金から支払う」


「わかりました。手配しましょう」


 そしてギルドマスターはギルド員に指示を出して行く。俺達はギルドに入って、受付で討伐証明を受けた。そしてアンナが受付嬢に言う。


「金は後で受け取りに来る。まずは一番早く頭蓋が欲しい」


「わかりました」


 俺達が飲み物を頼み、しばらくそこで待っていると準備を終えた事をギルド嬢が伝えに来た。


 そして俺が言う。


「いろいろありましたが出そろいました。これから、領主邸に行きましょう」


「うむ」

「はい」


 ルクセンとミラシオンが頷いて、俺達はギルドを後にするのだった。

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