第183話 ギルドへのお願い
ギルドは大勢の冒険者を向けて来た。おかげで罪人を縛って連れていく事が出来たし、死体を数台のリアカーに乗せて運ぶ事が出来た。鉱山都市に着いた俺達は、いったん囚人達をギルドに連れて来る。
それを見たギルド嬢が焦っていた。
「魔獣狩りに行っていたのでは?」
アンナがぶっきらぼうに答える。
「不正をやっている奴らがいたのでな、しょっ引いて来た。そして外のやつらはおまけだ」
アンナの説明ではギルド嬢がちんぷんかんぷんのようだったので、俺がもう一度説明する事にした。
「冒険者が辺境伯の息子さんを誘拐して鉱山に連れて来たんだ。明らかに不正な事案だったので、捕らえて連れて来たんだけどね。やっている事が大きすぎてね。敵国と内通していたようなんだ。それで冒険者の力を借りてここに連れて来たってわけ」
「それでは騎士団に報告を!」
「あー、まってまって! 出来ればギルドマスターと話がしたい」
「わ、わかりました。すぐに話を繋いでまいります!」
しばらくするとギルドマスターが会うと言い、俺達は奥の部屋に通された。
「すみません。ギルドマスター」
「いえ。特級冒険者の頼みとあっては聞かざるをえませんので」
そしてアンナと俺、ルクセンとミラシオンがソファーに座った。奥のテーブルから椅子を持って来てギルドマスターが腰を掛ける。
「それで、あれはいったい?」
ギルドマスターの部屋のガラス窓から、リアカーの死体を指して言う。
俺とルクセンとミラシオンは目を合わせて頷いた。正体を言うべきと判断する。
「実は我々は冒険者ではない」
ミラシオンが言うと、ギルドマスターが目を丸くする。そして俺がつけ足すように言った。
「特級冒険者はここに居るアンナ一人で、私達は違うんです」
「アンナさんはもちろん知っております。では…あなた方は一体?」
ミラシオンが前に身を乗り出して言う。
「もし可能であれば、ここだけの秘密にしてもらえるだろうか?」
ギルドマスターはチラチラと俺達を見て深く頷いた。
「こちらにいる御仁は、ヴィレスタン領主のルクセン辺境伯であらせられる」
「ええ! すみません! このような高い位置で!」
そう言ってギルドマスターは床に膝をついた。だがルクセンが笑いながら言う。
「やめてくれ! 欺いていたのは我の方、とりあえず椅子に座ってくれ!」
「は、はい」
そして話を戻しミラシオンが今度は俺を指した。
「それで、こちらのお方が…」
「はい」
「聖女様だ」
・・・・・・・・・・
「えっえええええええええええ!」
そう言ってギルドマスターはジャンピングして俺の前に頭を下げた。
「こ、これは聖女様! 我が国の英雄であり百年に一度現れるという、女神フォルトゥーナ様の神子であらせられるお方! 帝国を討ち払った武勇伝はこちらにも届いております!」
いちいちびっくりしてたら話になんねえ。
「あ、まずは椅子におかけになってください」
「か、顔をあげる事が出来ません!」
いや、そう言うのめんどくせえから。
「いいのです。お話を聞いてくださいますか?」
「はい!」
ようやく話をする姿勢が出来た。ミラシオンが話はじめる。
「実は我々は国家反逆罪の罪人を捕まえたのです」
「ではすぐに領主様へ報告を」
するとルクセンが言った。
「いや。ワシの身内をさらった重罪人である。ヴィレスタンまで連れていく必要がある」
「それならなおさら」
「お主は、ここの領主と直に話を通しておったようじゃ」
「はい。大きな案件は領主様を通すように言われております」
「なるほど。そこで聞きたいのじゃが、ここの領主は信頼に値する人間か否かを知りたい」
「領主様はとても出来た方だと思われます」
「ふむ。ギルドでは怪しい話は聞いた事がないか?」
「ございません」
するとアンナが俺に耳打ちした。
「嘘じゃない」
なるほど。そして俺が言う。
「ギルドマスターの見立てではと言う事ですよね? では、ここからがお願いなのですがよろしいですか?」
「ええ」
「じきに全員ヴィレスタンに連行する予定ですけど、捕らえた罪人をギルドの牢獄で預ってほしい、」
「えっ? それは何故です?」
「その前に、私達はここの領主が信頼のできる人間かどうかを見極めたい」
「なるほど」
「そこで頼みです」
「ええ」
「このまま冒険者として我々が鉱山の魔獣とやらを討伐しましょう。敵国の兵士はその領域に気配を消す魔道具で潜んでいました。そこを調査するにも魔獣が邪魔なのですよ」
「で、では! 冒険者の助っ人を出します」
するとアンナが鋭い目つきで言った。
「いらん。足手まといだ」
「あ、失礼しました! 特級冒険者にいらんことを言いました」
そして俺が続ける。
「討伐の証拠を持ってきますので、そのまま冒険者として領主に御目通り願えますか?」
「そこで、見るという事ですね?」
「そう」
「わかりました。ですが、あれだけの囚人を預かれるのは三、四日です。食料も不足します」
「いえ。今はまだ正体不明の輩で、正式な捕虜とはなっておりません。水でも与えて転がしておいてください」
「…わかりました」
ギルドマスターが微妙な顔をしたが、聖女としてあるまじき発言だったかな?
そしてミラシオンが言う。
「監視の為にウチの騎士を置いて行く」
「はい」
更にルクセンも付け加えた。
「ギルドマスターよ。もちろんタダでとは言わん! ヴィレスタンからギルドに金を払う」
「そう言っていただけると助かります」
話は決まった。死体の処理など細かいことを調整した後で、俺達は牢獄へ様子を見にいく事にする。ギルドマスターと共に牢獄に来ると、傷ついた敵兵や目覚めた奴らが檻から見ていた。敵意むき出しの視線がザクザクと突き刺さって来る。
俺達が奥に進んでいくと、セクカ伯爵の独房が見えて来る。その前にウィレースと騎士三人が立っていた。
「何か話した?」
「いえ。ずっと黙ってます」
そして俺はセクカに言った。
「まあ黙っていればいい。どっちにしろ、あなたの処罰はだいたい決まっている」
しかしセクカはうつむいたままブツブツ言い続けるだけだった。そして俺はウィレースに言う。
「ウィレース。ギルドマスターとは話がついているので、しばらく監視をお願いしたい」
「もちろんです」
するとギルドマスターが言う。
「ルクセン様ともお話がついておりますので、冒険者にも手伝わせましょう」
「助かります」
話がついたので、俺とアンナとリンクシル、ルクセンとミラシオンがエントランスに戻って来た。するとマグノリアとゼリスがギルド嬢に可愛がられていた。可愛いので仕方がない。
「お待たせマグノリア」
「はい!」
「じゃあもう一度、鉱山に飛んでもらおうかな」
「わかりました!」
俺達はそのままギルドを出て、郊外で待つヒッポの元へと行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます