第182話 国際犯罪の現行犯

 坑道付近は騒然としていた。坑道から出て来た炭鉱夫達も、何事かと遠巻きに眺めている。とにかくそこら中に倒れている兵士の処理をするには、この人数では足りなかった。先ほどからセクカ伯爵がわめき散らしているが、誰も聞く耳を持たず荒くれ冒険者も抵抗をやめて静かになった。


 俺達は、その場で簡易な尋問をする事にした。ミラシオンが再びセクカに怒鳴る。


「セクカ伯爵! なんとか言え!」


 ミラシオンが言うも、セクカはブンブンと首を振って人違いだと言い張る。縛られているのに、めっちゃ横柄な態度で居直っていた。


「知らん! と言うより、冒険者風情が馴れ馴れしくするな」


「犯罪を起こしておいて何を言うか!」


「犯罪? 何の事だ?」


 するとそこにルクセンの肩を借りた、シベリオルがやって来る。


「セクカ卿。言い逃れは出来んよ」


「あれ? 生きてた?」


「一度は死んだかと思ったが、こうして生き延びているようだ」


「そんな馬鹿な! 深々と剣を差し込んだはずだ」


「そのようだが、生きている」


 セクカはまるで幽霊を見るような目で、シベリオルを見つめている。そして次の瞬間ガクリと肩を落として俯いた。


「死にぞこないが…」


「あなたも貴族なら潔く心を決めて白状した方が良い」


「……」


 何も言わずに俯くセクカだったが、ミラシオンが鞘に入った剣でグイっとセクカの頭を起こす。


「答えろ。ヒストリアの貴族たるもの、往生際くらい矜持を示せ」


「な、なんだ! 偉そうに!」


 そう言われたミラシオンが、帽子を脱いでつけ髭を取った。その顔を見た、セクカは今にも目を飛び出させそうになりながらミラシオンを見つめた。


「申し開きは出来んぞ」


「ミラシオン…」


 そしてシベリオルの後ろから、ルクセンが顔を出しフードを取って黒い眼帯を外した。


「ヴィレスタン辺境伯…」


「よくも、うちの倅を可愛がってくれたのう」


 ブワっとルクセンから気が発せられる。その気はまるで大型魔獣のような圧があった。


「あ、あの。それは…」


 セクカの顔がどんどん青ざめていき、ブルブルと震え出してしまった。しばらくは言葉を発せないでいたが、ブツブツ何かを呟き始めた。


「ぶつぶつぶつぶつ」


「なんじゃ? はっきり言うてみい」


「あの女…」


「なんじゃ? 聞こえんぞ!」


 ビリビリビリっと空気が張り詰める。すると尻を叩かれたようにセクカが言った。


「あの女だ! あの女が力を増して、私の人脈を全て壊したのだ!」


「あの女?」


「ああ! 聖女だ! あいつが聖女に認定されてからと言うもの、商売あがったりで大物貴族達とのパイプも切れた。疫病神が現れてこんな事になったのだ!」


 まあ俺が孤児の不正売買ラインを壊したからな。コイツからしたら、俺は目の上のたんこぶだったろうな。どうしてやろうかと思っていると、ミラシオンが剣で思いっきりセクカのほっぺを叩いた。


「げぶっ!」


「黙れ! 不敬である! 言うに事欠いて聖女様の事を!」


 うなだれるセクカを見て俺はミラシオンの腕を引いた。


「待ってください」


「しかし…」


「大丈夫です」


 俺はセクカの前に行って仮面を外す。


「うっ! き、貴様…あなた様は!」


「何やら私が邪魔をしたようですみません。ところで、私のそれとシベリオル卿の件は何か関係が?」


「あ、ぐ。どうりでシベリオルが生き返るわけだ…ぶつぶつ」


 セクカが口を閉じた。痛めつければ吐くかもしれないがめんどくさい。そこで、俺はくるりと振り向き敵兵の指揮官に向かって言う。


「あなたは話してくれるかな?」


「あ、そ、それは」


 俺は指揮官の前でパシィッ! と電気を弾けさせた。


「話してくれるよね?」


「わ、分かった…」


「あなたはどこの誰?」


「……」


 俺が杖を目の前に出す。


「東スルデン神国の軍人だ」


「名前と階級」


「名前は…ルーピン。階級は東スルデン神国東師団第六中隊長だ」


「東スルデンの中隊長が、わが国で何をしているのかな?」


「……」


パシィッィッィ!


「わかった! 身柄を引き取りに来た! 辺境伯にゆかりのある人物の身柄を!」


「そこの人?」


「顔は知らない。だがセクカ伯爵に接触して、連れてくるように言われている!」


「誰に?」


「上だ! 交渉材料に使うから連れて来いと言われた! 後は何も知らん!」


 俺がアンナに目配せをすると、俺の耳元でアンナが囁く。


「嘘は言っていない」


「そう…」


 そして俺はルーピン中隊長の目線まで降りる。親父臭くてたまらんが、聞く事は聞かないといけない。


「どこに隠れていた? 気配が読み取れなかった」


「炭鉱の上だ。立ち入り禁止地区に入り込んでいた」


「どうやって気配を断った?」


「魔道具だ。岩壁に潜み、それをかぶっていた」


「なるほど」


 俺はルクセンを見る。すぐに増援を呼んで捕虜として確保しないといけない。だがここを放って助けを呼びに行く事も出来ない。この地の領主が敵か味方か分からないからだ。


 するとそこに冒険者パーティーがやって来た。するとアンナがその冒険者パーティーに近寄って行く。


「すまんが頼みがある」


 冒険者達はアンナの特級バッジを見て怯んだ。だがアンナはかまわず言った。


「ギルドには大きな貸しがある。この地のギルドマスターに言って、冒険者の増援を依頼したい。わたしの名はアンナだ。特級冒険者のアンナと言ってくれれば分かる」


「わ、わかった! 丁度ギルドに行く所だ。確かに伝えるよ」


「すまない」


「特級冒険者の役に立てるならお安い御用だ」


 そう言って冒険者達はあたりを見渡し、慌てて山を駆け下りていくのだった。

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