第180話 謎の集団の挟撃

 アンナが大男ににじり寄りながら、大きな袋の事を問いただす。だが大男はしらばくれるように、明後日の方向を向いて言った。


「あんたに何の関係がある? 特級だからって俺達の事を話す必要はないだろ?」


「ギルドでも不正があれば報告の義務がある。何かおかしなことをやっていないなら見せろ」


 すると他の男が言った。


「おいおい。いくら特級だって他のパーティーのすることに首を突っ込むのかよ?」


「任意ではあるが、同じ仕事を受けた冒険者同士で情報交換はありだろう?」


「随分つっかかってくるな。何様だよ」


 なるほど。いくら怪しいからって言っても、冒険者同士でやっていい事と悪いことがあるのか。だがアンナは引き下がらなかった。


「これはもちろんギルドを通しているんだろうな? お前達がここにきて何かをやっていた事はギルドに報告してもいいな?」


「それは…」


 相手が言葉に詰まった。どうやらギルドとは関係なくこれをやっているらしい。


 すると男達の後ろにいたフードの人物が、近くの男の耳に何かを囁いた。するとその男が前に出て来て言う。


「いくら欲しいんだい?」


「どういうことだ?」


「どうやらあんたらは俺達の弱みを知っているようだ。こうして俺達をゆすりに来たんだろう? だが俺達にもいくらか渡せる準備がある。俺達もただで見逃してもらうつもりはない」


 するとアンナが考え込んでしまった。どう答えたらいいのか迷っている。大男らは俺達がゆすりに来て、金をかすめ取ろうとしていると思ってるらしい。そこで俺が前に出る。もちろん俺は仮面をかぶっているので正体は分からない。


「いくらなら出せる?」


「お、物わかりが良いねえちゃんだ。とりあえず金額を言って見ろ」


「金貨百枚」


「きっ…な! 馬鹿にしてやがるのか! 金貨百枚なんぞ用意できるわけねえだろ?」


「くれるんじゃなかった?」


「ちょ、ちょっとまて」


 男は後ろに下がり、フードの人物に何やら訪ねている。そして再び俺達の前にやって来た。


「わかった。金貨百枚だな! 鉱山を降りたら渡してやる!」


「随分太っ腹。よっぽど知られたくないんだね? 私ちょっと欲が出て来ちゃったな」


「な、なにを?」


「どうやらその袋、金貨百枚より価値があるみたいだね。金貨百枚いらないからその袋を頂戴」


「はぁ? おまえ何言ってんだ?」


「その仕事ごと、こっちで受け取ってやるって言ってるんだ。袋を置いてさっさと失せな」


「このやろう! 黙って聞いてりゃ図に乗りやがって! 怪しげな仮面なんぞかぶってなんなんだ?」


「ん? やる? 特級と?」


「う、そ、それは…」


 だが男は明後日の方向を見ていた、大男も何かに気が付いてにやりと笑った。


「やめだやめだ! 金も渡さねえし袋も渡さねえ!」


「ずいぶん強気だけど?」


「後ろを見てみろ」


 俺が後ろを振り向くと、鉱山の反対側の街道から集団が近づいて来ていた。しかも十人二十人の数では無かった。


「仲間か?」


「まあそんなところだ! いくら特級でもあの人数は相手に出来まい」


 ぞろぞろと鉱山を降りて来る人らの全容が分かって来たが、ざっと百人はいそうだった。皮の鎧を着た冒険者風だが、何か雰囲気がおかしい。


 俺達が動かずにじっとしていると、その皮の鎧を着た集団は坑道入り口前の広場に集まって来た。それを見たミラシオンが俺にこっそり耳打ちする。


「あれは、盗賊や冒険者の類ではございません」


「えっ? なんです?」


「隊列を組む盗賊や冒険者なんていませんよ」


 なるほど、そりゃヤバい。


 俺達がこそこそ話をしているのを、動揺していると取った大男が言う。


「ギルドに報告されるのもまずいしな…」


 大男がフードの男に耳打ちすると、フードの男は指をさして何やら指示を出している。俺達は突然の不利な状態に陥り身動きが取れなくなってしまった。


 大男は大軍の奴らの所に歩いて行く。そして何やら俺達を見て説明をし始めた。するとその大軍は全員が剣を抜き始めたのだった。


 俺は身内に叫ぶ。


「全員私の所に固まって!」


 ざっと集まって来たので、俺は皆に身体強化呪文を唱えようとするが大軍が一気にかかって来た。


「あの冒険者を殺せ!」

「うおおおおおお」

「逃がすな!」

「皆殺しだ!」


 大軍は殺気だち、俺達を本気で殺そうと走り寄って来る。すごい勢いで走って来るので魔法をかける時間が無く、ミラシオンが大声で叫ぶ。


「逃げろ!」


 俺達は大軍から逃げるため、前の冒険者を斬って通ろうとした次の瞬間だった。


 ズッズゥゥゥン!


 大軍の上に突然大きな岩が落ちて来て、そこそこの人数を押しつぶした。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「なんだ!」

「魔法など詠唱して無かったぞ!」


 もちろん俺は岩を飛ばす魔法など使えない。だが俺は視線を上げて見る。


「ヒッポ…」


 上空にはマグノリアとゼリスを乗せたヒッポが飛んでいた。どうやらヒッポが大岩を持ち上げて大軍の上に落としたらしい。敵の冒険者達もそれを見て動揺している。


 マグノリア! グッジョブ!


 今のうちだ。


「筋力向上、筋力最向上、敏捷向上、敏捷最向上、脚力向上、脚力最向上、思考加速、金剛!」


 アンナとリンクシル、ルクセンとミラシオン、ウィレースと三人の騎士がいろんな色の光に包まれていく。そして最後に更に重ねて唱えた。


「自動回復!」


 ピンクに輝いて皆が剣を抜いた。


 俺が皆に指示を出す。


「シオンと部下達はこいつらを取り押さえて! アンナとリンクシルとセン! 私とあの大軍を!」


 二手に分かれた。ミラシオン達は訓練されている上に俺の身体強化魔法を浴びた騎士、三流冒険者などに後れを取る事はないだろう。問題はあの百名近い兵隊達だ。


俺達四人は大軍に囲まれるより早く、斬りかかっていくのだった。

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