第179話 坑道で待ち伏せ
俺達が受けた依頼は、鉱山奥に潜む巨大魔獣の討伐だった。これを受ける事で、特級冒険者として堂々と鉱山に向かう事が出来る。俺達は食料を買い込み、すぐに鉱山に向かうのだった。
鉱山に向かう道中、炭鉱夫とすれ違うが誰も俺達を怪しむ者はいない。時おり挨拶をして来る者すらおり、完全に冒険者だと思われているようだ。そもそもこの鉱山には、魔獣が出没する事もあるらしいので冒険者は珍しくないようだ。
入山して中腹あたりに山小屋があり敵の情報に乏しい俺達は、いったんそこに入って炭鉱夫と話をすることにした。
座っていると、逆に炭鉱夫から話しかけられる。
「魔獣の討伐ご苦労さんだね」
アンナはこんな時、人見知りを全開で発揮するので俺が答える。
「ええ。炭鉱夫の方々が安心して鉱山に潜れるように」
「それはありがたい」
「他にも冒険者は居るの?」
「今は二パーティーが来てるんじゃないかな?」
「見た?」
「いや、見てないが常に冒険者は居る。魔獣に炭鉱へ入られたら危険だからなあ」
「そうだね」
「あんたらみたいな大きなパーティーが来るのは珍しいよ」
「鉱山周りもそうだけど、奥にいる大きな魔獣を狩りにいくから」
「ああ! 立ち入り禁止地区の?」
「そう」
「そいつは助かるねえ。上にはもっといい坑道があるんだが魔獣が邪魔をしているんだ」
「なんとする。それで、冒険者以外には炭鉱夫だけ?」
「そりゃ、こんなところに来るのは炭鉱夫しかねえべ」
「まあそうか」
そして俺はアンナに目配せをする。
「嘘は言ってない」
「小屋の中に怪しいのは?」
「いない。おそらく全員炭鉱夫だ」
それを聞いてミラシオンに言う。
「そろそろ行こう」
「ああ」
俺達は冒険者のようにふるまい、その山小屋を出た。そしてひとけの無いところで言う。
「怪しい情報は見えて来ませんね」
ルクセンが答えた。
「夕方まではまだ時間がある。恐らくは一歩先についたのかもしれん」
「では、作戦通りに」
俺達は北坑道に向かった。それから三十分ほど登ると、炭鉱の入り口が見えて来て周辺の立地を確認し始める。もちろん冒険者なので、魔獣の気配を探っているように見えるだろう。安全を確保してくれる冒険者パーティーなので、炭鉱夫は誰も怪しんでいなかった。
すると炭鉱夫が話しかけて来た。
「このあたりを守ってくれる人らかい?」
「そう」
「助かるね。坑道内に魔獣が入らんように頼む!」
「わかった」
そして俺達は坑道から離れ陣形を整えていく。炭鉱に出入りするのは炭鉱夫だけで、他に怪しいものはいないようだった。
夕刻に差し掛かった頃、アンナが俺に言う。
「そろそろだ」
「わかった」
そして俺はルクセンやミラシオンに警戒態勢を取るように言う。
「あれが、何か感じたのじゃな?」
ルクセンが言うあれとはアンナの事だ。
「そうです。十分警戒を」
「うむ」
ミラシオンも自分の部下に伝えた。炭鉱入り口の上にある森に潜み、下を見ていると明らかに炭鉱夫じゃない奴らがぞろぞろとやって来た。
「来た」
「ああ」
俺はしっかりと魔法の杖を握りしめる。
「どけどけ!」
偉そうな大男が鞘に入った剣を振りまわして、炭鉱夫達を脅して避けさせる。炭鉱夫も仕方なく、脇に逸れてその集団をやり過ごした。それを見て俺が言う。
「あからさまだ」
するとミラシオンが答える。
「恐らく、隠すつもりもないのでしょう」
そいつらを見ていると、大きな袋を担いでいる奴もいた。集団は荒くれものといった感じで、とてもガラが悪そうだ。
「アンナ。あれ」
「ああ」
どうやらギルドでアンナに喧嘩を吹っかけて来た奴も混ざっている。と言う事はアイツらは冒険者なのだろうか?
「冒険者かな?」
「そのようだが」
そして、集団は北坑道前に陣取り座り込んだ。八名ほどの人数で、魔獣討伐をする訳でもなくただそこにいる。
するとアンナが言う。
「聖女は仮面をつけろ」
俺はあらかじめ用意していた仮面をカバンから取り出してつけた。
「ミラシオン卿とルクセン卿はフードを深くかぶるように」
「わかった」
「うむ」
「接触する」
アンナの指示で俺達は坑道の上からぐるりと回り、坑道の前へとやって来た。そしてアンナが怪しい冒険者に聞いた。
「おまえ、こんなところで何してる?」
アンナにやられた冒険者が、アンナに声をかけられて顔を青くする。
「う、うお! なんでお前がここに」
「仕事だ。そっちは?」
「も、もちろん仕事だ」
「これで坑道の護衛をしているつもりか?」
「しらねえよ」
その男は尻込みするように奥へ下がって行った。もちろんアンナの力量は知っているので、下手に手を出してくる事はない。他の冒険者もアンナの事は知っているようで何も言わなかった。
そんな時だった。
「ナギア。匂いがする」
リンクシルが俺に言って来た。
「どの人?」
「奥のフードをかぶった人」
なるほど。追手が来ているとも分からずにおめおめとここまで来たわけだ。だがフードを深くかぶっているため、表情をうかがい知る事が出来ない。
俺は事前に決めていた、対象を確認した時の合図を皆に送る。
「山の天候は変わりやすい。雨とか降らないと良いけど」
すると全員がピリピリとした気配を漂わせる。アンナだけが平常心を保って、冒険者を前にポーカーフェイスを決め込むのだった。
そしてアンナが聞いた。
「もちろん護衛の依頼できたんだろ? もしくは魔獣討伐か? こんなところでたむろってていいのか?」
すると先頭の大男が言った。
「いや。あんたが特級なのは知ってるけどよ、俺達は俺達に依頼をくれた人の為に来てるんだ」
「なんの依頼だ?」
「そりゃ教えらんねえ。特別な依頼なもんでね」
「特別な依頼を受けて、お前達はわざわざ鉱山に来たのか?」
「…そうだ」
明らかに挙動不審だ。するとその男達が持って来た袋がかすかに動いた。冒険者の一人が、その袋を蹴ると静かになる。明らかにおかしかった。
アンナが聞く。
「その袋、なんだ?」
聞かれた男達は一斉にしーんとした。どうやら一番つかれたくない部分を突かれたらしい。アンナは平然と立っているが、男達の額にはじりじりと汗が浮かび始めるのだった。
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