第171話 重要情報を得て
教会でやった、治癒に伴っての聞き込み調査は順調だった。市民からはいろいろな目撃情報が寄せられ、シベリオルだけでなくドペル副団長の足取りなども見えてきたのだ。病気が治った市民には喜ばれるし、一石二鳥の策にルクセンも喜んでいる。
会議室に主要メンバーが集まって話をしていた。
「ミラシオンには悪いが、こりゃ本当に名案じゃった」
ルクセンが言うそれに、ミラシオンはバツが悪そうに答える。
「それは良かったです」
「流石は聖女様と言ったところ。ルクスエリムからの書簡では、普通の修道女ではないと聞いておった。参謀閣下も真っ青と言うのは大袈裟ではないですな」
ルクスエリムは俺の事を何だと思っているんだろう? かなり男勝りのキャラクターとして伝わっているらしい。余裕のようでも俺は結構ヘトヘトだ。いずれにせよ結構重要な証言も飛び出したので成功だといえる。
俺が褒められたことで、なぜかアンナとリンクシルとマグノリアが若干のドヤ顔をしている。彼女らは俺が褒められる事が嬉しいらしい。それを横目に俺がルクセンに言った。
「どうやらドペルはあちこちに出没していたらしいですね」
「ふむ。まさか裏町にも出入りしていたとは驚きですじゃ」
「裏社会に入り込んで、何をしようとしていたんでしょうか?」
「調べるしか無いですじゃ」
ルクセンがミラシオンに目配せをする。
「裏町の一斉検めになるでしょう」
うん? どうだろう? ただでさえ娯楽や遊びが無くて、騎士達の一部が暴走したのだからそれは良くない気がする。裏町で騎士達が聞き込みをすると、娼館なども営業しずらくなる。そうすれば、第四騎士団のみならずヴィレスタン兵の憩いの場も無くなってしまうだろう。俺は前世ヒモで女遊びで自分を保っていた経緯があり男の気持ちは分かる。ここで立て直しをしても、また性犯罪や悪事に手を染める騎士が出てきたら元の木阿弥だ。
「ちょっと待ってください」
ミラシオンとルクセンが俺を見て、ルクセンが聞いて来る。
「なんでしょうかな?」
「裏町は酒場や娼館などとも繋がっておりませんか?」
「もちろん繋がっておりますな」
「用心棒なども裏町から出てくるのですよね?」
「それはそうですが、聖女様から裏町の話が出るなど驚きですな」
あ、やべぇ。俺はアンナと裏に潜んだことがあり、そこでいろいろと事情を知ったのだ。聖女が裏町に出入りしている訳が無いのだから、不思議がられるのも無理はない。
「常識的なお話をしています」
「ま、まあ。よくご存じですな」
「今回の騎士団の一件は、娯楽の無い生活がその一端となったようです。騎士達の娯楽が無くなるような事をするのはいかがなものでしょうか?」
ミラシオンとルクセンはまた顔を見合わせて言った。
「まさか…聖女様からそのようなお言葉が出るとは思わなんだ。女子供に優しく男には厳しいと聞いておりましたので、そこまで理解があるとは正直驚きですじゃ」
いや。だって前世ヒモだから、気持ちは分からんでもないし。そのせいで世の一般女性に性犯罪の被害が出たりしたら嫌だもん。
「娼館やバーに影響が出ないように話を進められた方がよろしいかと」
するとルクセンが頭をかいて言った。
「なんとも…重鎮の大臣のような事をおっしゃる」
「娼館やバーで働く女性の仕事が無くなってしまうのは良くありません」
「ああ! なるほどなるほど! そこでもやはり女性を守ろうというのですな!」
「とにかく、お願いしたい」
「分かったのじゃ」
そして三度、ルクセンとミラシオンが目を見合わせた。今度はミラシオンが言う。
「裏町はとても危険な所、とにかう聖女様はこの捜査からハズレていただきます」
いやいや。アンナがいれば裏町なんておっかなくもなんともないけど? つうか、バーや娼館の女を見てみたい気もするし。王都でもその環境を確認して、女達を救った経緯があるし。
「仕事ですので一緒に参ります」
するとルクセンが言った。
「汚い所ですじゃ! 聖女様のお目汚しになるじゃろうし、訳の分からん男に嫌な思いをすることになるやもしれん」
「女性達が働く環境を見たいのです。そこは改善の余地があるかもしれません」
「なんと…」
ルクセンもミラシオンも尊敬のまなざしを向けて来る。だが、俺は娼館やバーの女が診てみたいだけなのだ。それ以外の理由は何もない。
「では、安全の為護衛を増やします。それは了承いただけますね?」
「ミラシオン卿のおっしゃるままに、ですがなるべく小規模でお願いします」
「わかりました」
そして俺達は早速、小隊の護衛をつけて裏町に馬車を走らせることになった。裏町付近に着くと、何事かと通りに出て来た奴らがにらみを利かせている。明らかに目つきが悪くカタギじゃない事は分かる。
「マグノリアとゼリスは私から離れないように」
俺が言うと二人は緊張の面持ちで頷く。万が一はマグノリアからヒッポを呼んでもらおうと思っているので、二人も連れて来ざるを得なかったのだ。
「リンクシルは二人を守って」
「はい!」
そして俺はミラシオンに向かって言う。
「ミラシオン卿。ウィレースをお借りしても?」
「かまいません」
「ウィレースも小さい二人をお願い。私は自分でも防衛出来るしアンナがいるから問題ない」
そこでルクセンが話しに入って来た。
「わしも期待してくだされ! とはいえ、わしに手を出すような不届き門が街におるとは思えんが」
「では行きましょう」
俺達は馬車を降りて、細い路地に入り込んでいくのだった。夜の裏町をアンナと行った事があるが、その時より護衛の数も多いし昼間なので危険は無さそうだった。だが昼間だと言うのに、若干薄暗くてジメジメした感がある。
「さらに奥に行くと、もっと治安は悪くなりますのじゃ」
ルクセンに言われ俺達も騎士も一応構える。だがルクセンは続けて言った。
「まあ。何かあれば根こそぎ蹴散らしますわい!」
がっはっはっはっ! と言わんばかりの勢いで、俺に笑顔を向けて来た。
まあ、万が一はルクセンやミラシオンに肉壁になってもらって、ヒッポで脱出するけどね。ルクセンに何かあったらウェステートは俺が引き取る事にするよ。
そんな事を思いつつ、更に裏町の奥へと進んでいく。流石に気さくにルクセンに話しかけて来る者は裏町におらず、遠巻きにこちらを警戒して見ているようだ。ヒリついた空気の中を、俺達の一行は証言が取れた目的の場所へ向かうのだった。
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