第168話 束の間の癒し
王都からの指示が来るまで、引き続きウェステートの父であるシベリオルの捜索をすることが決まった。だがそれは領兵達が、捜索という形で調べる事になったので俺達はやる事が無くなる。
ヴィレスタン領兵とアルクス領兵は仲良くしており、協力体制をとって砦を守る事となった。また嫌疑が晴れた第四騎士団員も、屯所の掃除をしたり市民の為の仕事を買って出ている。リューベンがせめてもの罪滅ぼしと、自分の沙汰が決まるまでやろうと決めたのだ。取り調べをした十人の容疑者だけが、牢獄に投獄されて自分の裁きを待つ事となる。
俺はと言えばルクセンとウェステートに連れられて、ヴィレスタンの市内を案内されていた。もちろんアンナもリンクシルも、マグノリアもゼリスも一緒だ。ついでに警護のためにと、ミラシオンがウィレースをつけて来た。ミラシオン当人は、ヴィレスタン騎士団長と共に分担し仕事をしている。
ウェステートがニコニコしながら俺に話しかけて来た。
「聖女様! 聖女様は甘いものを食べますか!」
「食べますよ」
「では高級スイーツ店があるので行きましょう!」
よろこんで!
「ええ」
あまり喜び過ぎないように控えめに返事をした。ここまで気を張って来たからと、ルクセンが提案してくれたヴィレスタン観光だった。都市内にも領兵は居るため、今は治安がいいらしく俺達は気晴らしに出たのである。
相変わらず、ルクセンとウェステートは市民に声をかけられている。模範のような貴族だ。
「ここです!」
おしゃれなスウィーツ店に到着すると、ウェステートを見つけた店の人が声をかけて来た。
「あら! 姫様。今日は珍しい方達とご一緒ですね」
「開いてます?」
「ええ、どうぞどうぞ」
そして俺達は店内へと通される。もちろんルクセンのジジイと、ウィレースも中に入って来た。出来れば女の子同士でガールズトークを楽しみたい所だったが、警護の観点もあるので仕方がない。
「こちらへ」
奥の個室へと通されて俺達が席に座る。ルクセンとウィレースが入り口付近に座って、同じ席にはつかないようだった。一応俺はルクセンに気を使って声をかけた。
「ルクセン卿もご一緒に」
「いやいや! 若い女の人達だけでよろしいでしょう。我らは護衛じゃ」
「そんな辺境伯様に護衛をしていただくなんて」
「なんの! 聖女様に何かあったら、いくらルクスエリムの幼馴染とはいえ処罰されますわい」
まあ、確かにそうか。俺の地位はこの爺さんより高いのだから間違いない。
「では、お言葉に甘えて」
そしてウェステートがニコニコしながら、店員にあれやこれやと注文していく。俺達は分からないので、とりあえずウェステートのセンスに任せる事にした。
ウェステートが言う。
「信じられませんわ! かの有名な聖女様とこうして一緒にスイーツを楽しめるだなんて!」
「それはこちらとて同じこと」
「私はうれしいのです! 本当に!」
なるほど、ルクセンはヴィレスタン観光を俺達に楽しませるとか言っていたが、どうやら孫娘の為に動いたようだ。本当に孫に甘いジジイだ。まあ母親を無くして失墜の底にいたのだから、晴れやかな孫娘の顔を見たいという気持ちは分かる。
「ウェステートさんはここに良く来るの?」
「昔は…母と」
「ごめんなさい。余計な事を聞いたよう」
「いえいえ! そんな事はありません。いつまでもくよくよしていられませんから!」
うわ…健気だ。グッと抱き寄せて、俺の甘い口づけをあげたい。だけど残念ながら、ウェステートは俺の事を恋愛対象にはしていないだろう。でも…すっごくぎゅっとしてあげたい。
「ウェステートさん」
「はい?」
「ぜひ仲良くしてね。これからずっと」
「はい! うれしいです!」
そして俺はウェステートの手を握ってあげる。すると頬を染めてニッコリと微笑み返して来た。
ああ…もうだめだ。
俺はグッとウェステートを抱きしめていた。そして耳元で囁く。
「頑張ったね。でも無理はしないで」
「……」
ウェステートは黙った。しばらくすると肩が震え出し、どうやら泣いてしまったようだ。
「いっぱい泣いたらいい。辛い時は泣く事」
「ありがとうございます」
そしてウェステートは俺の胸に顔をうずめた。そしてぽつりと囁くように言う。
「お母さん…」
俺はウェステートを抱きしめながら頭を撫でてやる。するとウェステートが言った。
「いい匂い。ぐすっ、とっても素敵な香りがします」
それはミリィが用意してくれた香水だった。確か予備を持って来たはず。
「同じ香りの物をあげる」
「ほんとうですか?」
「嫌じゃ無ければ」
「嫌じゃないです! 嬉しいです!」
「よかった」
ウェステートが涙を拭きつつ離れると、コンコンとドアがノックされた。それにウェステートが答える。
「どうぞ」
すると次々に美味しそうなスイーツが運び込まれて来た。飲み物も並び、俺達の前はスイーツでいっぱいになる。
「こんなに!」
「お嫌いでなければ」
「たべるたべる!」
リンクシルもマグノリアもゼリスも、ニコニコしていた。そして皆でスイーツを食べ始めると、それはそれは幸せな笑顔で満たされていくのだった。やっぱり女子ーズの機嫌は甘いもので良くなるようだ。
するとルクセンが俺にお礼を言って来た。
「聖女様。ウェステートのこんな笑顔を見るのは久しぶりですじゃ。なんとお礼を申して良いのやら」
「お礼など。とにかくヒストリア王国の正常化と進化、私が目指すところはそれだけです。ウェステートさんも、是非王都で勉強なさると良い」
「えっ!」
ウェステートは目を丸くして俺を見た。
「よろしければ、我が聖女邸に居候をしたらどう? いろいろ勉強になる事を用意する予定だから」
ウェステートがルクセンをチラリと見る。
「ウェステートや。そなたが望むのならばそれも良い」
「ほんとう?」
「ああ。それにどこの馬の骨か分からぬところに出すのではなく、聖女様のもとに預けるとなれば反対などするものか」
無条件で信じてもらえるのが聖女の良いところ。
「お爺様! ありがとう!」
そして俺はウェステートに言った。
「とにかく、不穏な国内の情勢を浄化して正す事が終わるのを待ってほしい」
「もちろんです。そうなるように祈っております」
「ええ」
スイーツを楽しんだ俺達は、ヴィレスタン城へと戻る事にした。城に戻るとメイドが近づいて来て、ウェステートに言った。
「お嬢様、湯浴みの準備が整っております」
「あら、それじゃあ聖女様達をご案内して」
「はい」
おっ! 風呂か! そいつはいい!
そして俺は下心が動いてしまった。
「よろしかったら、ウェステートさんもご一緒にいかがでしょう?」
「えっ! ご一緒してよろしいのですか?」
「浴室はどんな感じなの?」
「みんなで入れるほどの広さはございます!」
「なら、皆で入るから一緒に!」
「喜んでご一緒させていただきます」
マジ? やった! ずっとドレスに包まれてきちっとした格好のウェステートしか見てないけど、一糸まとわぬウェステートが見れるの? ラッキースケベ以上の幸運じゃない?
そして俺達は衣服をとりに部屋に戻り、すぐにエントランスに戻ってくると浴室に案内される。メイド達について行くと、館内用のドレスに着替えたウェステートがいた。
「お待たせ」
「はい!」
そして俺達はヴィレスタン城の浴場へと案内された。中に通された第一印象。
広! 聖女邸の何倍もある! もしかしたら王城並なんじゃね?
脱衣所に行って各人が脱ぎ始める。普段他の人がいると一緒に入らないアンナも脱ぎだした。遠征先なので、護衛の為に浴槽まで一緒に入るためだ。バキバキに引き締まったアンナの体に肉感的なリンクシル、やせ細ったマグノリアに細っこい子供のゼリス。もちろんゼリスにはある物が付いている。
するとウェステートが驚いた。
「ごめんなさい! ゼリスちゃんって男の子だったの?」
「うん」
そしてそれに俺が答えた。
「訳あって、女装でついて来てもらってます」
「そうなのですね」
そう言ってウェステートは訳ありな目で俺を見た。
ん?
どうやらウェステートは俺にそう言う趣味があると思ったのだろう。ショタコンだと思われた俺はショックだった。一応訳を話しておこうと思う。
「彼はテイマーだから、諜報の仕事をさせている」
「あ、そう言う事でしたか」
そしてウェステートが最後の一枚を脱いだ。
うおっ! なんと! 俺に負けず劣らず、ナイスバディーたった。出るとこが出てウエストがきゅっと締まっているし、色素がピンク色でとても綺麗だ。
「ウェステートさん。綺麗」
俺が言うとウェステートが首を振った。
「聖女様のお側に近寄れば、誰しもが霞んでしまいますわ」
そんな事はないよね? と思い、アンナやリンクシルやマグノリアを見ると、三人ともウェステートの言葉に深く頷いていた。
そして俺は見逃さなかった。
タオルを巻いたゼリスの、リトルマグナムがぴんこ立ちしているのを。
コイツ…立派に男じゃん。
小さなイケメンの小さなマグナムを見ながら、コイツは絶対将来追い出そうと決心するのだった。
「では」
「ええ」
洗い場に入って皆が体を洗い始める。いつもならミリィやスティーリアが洗ってくれるが、今日は一人で洗う。皆が体を洗い終えて、静かに湯船につかり始めた。俺もゆっくりと湯船に入りウェステートの隣りに座った。
俺がぴたりと腕を寄せると、ウェステートは恥ずかしがりながらも俺に寄り添う。遠征先で削られて精神メーターがどんどんチャージされるのを感じるのだった。
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