第167話 国の制度の不備

 副団長のドペルとライコスが接触したのを見たという騎士の話を聞いて、どんな話をしていたかを尋ねる。すると騎士は断片的な会話から察した事をまとめて話してくれた。他の騎士達の尋問で聞こえてくるのは、あの毒殺関連の話とドペルが不正をしている話だった。


 ドペル副団長は多方面に繋がりがあったようで、そのうちの一人がライコスだったらしい。他の接触者の名前が出てこないのは、見かけても騎士達の知らない人間だったのようだ。ただ残念なのが十人ともドペルから金を受け取り、その事を秘密にした事に問題があった。


「騎士団員も被害者じゃったかの?」


 そう言うルクセンに俺が答える。


「いえ。横の繋がりが弱かったのが問題でしょう、不正を他の人に相談できなかったのが悔やまれます」


 そしてミラシオンが悔しそうに言う。


「もしかすると、ライコスも騙されていた可能性もありますね」


「かもしれません。だが、それで踊らされた本人が悪い」


 するとルクセンも俺の言葉に同調する。


「そうじゃな。いくら騙されたとはいえ、それで実行に移したライコスに問題がある。実際の所ドペル副団長は、自分の所の団長であるリューベンには話をしていない」


「どうしてなのでしょう?」


「それはリューベンと言う人間を知れば分かる。あやつはああ見えて真面目な熱血漢じゃ、あれに不正を持ち掛ければたちまち捕まえるじゃろうしな。曲がった事が嫌いな性格じゃから、ドペルとは相いれなかったであろう」


 確かに。どこか第一騎士団副団長のマイオールとも似た雰囲気があるリューベンは、不正を持ちかけられればすぐに明るみに出しただろう。


 ミラシオンが残念そうに言った。


「だがリューベンはもう騎士団長ではいられません。処罰の対象になるでしょう」


「残念だよ」


 王国騎士団の腐敗。それを招いたリューベンはある程度の罰を受けるだろう。しかしそれにもまして、ドペルと言う奴の素性が見えてこない。


 俺が言う。


「リューベン騎士団長を」


「は!」


 領兵がリューベンを連れて来た。そこで俺はドペルの事をリューベンに尋ねる。


「ドペル副団長の素性を知りたいのですが」


「はい! ドペルは元々一兵卒上がりでした! とにかく剣の腕が立つ事を評価し、私が推薦状を王都に送って小隊長にさせたのです。しばらくして東スルデン神国との小競り合いの折り、敵を圧倒して追い払った事があったのです。それからすぐに副団長になりました」


「わかりました。騎士団に入り前の事はご存知ですか?」


「もうしわけありません、彼の素性は知りません。 元々冒険者をしていたとかそのくらいの事しか知らないのです」


「ドペルは故郷に帰ったりはしなかったのですか?」


「はい。奴が故郷に帰る時など無かったように思います」


「そうですか」


 俺とミラシオンとルクセンが難しい顔をして黙る。しばらく沈黙したのちに、俺が言った。


「ドペルは、ヒストリア王国の者だったのでしょうか?」


 するとルクセンが言う。


「今となっては分からんな。だが変な訛りは無かったように思うがの」


「ここからは推測ですが、他国の間者だったとは考えられませんか?」


「「……」」

 

 ルクセンもミラシオンも黙る。俺が続けた。


「ヒストリア王国の都会では、貴族主義が主流で管理職はほとんど貴族が行っています。きっとそれはドペルのような者が出る事を避けるためだったのだと思います」


「うむ。それは否定できんのう」

「確かに」


 ルクセンとミラシオンは納得した。そして俺は続ける。


「ですがドペルは剣の腕がたった。もちろん冒険者にはそんなものがざらにおります。しかし素性がはっきりしない為に、騎士団に入っても昇進が出来ない。そう考えると、ある種ドペルは珍しい存在だったはずです」


 ミラシオンが言う。


「やはり役職は貴族がやるべきと言う話ですか?」


「違います」


「といいますと?」


「私が進めている孤児学校は、その素性をはっきりさせるための教育機関なのです。幼少の頃からきちんと教育を施し、国の為、民の未来の為に働く事を目的としています。その学校出身であればお墨付きが貰えるような、そんな学校にしたいと考えているのです」


 するとルクセンが大きく頷いて言った。


「すばらしいのう! その通りじゃ! とても理にかなっておる! 国の為に育てそれを礎として国を強くしていくという事じゃな?」


「そう言う事です。いくら腕っぷしが強くても魔法が使えても、素養が悪ければ今回のような事件が起きます。もちろん貴族だけでは軍隊は成り立ちませんし、ライコスのように貴族でも国を裏切るような事態が起きます」


「聖女様が考えておられる学校とは、それを見据えての、と言う事じゃったか」


「はい」


 今回の事はなるべくしてなった事だ。男所帯の素養も無い奴らをまとめるのは、リューベンがいくら熱血だったとしても無理がある。あと貴族だからと言って素養があるわけではなく、虚栄心や無駄な野心が邪魔をして狂う場合もある。だから幼少の頃からの教育や素養が大事なのだ。


 正直、俺は前世で学校もろくすっぽ行っておらず、まともな職にもつかないでヒモなんかしてた。最後に女に殺されるような人生はもうまっぴらごめんだった。そんな俺みたいな勘違い野郎を生み出さないように、しっかりと学びの場を作る。


 そうしないと、結果泣かなきゃいけなくなるのは誰だ? 残された女子供だ! 今回事件に巻き込まれた男らにだって、妻や恋人、姉や妹がいたはずだ。男が事件を起こしただけで、村八分にあい村を追い出され女は娼婦や奴隷に身を落とす。馬鹿な男のせいで、自分の人生を狂わされる女達がいる。ここはそんな世界なのだ。


 俺は悔しさをにじませるが、表面にそれを出さないように言う。


「まずそれは置いておきましょう。それよりも騎士達から聞いた話からすれば、ドペルはライコス以外にも接触した人がいたという事です」


 ミラシオンが頷いた。


「それが国内の騎士団や貴族でないことを祈ります」


「そして、未だに分からないのがシベリオル卿の行方です」


 するとルクセンが言った。


「うむ。ワシの倅の影が見えて来んな」


「どこに行ってしまったのか…」


 ルクセンが残念そうな顔をして言う。


「もしくはもうこの世にはおらんのかもしれん」


「そう考えるのは早計でしょう。それよりも王都に早馬を出して、この事態を知らせ第四騎士団の立て直しが先決です」


「そうですな。すぐに行動に移しましょう」


「わかりました」


 そうして取り調べはようやく終わった。謎はあるものの、第四騎士団に腐敗が広がりきる前に押さえた事は不幸中の幸いだろう。しかし王都からのお達しがあるまではここを動く事が出来なくなってしまった。ルクセンだけの兵では、第四騎士団の管理をしつつ砦の見張りをこなす事が出来ない。そんな事をすれば、このヴィレスタンの土地の警護がおろそかになる。


 いずれにせよ。シベリオルの行方も捜査しなければならないので、一旦俺達はこの地に逗留することになったのである。

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