第166話 巻き込まれた騎士達
白状し始めた騎士の話では、どうやらドペル副団長から毒花であるジギタリスを大量に手に入れたいと言われたという。自分の田舎からその乾燥花を入手し、頭陀袋一つ分を渡したそうだ。もちろんジギタリスに毒の成分がある事も知っており、何に使うかは分からないがそれで金貨を五枚ほどつかまされたらしい。
その後しばらくしてメリューナが死んだことを聞き、直接手を下したわけでは無いものの薄々それだと感づいたとの事だ。
そしてミラシオンが問いただす。
「そして口止めされたと?」
「はい。この事は他言無用だと、誰かに言えば生きてはいられないと」
「なるほど」
ミラシオンが俺に振り向いた。アンナが言うには騎士は本当の事を話しているらしい。
「嘘はありません」
「そうですか」
それからの話にも嘘は無かった。嘘を言っても女神フォルトゥーナが見破ると本気で思っている。最後にミラシオンが騎士に言った。
「残念だ。君の心に魔が差さなければメリューナ様が亡くなる事は無かった」
「まさか、そんな事に使うなんて知らなかったんです…」
「協議の上、沙汰を言い渡す。それまでは牢獄にいてもらう」
「はい…」
そして騎士は立ち上がって言う。
「ルクセン様! 申し訳ございませんでした!」
ルクセンはただ黙って腕を組んで目をつぶったままだ。そこにリューベンが来て思いっきり騎士を殴りつけた。
「馬鹿者! 騎士たる誇りを忘れおって!」
「団長! すみません! こんな事になるとは思いませんでした」
リューベンが後ろの領兵に告げる。
「すいません。連れて行ってください」
騎士は領兵に連れられて部屋を出て行った。そのまま牢屋に監禁される事になるだろう。騎士も自分のやってしまった事の大きさにショックを受けていた。
「次の人」
そして次の騎士が連れて来られる。席に座り事情聴取が始まった。
「では知っている事を洗いざらい吐いてもらう! いいな? 嘘は罪を重くするだけだ!」
「はい」
尋問が始まると、既に場の雰囲気が嘘をつけないようになっていた。騎士は聞かれるままに白状していく。
「お前は何を知っている」
「はい。私はドベル副団長に闇の薬屋を教えました」
「おかしいとは思わなかったのか?」
「すみません。金をもらいました」
「お前もか…、それでどうした?」
「冒険者の友達に聞いてドベル副団長に教えました。そしてその事は誰にも言うなといわれました」
「闇の薬師など、まともな薬を作らぬと知っているだろう?」
「はい。今となっては後悔しています…」
「メリュージュ様の事は?」
「事を知ってから察しがつきました。…まさかそんな事になるとは。申し訳ございません」
結局コイツは毒を生成する為の薬師を紹介した。貰った金額からも口止料めである事は明白だと思っており、このまま黙っているしかないと思っていたらしい。
だが、大貴族の娘が殺されたのだから知らなかったではすまされない。結局はそいつが知っている事はそれだけだった。次の騎士も連れられて行き尋問を一度中断して話し合う。
「何故、ドペル副団長は騎士達を巻き込んだのでしょう?」
俺が聞くと皆が首を振った。一人で全部やった方が足はつかなかったはずだが、何故か騎士を使い毒を準備していた。
するとリューベンがポツリと言った。
「すみません。恐らくあいつは…、ドペルは自分の手を汚さずにやろうと思ったのだと思います」
「どうしてそう思う?」
「どうして…ですか? 確信はないのですが、自分の手を汚さずにやるような汚い一面を持っていたからとしか言いようがありません」
「そう言う事があったと?」
「ずるいやつでした。だから自分はアイツと話をしなかった…嫌いだったのです。性格も話し方も全部」
「それで野放しにしてしまったと?」
「騎士団長として団員を預かる者として、恥ずべき事をしておりました」
「わかっているか? リューベンよ、そのおかげで十人の騎士が犠牲になる。皆が犯罪に加担したことになるのだ」
「はい。その通りでございます」
リューベンは疲れ切った顔をしていた。自分の管理不行き届きで大事な騎士をダメにしたのだ。多分こいつは騎士団長の器では無かったのかもしれない。第一騎士団のフォルティス騎士団長や近衛のバレンティア団長だったならあり得ない失態だ。
だが尋問は続行するしかない、調べなければいけないのは第四騎士団だけではないのだ。
次の騎士が呼ばれ尋問が始まった。同じようにミラシオンが聞いて騎士がそれに答える。
「何か知っている事は?」
「はい。私はテイマーを紹介しろと言われました」
「テイマー?」
「はい。出来れば猿のような木登りが出来る動物を使役できる奴をと」
「それでどうした?」
「私の知り合いに聞いたところ、そう言う魔法使いがいるとの事でした。そこで話を聞いたのです」
「どんな?」
「ドペル副団長はテイマーに、王城の堅牢な窓も開けれるかと聞いておりました」
「お前はどう思ったんだ?」
「最初は何の事か分かりませんでした。ですがメリューナ様の事件があった後に察しがつきました。そしてその後ドベル副団長が来て金を渡して来たのです。何も言うなと」
「受け取ったのか…」
「はい。金貨十枚でしたので、受け取ってしまいました」
「そのような大金、おかしいとは思わなかったのか?」
「それと…金だけではなく殺されると思いました。私の力量ではドペル副団長に斬られてしまいます。それで黙りました」
「ルクセン様に直談判しようとは思わなかったのか?」
「すみません。最近ではこの土地に他国の人間も来なくなり、景気も悪くなって娼館の金額も上がったのです」
「貴様…娼館に行くために黙ったと?」
「はい。何の娯楽も無い生活が辛かったのです」
ミラシオンの眉間に血管が浮いている。だがルクセンは俺の想定外の事を言った。
「わしの統治する土地がさびれてしまったのが原因じゃな」
すると騎士がバッ! とルクセンの前に額を床につけるほどに土下座した。
「申し訳ございません! 謝っても謝りきれません! 気軽にテイマーを紹介してしまいました! 処分は覚悟しております!」
「謝るのなら、メリューナの墓に行って謝ってくれ」
「はい! はい!」
そいつも領兵に連れられて牢屋に連れていかれた。今の所三人ともメリューナの殺害に関係した奴らばかり、ドペルが何を企てていたかの話が聞こえてこない。また、ルクセンの婿養子のシベリオルの行方も未だ分からなかった。
もしかしたら全員知らない?
尋問を繰り返してそのような疑念が浮かんで来た。だが次のやつで少し風向きが変わって来た。
「何を知っている?」
すると次の騎士が言った。
「ドペル副団長は良く出かけていました」
「どこへ?」
「はい。私の知り合いの飲み屋です」
「飲み屋?」
「そこで人に会っている時に、自分もたまたまその店におりました」
「誰に会っていた?」
「第三騎士団長のライコス様です」
ようやく本筋に近い話が出て来た。死んだライコスとドベル副団長が繋がっていた事実が上がってきたようだ。さらにコイツも金を掴まされて口止めされていたらしい。またドペルとライコス二人と事を構えれば、殺されると思い黙っていたそうだ。
そこでミラシオンが言う。
「騎士達よ。人払いを」
「は!」
「残るのは私とウィレース、聖女邸のみなさんとルクセン様のみにしてほしい。リューベンも席を外してくれ」
「は!」
領兵と共にリューベンも出て行った。残ったのは俺達国の大事を知ってる組と、参考人の騎士だけ。他に話を聞かれないようにし尋問を続けるのだった。
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