第165話 尋問
第四騎士団の騎士全員の取り調べをし終えた頃、朝はとうにすぎており陽は高くのぼっていた。
その結果、嘘をついている奴を十人ほど割り出す事が出来た。その十人は皆とは別の部屋へと隔離している。そこは厳重に領兵が囲み、誰も逃げ出す事は出来ないようになっていた。
一旦休憩をと言う事で、俺達は自分達の部屋へと戻された。取り調べをしていたルクセンもミラシオンも一度休憩をとっている。
「おわったぁぁぁ」
「お疲れ様」
「みんなもとりあえず、一旦仮眠をとってね」
「「はい」」
小さなゼリスにはだいぶ堪えたようで、既に眠りについていた。アンナだけはいつもと変わらずに、キリリとそこに立っている。
アンナ…イケメン…。
「小休止をとってから、十人の事情聴取だな。聖女も少し仮眠をとるといい」
「ありがとうアンナ。アンナも休んだ方が良い、精神力を使って嘘を見抜いたんだから疲れたはず」
「そうだな。普通に戦っていた方がいくらか楽だったかもしれん」
アンナは床に座ろうとしたので、俺はアンナに言った。
「いずれメイドが起こしに来るだろうから、ベッドに寝た方が良いよ。ここまで来ると間者が忍び込む隙は無いって」
「かもしれん。なら一度寝るとするか」
「そうしよ」
アンナはそのままバフっとベッドに横になったので、俺もその隣のベッドに横になる。そしてアンナに話しかけた。
「後は…彼らがどこまで秘密を知っているかだね」
「そうだな。ここからが本当の勝負かもしれん」
「…そう…だね…」
俺の意識はだんだんと遠くなっていく。そうしてそのまま眠ってしまうのだった。
「聖女」
「ん?」
「迎えが来た」
「分かった…」
アンナが俺を目覚めさせ、伸びをしてむっくり起き上がった。マグノリアとゼリスはまだ眠っているようだ。俺達が起きると、部屋に食事が運び込まれて来て俺達はテーブルに着く。
「あんまり食欲無い」
「食っておけ。これからも体力を使うぞ」
「はいはい」
とにかく食べられそうなものを口に入れて、スープで流し込んでいく。こんな状況でもしっかりと肉を食うアンナとリンクシルを尊敬する。まあ戦士の二人は、いつも体づくりのために肉を食うので慣れているのだろう。
「リンクシル」
「はい。聖女様」
「マグノリアとゼリスは十分仕事したから、このまま寝かせておいて」
「はい」
「私とアンナが出るから、二人を護衛していてね」
「わかりました」
そう言った俺をアンナが見て笑う。
「まったく女の子には優しいな」
「力も体力も無い女の子は大変だから。男尊女卑のこの社会で女が生きるだけでも、かなり不利なのにそれ以上大変な事はさせられない」
「そう言う聖女も女だぞ」
俺は中身男だけど。
「それを言ったらアンナだって」
「ふふ。聖女はわたしを女だと思ってくれているんだな」
「あたりまえじゃない」
「そんな風に言われる事はないから新鮮だ」
いやいや。勇ましい風貌と鎧に身を包んだ筋肉質の体が、そう思わせないだけでそれなりの格好をしたら良い感じだと思う。ボーイッシュな目の吊り上がった顔立ちだが、化粧をすればそこそこ映えるはずだ。決して女じゃないなんて思ってない。
まあ野性的な感じが強くて、女性として意識したことはないけど男ではない。
「本当に野性的な感性のおかげで助かる。表情や筋肉の動き体温や動作で嘘を見抜くなんて私には出来ない」
「まあ…な」
「どうしてそんなに凄いのか」
「そうだな…。ここまで生き延びて特級冒険者になるには、読み合い差し合いの戦いを山ほど経験した。恐らく読み違えていたらどこかで死んでいたかもしれない。こうして生き延びているって事は、それなりに読み合いに勝って来たという事だ。気配や殺気、動揺や虚勢を感じ取っているんだ」
ギクッ! てことは、俺が男だった前世を隠している事もバレてる? 今まではそう言う素振りを見せていなかったが、何かを感じ取っているかもしれない。わからんけど。
「凄いとしか言いようがない。とにかくあの十人を何とかしないとね」
「そうだな。まあ後はミラシオン伯爵やルクセン辺境伯が何とかするだろうが」
「彼らにも頑張ってもらわないとね。あの十人を絞り出したのは全部アンナのおかげなんだから」
「聖女のおかげでもあるんだ」
「どういう事?」
「聖女には見透かされてしまうかもしれない、女神フォルトゥーナの神子を騙せるはずがないという固定観念があるのさ。それがあるから、始めから動揺しているんだ」
「なるほどね。私がいるだけで有効って事か」
「そう言う事だ」
そんな話をしながら飯を食っていると、メイドが部屋にやってきて告げる。
「あと半刻ほどしたらお集まりくださいとの事です」
「わかりました」
三十分の時間をもらったので、俺達は食事を終わらせて歯磨きを済ませる。その事でだいぶ頭がすっきりとした。
「じゃ、リンクシル。マグノリアとゼリスをお願いね」
「はい!」
俺は寝ているマグノリアの所に行って頬を軽く撫でて言う。
「いってきます」
くるりと振り向いてアンナに言う。
「行こうか?」
「ああ」
そして俺達は、割り出した十人の騎士を取り調べる部屋へと向かうのだった。俺達が会議室に入ると既に、ルクセンもミラシオンも領兵達も準備をしており俺達はそのそばに座る。リューベンも離れた場所に座っており、血相の悪い顔で俺達にお辞儀をした。
「では始めますか」
「おねがいします」
一人目が通されて尋問が開始された。
ミラシオンが言う。
「君。君はドペルが影でやっている事を知らないと言ったね?」
「は! 存じ上げません!」
「……」
辺りがシーンとする。するとルクセンが声を上げた。
「わしの娘が死んだのは知っておるな?」
「は! 突然お亡くなりになられて驚いております」
「そうか。どこで死んだかは知っておるのか?」
「館の中でお亡くなりになっていたと聞き及んでおります」
「前日までは元気じゃったのだがのう」
「誠に残念であります!」
うーん。なかなかに尻尾を出さない。
するとアンナが俺にこっそりいった。
「やはりリンクシルを呼んで来よう」
「わかった。じゃあ念のためマグノリアとゼリスも連れて来て」
「ああ」
尋問中にそっとアンナが部屋を出て行く。ミラシオンとルクセンがいろいろと尋ねていくがなかなか口を割らない。しばらくしてアンナが三人を連れて入って来た。そしてそのまま俺のそばに座る。
「ごめんねマグノリア、ゼリス。疲れてたから寝ていてもらおうと思ったんだけど」
「聖女様が頑張っているのにごめんなさい」
「いいのいいの」
そしてアンナとリンクシルもこっそり話をし、それを俺に伝えて来た。俺は手を上げて尋問に割り込んだ。
「ちょっといいですか?」
ミラシオンが指名する。
「はい聖女様」
俺は騎士を指さして言った。
「あなたの故郷はどこですか?」
「へっ?」
「あなたの故郷です」
「はい。ここからずっと南、第二騎士団の屯所を越えた南端です」
「なるほど。なんでも花の咲き誇る美しい村だとか」
「どうしてそれを?」
「あなたの言葉を聞いていて南部訛りが強いと思いましてね」
「さすがは聖女様するどいですね」
まあリンクシルが、そうだと言うからそのまま言っただけだけど。そしてアンナが言った通り、俺が指摘したことでかなり動揺しているのが分かる。神子と言う立場はそれだけで圧があるのだ。
「あなたは、花については詳しい?」
「いえ。花は好きですが全く詳しくありません」
「この季節には咲かないはずの花の香りがあなたからするのです」
「えっ?」
騎士がスンスンと自分の袖のあたりを嗅ぐ。だが自分で気づかないらしく首をかしげて言った。
「石鹸でしょうか?」
「いいえ。それはジギタリスの香りです」
すると騎士の顔色が一気に青ざめていく。そう、リンクシルが気づいた花の匂いとは、毒の花と言われるジギタリスの香りだったのだ。それはドペル副団長の部屋でもしたらしい。
「そ、そんな。ジギタリスの匂いなどしません」
「あれ? 花に関しては詳しく無かったのでは? ジギタリスは珍しい花ですし、詳しいと思いますけど名を知っている?」
「それは…」
騎士は言葉を詰まらせる。そんな騎士を見逃すミラシオンでは無かった。
「悪いが詳しく聞かせてもらおうか。お前の時間はたっぷりとってある何日でも待つぞ」
「…はい…すみません」
そう言って騎士は深くうなだれるのだった。流石はリンクシル、野生の子だけあって危険な草花に詳しいらしく毒を見分ける力があるらしい。花の名前もドンピシャで、そこまで狙いを定められると騎士も観念するしかなくなってしまった。
それから騎士は自分の知っている事を話し始めるのだった。
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