第159話 毒の出所
俺がルクセンに捜査の為にあちこちを見回りたいと言うと、ミラシオンとウィレースと護衛の騎士がついて来ると言った。するとルクセンもついて来ると言い出し、ウェステートまで一緒に見たいと言い出した。
十人くらいでぞろぞろと動く事になるが、今の所ミラシオンも俺もルクセンとウェステートは怪しいところはないと判断して許可した。いずれにせよ、もしこの状態でルクセンがクロだった場合逃げ場はない。
まあそれはさておき、俺達聖女チームは既に口裏合わせをしてある。万が一、ルクセンが造反した場合ミラシオン達を置き去りにして、俺達はヒッポを呼びつけて脱出するつもりだ。ミラシオンには悪いが、俺の大切なアンナやマグノリアやリンクシルに被害を出すわけにはいかない。まあマグノリアが泣くから、小さなイケメンゼリスも助けるけども。
まっ、可愛い孫娘のウェステートを連れて荒事は無いだろうけど。
「じゃ、ゼリス」
すると既に栗鼠を先にやっているゼリスが頷いて進む。
マグノリアの話では、相手のテイムの力が強ければゼリスから奪い返されるかもしれないとの事だった。とにかく手がかりが消える前までに、なんとか重要参考人を特定したい。
ゼリスは城をでて庭に行く。
するとルクセンが言う。
「おや? 館内を調べるのではないのですか?」
「違います」
まあ俺も分かんねえけど。つーことは、庭師か?
と思っていたが、そこはスルーしてゼリスは門に来た。ゼリスが門を出ようとするので俺がストップをかける。
「ゼリス。止まって」
「はい」
そして俺はミラシオンを振り返って言う。
「城外に出ますけど、よろしいですか?」
「待ってください」
ミラシオンが騎士に耳打ちをする。すると騎士はもう五人の護衛と文官を連れてきた。
いや、これ目立つぞ。だがいざという時の肉壁になってもらわないといけないので、多ければ多いほどいいか。それにプラスしてルクセンも言った。
「城内から出るのですか?」
「そうです」
「さすがに外に出るのであれば、ウェステートに護衛をつけても?」
「構いませんよ」
確かに何かあった時に、ウェステートちゃんに何かあったらいけない。あ、むしろ何かあったら、彼女も連れて脱出しようっと。
しかしそれは、ある意味誤算だった。ルクセンとウェステートが外に出て来た事によって、市民達が騒ぎ始める。と言うよりも、市民達がいちいち挨拶をしてくるのだ。
「ルクセン様! お日柄が良いのでお散歩でございますか?」
「あら、ウェステート様も一緒に! 大勢でどちらへ?」
「今日は良い野菜が入っております。メイドさんに来ていただけますと、勉強させていただきますよ!」
それに対しルクセンがいちいち気さくに返事をするから、そのたびに俺達は立ち止まり話が終わるのを待たなければならなかった。
めっちゃ時間かかるじゃん!
まあそう思うものの、ルクセンが日頃市民と親しくしている様子がうかがえた。これで悪い領主なわけがないし、町を壊す真似はしないだろう。市民に被害が出るような事をするとは思えない。
「すまんのう! 今日は来客なのじゃ! また今度な!」
そう話を切り上げ、俺達は市場を抜けて昨日入って来た門とは逆方向に向かっていく。しばらく進んでいくと、ゼリスが大きな建物の前で止まった。そこを見てルクセンが眉をひそめて言った。
「何故に第四騎士団の屯所へ?」
ミラシオンも驚いたように俺を見つめている。とりあえずとりつくろわないといけないので、俺は二人に説明をした。
「調査の一環も兼ねています」
そう言うとミラシオンは納得して、文官と騎士を呼びつけた。
「第四騎士団の屯所だ。これからここを検めるぞ!」
「「「「「は!」」」」」
「しかし、初めての地であると言うのに、なぜ屯所の場所が分かったのです?」
「導きによるものです」
リスの。
するとそれを聞いたルクセンとウェステートが目を丸くした。
「やはり! フォルトゥーナ様の!」
「間違いなかったのですね」
いや。リスだけど。
とりあえずミラシオンと騎士が先に入って話をつける。俺達が屯所に入ると、騎士は数えるくらいしかおらずにここの番をしているという。他の騎士は全て国境沿いの砦にいるのだとか。
ゼリスが先に進むので、俺達はゼリスについて奥に進む。するとある部屋の前で立ち止まった。そこにテイムしているリスが居て床の上で顔を洗っていた。ゼリスを見つけてちょろちょろと肩の上に乗る。そこには複数の扉があったので俺がウィレースに言った。
「第四騎士団の人を連れて来てもらえますか?」
「は!」
しばらくするとウィレースが騎士団の人間を連れてきた。俺は第四騎士団の騎士に言う。
「こちらは何の部屋?」
「こちら、この四つの部屋でありますか!」
「ええ」
「騎士団長室及び副団長室、執務室に、会議室でございます」
「鍵を開けてください」
すると第四騎士団の騎士は少し狼狽えた。ルクセンやミラシオンと言えど、王直下の騎士団に強制する事は出来ない。だがミラシオンは文官から書簡を受け取り、それを第四騎士団の騎士の前で読み上げる。
「陛下の命により、第四騎士団の屯所を検めさせてもらう!」
「は、はい!」
騎士は走り鍵を持って来て、各部屋の鍵を開けていく。そこに俺達は一部屋ずつ入った。リンクシルが俺の側に寄り添い部屋の中を見ていく。そしてリンクシルが俺に言った。
「どの部屋からも毒の臭いがします。恐らくはここに入った事がある人です」
「了解」
俺は第四騎士団の騎士に聞いた。
「団長及び副団長はどちらへ?」
「はい! 前線の砦にいるはずです!」
「なるほど」
俺はミラシオンを振り向いて言った。
「第四騎士団の人達に聴取をしないといけません」
それを聞いたミラシオンが頷いた。
「当然するつもりでおりました」
そしてウェステートがポツリと聞いて来る。
「聖女様。あの…何か関係があるのでしょうか?」
母の死と何か関係があるのかと聞いているのだろう。だが、まだ断定は出来ない。もしかしたら関係者がここに居るかもしれないので、俺はウェステートを連れて部屋の角で言う。
「ウェステートさん。いけません、ここで騒いでは。関係者が潜んでいる場合も御座います」
「あ、すっすみません」
「大人しくしていただけるとありがたい」
「はい」
俺はミラシオンに振り向いて言った。
「まずはこの屯所を重点的に検めましょう。増援を呼んだ方がよろしいかと」
「わかりました」
ミラシオンが騎士に指示を飛ばすと、騎士は急いで屯所を飛び出して言った。ルクセンは何かを察しているのか何も言わずに黙って立っている。ウェステートは不安そうな顔で周りを見渡していた。
そして俺はゼリスに声をかけてやった。
「ゼリス。偉いね、あなたのおかげで確信に近づけたかもしれない」
「あ、へっへへっ!」
ちっさいイケメンが照れて頭をかいている。普通に可愛いそのしぐさに、マグノリアもリンクシルも目を細めてみていた。まあかわいいっちゃ可愛いけど、メンズだからなあ…
しばらく待っていると、大勢のミラシオンの部下がやってきて屯所の検証を始める。俺はリンクシルと一緒に騎士団長と副団長の部屋を重点的に調べた。もちろん物的証拠などは出てこないが、リンクシルは間違いなく毒はここで用意されたという。
残った第四騎士団の騎士達は一人一人面談をされている。前線の砦に行く前に裏が取れればいいが、今のところは騎士に怪しいところはなく捜査は難航しそうだった。
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