第158話 鍵はリスが握っている
その部屋は辺境伯の娘が済んでいた部屋と言うだけあり、めちゃくちゃ広くて豪華だった。そこに入ってすぐにアンナが俺に耳打ちをする。俺はそれを、そのままルクセンに聞いた。
「恐れ入りますが、娘さんはどこで亡くなっていたのです?」
「娘はテーブルの横に倒れるようにして死んでいました」
ルクセンが指をさす先を見る。そしてアンナがまた俺に耳打ちをした。どこぞの少年探偵じゃないんだから自分で言ってもいいよ、と思いつつも俺はアンナに言われたとおりに言った。
「その当時のままですか?」
ウェステートが答えてくれた。
「はい。捜査が入ると思っておりましたので当時のままです」
すると今度はリンクシルがアンナに耳打ちをして、アンナが俺に耳打ちをしてくる。正直めちゃめちゃまどろっこしいが、依頼されているのは俺なので仕方がない。とりあえず俺はルクセンとウェステートに伝えた。
「おそらく毒…ですね」
「えっ! 分かるのですか?」
「臭いがします」
もちろん俺が嗅ぎ分けた訳じゃなく、リンクシルが嗅ぎ分けたのだ。それを伝言ゲームで俺に伝えてきた。俺はそのままいくつか聞いてくれと言われた内容を聞き始める。
「当時何か食べ物は?」
ウェステートが当時を思い出すように言う。
「いろいろ気に病んでいた時期ですので、眠る前はお酒を飲んでいたようです」
「お酒ですか。寝室は?」
「隣りです」
俺達はそのまま寝室に向かい、あちこちを見て回った。正直な所、何か変わったものなど無さそうだし俺には何も見つけられない。俺はルクセンに言った。
「助手達を自由にさせても?」
「かまわんです」
「では」
そしてアンナはあちこち見渡して、リンクシルはそこらじゅうをクンクンと嗅いだ。俺も何もしてないと恥ずかしいので、適当にいろいろと見ているふりをする。するとアンナが俺を呼んだ。
「うん、うん。なるほど」
そして俺はルクセンを呼んだ。
「恐れ入りますが、旦那様のお部屋はどちらです」
「こっちじゃな」
俺達はルクセンについて行く。そして旦那の部屋に入りまた三人であちこちを探す。もちろん俺だけは何かあてがあって探している訳じゃなく、それっぽくいろいろと探し回っていた。皆が見えていないところでアンナがしゃがみ込み、俺はアンナの隣りにしゃがんだ。
「なに?」
「この部屋におかしな点はない」
「ホント? 毒を隠してるとか、変な形跡とかないの?」
「ない」
俺が立ち上がって、ウェステートを探すとそこにリンクシルが来て言う。
「聖女様。毒の匂いもしません」
「本当に? どこに隠したのだろう?」
するとリンクシルがまた俺に耳打ちしてくるので、俺はルクセンとウェステートに言った。
「クローゼットを見せていただいても?」
「かまわんです」
俺達は旦那シベリオルのクローゼットに入る。するとリンクシルが、全ての洋服の袖先やポケットの匂いを嗅いだ。そして俺に近づいて言って来る。
「聖女様。毒の匂いが無いです」
「うそ。じゃあ持ち込んだのはシベリオルじゃない? まさか自殺?」
だが俺にアンナが言う。
「いや。そうとも限らん、奥さんの部屋に侵入跡があった」
「うそ。どう言う事?」
「そこまでは分からない」
俺は集まって来た情報でいろいろと考え、ルクセンに聞いてみる。
「お酒は誰が用意するのですか?」
それにはウェステートが答えた。
「メイドが寝室に用意しておきます。お母さまが部屋に来る前までに準備を終えて出るのです」
「お母さんが部屋に入る前までに誰かが部屋に入る事は?」
「メイドが鍵を掛けますので、それまでは誰も入らないのです」
なるほど。怪しいのはメイドかもしれない。だけどあんなにそつなく仕事をこなす、立派なメイドにそんな事をする動機があるのか?
俺が言う。
「メイドさんを全て集めてもらえますか?」
「はい」
女の嘘を見抜くのは間違いなく俺の仕事だ。特に真面目でうぶな女ほど、俺の誘導尋問に引っかかりやすいだろう。
一階に降りて食堂に行くと、メイド達がぞろぞろと入って来た。そして俺はルクセンとウェステート、そしてミラシオンと騎士達に言う。
「人払いを、申し訳ないですが私とアンナが聴取します。皆さんも外へ出ていてください」
「わかりました」
俺はメイドを並べて一人一人質問をしていく。当日はどうしていたかとか酒を準備したメイドは誰か、酒を運んだメイドは誰か、最後にメリューナと話をしたのは誰かなどだ。一通り話を聞いて分かった事は、誰一人嘘をついていないという事だった。ヒモの本領発揮してメイド達の目を見て、心を開かせるようなトークを心掛けたが誰も嘘をついていない。
メイドの聴取を終えて俺は皆を中に入れた。
するとルクセンが俺に尋ねて来る。
「何か分かりましたかな?」
謎は全て解けない! 犯人は! 分からない!
などとはいえず次のように言う。
「もし殺人であるならメイドの可能性は低いでしょう。また毒を用意したのは、旦那様ではない可能性もあります」
とりあえず集まった情報をそのまま言うしかなかった。しかしそれに対して、ルクセンもウェステートも目を見開いて言う。
「そこまで分かるのですか?」
「さすがです! 流石は女神フォルトゥーナの使徒様です!」
いやいや。女神は関係ねえし、そもそも俺が褒められているのを、推理をしたアンナがとっても満足そうに見ているのも不可解だし。まあアンナに限らず、聖女邸の人らは俺がもてはやされていると必ず嬉しそうな顔をするけど。
「ただし、一カ所だけ不可解な点が」
「なんですかな?」
「メリューナ様のお部屋に侵入痕がありました。窓の木枠の所に泥がついていたのです。高貴なお方のお部屋にそれは不釣り合いだと思います」
「なんですと!」
「メリューナ様に庭いじりの趣味などは?」
「ないですじゃ。土いじりなどしたのは見たことがないし、そもそもそれは庭師の仕事じゃ」
「なるほど」
それ以上どうしていいか分からずにアンナに目配せをすると、アンナが俺に耳打ちをしてくる。
「庭師にあわせてください」
「わかったのですじゃ」
庭師は専門でやっている人間が屋敷内にいた。それも一人ではなく三人も抱えている。もちろんこれだけ広大な庭を管理するには、二人じゃ足りないだろう。
「器具を片付けているところに案内してください」
「へい!」
そして俺達は庭師について行き倉庫を見る。するとリンクシルがあちこち臭いをかぎ始めた。そして俺に首を振って来る。どうやら庭師の所にも毒は無かったようだ。
「どうやら庭師の方達も知らないようですね」
「…では一体誰が」
しかし俺はピンと来てしまった。俺はウェステートに聞いてみる。
「お母さまかウェステートさんが動物を飼っていたということは?」
「ありません。私も母も動物は苦手で」
「メイドさんに動物を飼っているような人は?」
「さあ。多分いないと思いますけど」
俺がゼリスを見るとゼリスがうんと頷いた。ゼリスが使役した庭にいた栗鼠が、めちゃくちゃ人に慣れていた。もしかすると犯人は動物を使って犯行に及んだ可能性がある。
俺は考える時間をくれと良い、聖女チーム以外を外に出した。
するとすぐにアンナが言う。
「テイマーか」
「その線が濃い」
「だが、あの土の後は栗鼠ではないぞ。もう少し大型だろう」
するとそれにマグノリアが答えた。
「でもそれなら簡単に見つけられると思います」
「なにが?」
「ゼリスが栗鼠に命じればいいだけです。飼い主だった者の所に案内せよと」
その手があったか!
「そんな事出来るの?」
するとゼリスが言う。
「栗鼠がまだ覚えていれば」
「それは使役したままでも可能と言う事?」
「うん」
重要参考人になりそうな人の元に、栗鼠を走らせその人に話を聞けば手がかりがつかめそうだ。普通のミステリー物ならば、天才的な推理で解決に導くのだろうが俺はそんなことはしない。鍵は栗鼠が握っているのだ。
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