第153話 重要拠点に到着

 俺達はようやく次の目的地へとたどり着いた。ここはズーラント帝国と東スルデン神国とヒストリア王国、三国の国境が重なる場所だ。そこにひときわ大きい王都並みに巨大な街があるはずだ。昔は敵対していなかった各国との分岐の街として規模はかなり大きいが、今は流通が減少し過疎っているらしい。


 貴族の中では公爵の次に位の高い、辺境伯が収める土地で軍事的に重要な拠点となる。この領の名はヴィレスタンと言い、公爵の名がそのまま領名となっている。領兵もおり、第四騎士団と共にこの場所の治安維持を受け持っていた。


 俺達が領地に踏み入れるとすぐ、ヴィレスタン領兵がやって来た。


 ミラシオンがルクスエリム王のサインが署名された書簡を読み上げ、領兵がそれを了承して俺達は一緒に行くことになった。念のためミラシオンのアルクス領兵が警戒をし、謀反などが起きないように監視をしている。流石に王都からかなりの距離があるので、皆ピリピリしているようだ。


 アンナが馬車の中で言う。


「今はまだ危険はないようだ」


「そうなんだ? 末端の兵士が知らないだけと言う可能性もあるよね?」


「もちろんその線も捨てきれん」


 念の為、俺もすぐに杖を使えるような状態にしておく。周りの雰囲気がピリピリしているのを感じ取ってか、マグノリアもゼリスもリンクシルも大人しくしていた。俺が馬車の窓から外を見ると、ウィレースが緊張した顔をしている。以前スフォルはこの状況で死んだので、警戒を解いていないらしい。逆にヴィレスタン領兵は気さくに声をかけたりしている。


「聖女はここの領主を知っているのか?」


「まあ数少ない辺境伯だからね、名前だけは知ってるしチラッと見たこともあるかな」


「そうか」


 この領の辺境伯の名は、ルクセン・バール・ヴィレスタンと言う男だ。聖女認定式の時にチラリと見たことがあるが、それ依頼顔を見たことはない。まあ敵国と隣接している都合上、ミラシオン同様に持ち場を離れ辛い場所にある。ミラシオンだって、帝国と揉めたままなら自領を離れる事は出来なかった。


 広い領内を半日ほどかけて移動すると、巨大都市ヴィレが見えて来た。王都並みにデカい都市は遠目で見ても凄い迫力がある。


 門に到着して門番に確認すると、既にルクスエリムから書状が届いていたらしくスムーズに入る事が出来た。今の所第四騎士団には会っていない。


 俺達一行が領主の城に到着すると、門の前に長い白髪と白い髭を蓄えた筋肉隆々の男が仁王立ちしている。年は取っていると思うが、その見事なぶっとい体は凄い威圧感がある。俺が前にチラリと見た時と同じ迫力のある爺さんだった。


 ひとまず俺達は馬車から降りずに、許可が出るのを待つ。まずはミラシオンと騎士が辺境伯に対して挨拶をした。


「ミラシオン! 息災か!」


「はい! 王命により視察の仕事を任されております! ヴィレスタン様におかれましてもお元気そうで何よりです!」


「まあ、鯱張るな! ワシの事はルクセンで良い!」


「は! ルクセン様。快く迎え入れてくださいましてありがとうございます」


「まあ、ゆっくりとは行くまいが、十分仕事をしていくがよい」


「そうさせていただきます。恐れ入りますがルクセン様とは言え、調査の手を抜く事は出来ません」


「はーはっはっはっはっ! 言いおる! だがお前は真面目がとりえだ! 存分に調べていくがよい! 埃の一つも出ればよいがの! はーはっはっはっはっ!」


 うわあ…豪快な爺さん。めっちゃ苦手! こう言う上司を良いという奴もいるだろうが、俺はこういうの苦手だな。このまま馬車から降りずに宿泊予定地にいきたいな。


 と思っていたら、ミラシオンの声が言う。


「此度は聖女様も同行されております!」


「うむ。聞いておる!」


 ウィレースが俺達の馬車のドアを開き、俺とアンナが馬車を降りてルクセンの所に行く。


「ヴィレスタン卿。ごきげんよう」


「おお!聖女様! 認定式依頼でしょうか? 相も変わらず美しいですなあ! 女神フォルトゥーナ様が造形したと噂されるのは本当ですな」


「おやめください。私はそのような大層な者では御座いません」


「そして相変わらず謙虚だ。国の英雄なのですから、もっと偉そうにしてもいいのですよ!」


「偉くはありません。たまたま能力に恵まれて聖女になっただけです」


「はーはっはっはっはっ! 御戯れを! 能力に恵まれただけでは聖女にはなれんのですよ! 百年の時を経てようやく降臨されたのです。この国を導いて下され」


 まあ、そうなるように頑張ってるけどね。お前らのような老害がいるから簡単じゃないのよ。まあ王都の大臣達よりは素直そうな爺さんではあるが。


「そうなるように善処いたします」


「して、陛下はお元気ですかな!」


「ええ。更に意欲的に活動しておられるようです」


「そうかそうか!」


「確か…陛下とは幼馴染でしたか?」


「そう。あ奴とは昔から切磋琢磨しておった。まあ陛下は既に武術の道を退いているらしいがの」


「ヴィレスタン卿はまだ現役のようで」


「なーに、任せられる奴がいるなら既に退いておるさ。ここは三国が交わる場所だから、ルクスエリムも我に任せておるのよ」


「そう聞いております」


「まあ、せっかく来たのであるから、募る話は夜にでも!」


 えー、やだやだ! 爺さんと話なんかしたくない! 俺はアンナとマグノリアとリンクシルとお話するんだ! まあゼリスもおまけでつけてやるけど。


「はい」


 そして俺達はヴィレ城の来賓館に案内された。ミラシオンの騎士達も城内の空いている屯所へと案内される。本来はヴィレスタン兵が使う場所だが、常に前線の砦に出払っているため空いているらしい。


 俺達が宿泊する部屋に通されメイド達がいなくなると、アンナが俺に言った。


「あの爺さん。強いぞ」


「そうなの? 年とってるみたいだけど」


「かなりできる」


「アンナとどっちが上」


「僅差でわたしかな」


「なら万が一の時は、めいっぱい身体強化してあげる」


「それをすれば、雲泥の差になるだろうが…なんと言うかズルをしたくなくなってくる」


「腕試しをしたいって事?」


「そうだ」


 なるほどね。自分程度に強い者を見ると挑んでみたくなるんだ。


「うーん。ダメ、万が一の時は有無を言わさず身体強化をかけるよ」


「分かっている。ただ、わたしの心情を素直に言ったまでだ」


「あれが、クロならちょっと大変だね」


「そうだな」


 俺達の会話を、マグノリアとゼリスとリンクシルが黙って聞いていた。だが俺はずっと考えていたことがありゼリスに話をする。


「ゼリス。ちょっといいかな?」


「なに?」


「小さい動物をテイム出来るんだっけ?」


「そう。栗鼠とか鼠とかなら」


「テイムして、領主の部屋に忍び込ませたりできる? 会話を聞くとか」


「出来る」


「マグノリアはヒッポをテイムしているから、出来たらゼリスが協力してくれたら助かるんだ」


 するとマグノリアもゼリスに言う。


「お願いゼリス。聖女様を助けてあげて」


「わかった。マグノリアが言うなら」


 ゼリスはマグノリアの言う事なら聞くようだ。まあ男の子の扱いなんてさっぱり分からんし、とりあえずマグノリア経由でやってもらう事にしよう。


 すると突然、コツコツ! と何かが窓を叩いた。


「ん?」


 すると窓の外に栗鼠が一匹いる。


「え? もうテイムしたの?」


「庭木に居たから」


 ゼリスすっげえ優秀じゃん。窓を開けると栗鼠が入ってきてゼリスの肩に乗る。美少女みたいなイケメンゼリスに愛くるしい栗鼠のコラボ。それを見てマグノリアとリンクシルがくすくすと笑った。


「かわいい」

「ホントだ」


 そして二人が栗鼠を撫でたり、尻尾を触ったりしている。


 あれだ…ホスト仲間でそういう奴いたっけ。家にトイプードル飼ってるからおいでよ作戦。可愛い栗鼠がいるんだけど、家来る? って言う作戦をゼリスは使えるって事だ。


 イケメン美少年ゼリス。恐るべし。

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