第143話 第二騎士団の捜査
まずは第二騎士団の騎士を出来るだけ広場に集めて、俺が挨拶をすることになった。もちろんルクスエリムの委任状を持っているので、俺の言葉は王の言葉として話される。
「皆様。日々の任務ご苦労様です。現状、仮想敵国としての東スルデン神国国境を守るあなた方は、いわば最前線を防衛する兵士です。まずは東スルデン神国に関しての報告はございますか?」
俺の言葉に第二騎士団長レルベンゲルが答える。
「は! 東スルデンが兵を動かしている形跡はありません。ですが、動けばすぐにこちらも陣形を整え迎撃するつもりでおります!」
「頼もしいです。それでは関所についてお伺いします」
「は!」
「国境を超えて間者が入り込んだという事はございませんか?」
「間者が? その様な事実はなかったように思います」
「まあ、見分けがつかないかもしれませんけど」
「いえ。我々はかなり厳重に入国審査をしています。仮想敵国から間者を呼び込むなど考えられません」
「わかりました。怪しい動きやもしくは不審者を捕まえたという事は?」
「それはあります! 不審者は入国を拒否、身元のはっきりしない者は一歩も我が国の土を踏ませません!」
「なるほど、では王からの指示通り各所の視察をさせていただきますがよろしいですか?」
「もちろんです!」
レルベンゲルは自信満々に言った。
「では、視察を始めます!」
そして俺と自分の部下とミラシオンとウィレース、そしてミラシオンの騎士達が屯所内を見て回った。特に不正などが行われているような形跡はない。
俺は隣のミラシオンに言う。
「今の所おかしなところはありませんね」
「その様です」
そして俺はレルベンゲルに言う。
「それでは倉庫を見せてもらえますか?」
「はい!」
俺達は倉庫に連れていかれる。そして中を見て回るが不審な物はどこにもなかった。更に建物内に入りレルベンゲルに言う。
「文官を集めてください」
「わかりました」
文官が集められて来たので、文官達に聞いた。
「これから書類を改めます。皆さんはここから動かないように」
皆が緊張気味に返事をした。王都から一緒に連れて来た文官達が、事務所をあらため始める。一通り確認したが、おかしなところを見つける事は出来なかった。するとレルベンゲルが言った。
「此度の視察はかなり厳重なのですね」
「そうです。ルクスエリム陛下には厳しくするように申し付かっておりますので」
「わかりました」
俺達は念入りにあちこちを調べるが、おかしなものは一つも発見できなかった。そして最後にレルベンゲルに言う。
「中隊長を集めてください」
「は!」
俺達が待っていると中隊長が五人ほど集まって来る。そしてレルベンゲルが言う。
「あと三名ほどおりますが、今は警備と巡回の為に出払っております」
「問題ないです」
俺とミラシオンで、一人一人面接をしてみるが後ろ暗いものを持っているのはいなかった。一通り面接が終わったところで、ミラシオンがレルベンゲルを呼んだ。
「レルベンゲル卿。真面目に警備の仕事をやっておられるようですな」
「ありがとうございます…」
だがレルベンゲルは、するどい目つきになり俺達に聞いて来た。
「何か…ありましたね?」
とうとう感づきやがった。これだから勘のいいガキは嫌いだよ。と言いたいところだが、俺は何食わぬ顔で言う。
「何か気が付くところがございましたか?」
「なんと申しますか…まるで裏切者を炙り出すかのような。その様に感じたものですから」
俺とミラシオンが顔を合わせて頷く。もちろん核心部分は少し外した話をする。俺はレルベンゲルに向かい合い話し始めた。
「実は、私が何度か襲撃を受けたのです」
レルベンゲルは目を丸くして驚いた。
「な、何ですと! 我が国の英雄を襲った? そんなけしからん奴が!」
「ええ。ですが優秀な王都の騎士達によって全て未遂に終わりました」
「そうでしょう。ですが…狙われた聖女様が直々にお出ましになるとは、どういうことなのでしょう?」
ああ…めっちゃ勘が良い。どうしよう。
するとミラシオンが助け舟を出してくれる。
「もちろん。裏切者を見つけ聖女様自らが神の鉄槌を下す為。この地上に神の怒りから逃れられるものはいないのだよ。我が領アルクスのカルアデュールでの戦いを知っているか?」
「はい。一夜にして帝国軍が敗北したと聞き及んでおります。流石はミラシオン様の兵だと我々も感心していたのです」
「ん? 聞いていない? 聖女様が一人でやったと」
「もちろん聞いておりますが、それは他国に対してのプロパガンダでしょう? いくらなんでも聖女様一人で帝国軍を倒すなど出来ぬ事、それくらい我々も分かりますよ」
するとミラシオンが大笑いする。
「あーはっはっはっはっ!」
「ど、どうされました?」
「プロパガンダではない! 実際に聖女様はやってのけた。別に我がアルクス軍の名誉がどうのこうの言うつもりはない。あの夜、我が軍は一人として動いてはいない。信じられるか? 一人として我が軍の兵士は戦っていないのだ」
「そんな馬鹿げた事があるんですか? 一人で一国の軍隊を退ける?」
「馬鹿げた事だと思うだろう? 実際に私もそう思う、だがそれは真実。全くの嘘はない」
レルベンゲルが俺の顔を見る。俺は仕方なく本当の事を言う事にした。
「たまたまですよ。私一人で敵を撃退出来たのは奇跡に近い、むしろ自分の力で大量に帝国軍が死んでしまい恐怖したものです。自分のしでかしたことに」
あれはマジでビビった。
だがそれを聞いたレルベンゲルと第二騎士団の中隊長が、目をまん丸くして俺を見るので仕方なくニッコリ笑う。すると第二騎士団の面々が跪いて俺に頭を下げた。
「大変失礼をいたしました! 私達は聖女様の功績を疑ってしまったようです。何卒無礼をご容赦ください! そんな御伽噺のような事は、あるわけ無いと笑っていたのです」
他の騎士達も頭を下げる。
するとウィレースが騎士達に言った。
「あの夜。私は直に見ました。聖女の奇跡を、神の裁きはあるのです」
「「「「「「「は!」」」」」」」
第二騎士団の騎士達がひれ伏した。
「いやいや。頭をあげてください、とにかく第二騎士団の疑いは晴れました。もちろん今の所は、ですが、内通者などが出ないように気を付けてください。我々は残りの騎士団の調査をせねばなりません」
するとレルベンゲルが言った。
「我々は、聖女様のような方が来られるのを首を長くしてお待ちしておりました。我々の騎士団でも、他の騎士団に対し思うところが御座いましたので、このような機会がある事感謝いたします!」
「なるほど…何かあるわけですね?」
「は! 騎士団であるにも関わらず、一部貴族にべったりの騎士団があると聞き及んでおりました! ですが同じ騎士団! 密告のようになるのは避けたいと思い黙っておりました」
俺はレルベンゲルに言った。
「人払いを」
「は!」
レルベンゲルが部下の騎士達を見ると、中隊長は皆部屋を出て行くのだった。
「して、何を気が付いたのです?」
「恐れながら、申し上げます! もし調べられるのでしたら、第三騎士団のライコスをお調べください!」
うわ、いきなりその名前が出て来たか。俺とミラシオンは顔を見合わせ、レルベンゲルに詳しく話を聞き始めるのだった。
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