第140話 バレンティアのいとこ

 ミラシオンの騎士団と共に、俺達は東スルデン神国との国境を防衛する第二騎士団の元へ向かった。第二騎士団は地元の領兵と共に、東スルデン神国ににらみを利かせている。この第二騎士団とアルカナ共和国との国境を守る第六騎士団が裏切れば、ヒストリア王国にとって大打撃となるだろう。


 東スルデン神国と言うが、実はヒストリア王国の西側にあった。更に西側に元は一緒の国だった、スルデン王国があり東スルデン神国はそこから独立した国家だ。これまでは東スルデンとズーラント帝国とが、裏で手を組んでヒストリア王国を攻めているのだと思っていた。東スルデン神国と隣接しているアルカナ共和国が、裏で糸を引いているとは思わなかった。


 馬を馬車の隣りに寄せてミラシオンが話しかけて来る。


「東スルデンとの国境までは二日、電撃作戦なので敵に知られている可能性は少ないとは思いますが慎重に参ります。すでに斥候が足をすすめ、宿場の安全を確保しに行っております。夜は我々の騎士団が護衛についておりますのでご安心を」


「はい」


 確かに襲撃があった後なので、アルクス領の騎士達はピリピリしていた。だが俺達は結構のんびりしている。何故ならばアンナの高感度センサーが脅威は無いと判断しているからだ。今までの経験上、アンナが何も言わない限り何も起こらなかった。


「アンナ。宿場町だってさ、どう思う?」


「まあ警戒は必要だ。今回はアルクスの騎士達も、宿場に泊まる予算を確保できているらしいからな。まずは問題ないと見ていい」


「まあ緊急で重要な任務だもんね。流石に王宮もしぶらなかったね」


「聖女の命がかかっているんだ。当然だ」


「私はアンナがいるから大丈夫だけど」


「それも当然だ」


 頼もしい。イケメン! アンナなら抱かれても文句は言わない。そして俺はマグノリアに話しかける。


「マグノリア。ヒッポはついて来てる?」


「来てます。呼べば十分かからずに来ると思います」


「上出来。まあ適当にご飯でも食べさせておいて」


「はい」


 それとリンクシルだ。初めての軍隊との行軍で、緊張しているようだった。


「リンクシル。大丈夫、あなたの仕事は私を守ってくれればいいだけ。あなたが居れば、アンナが百パーセントの力を出せる。戦いの最中私の護衛を気にしなくても良いからね、だから気楽にしてて」


「はい」


俺は皆の気持ちを確認しつつ、自分に言い聞かせるように確認していた。


 今回出動する為に、アンナはいつもの業物の剣以外にも武器を携帯していた。プラスして腰に一本の鉈のような物をぶら下げている。リンクシルには二本の短剣を装備させており、短剣には更に魔法の効果を付与しているらしい。マグノリアには、三十センチほどの魔法の杖を俺が選んで買ってあげた。いつもは杖を使わないで魔物をテイムしているが、より魔法の効果をあげるために持たせている。


 更に防具にも気を使った。アンナは鎖帷子を着こみ、その上に魔法の付与された防御力の高いドラゴンのうろこを使った鎧を着ている。目が飛び出るほどの加工費だったが、素材自体をアンナが持っていたためそれでも安いのだとか。リンクシルには伝説の魔物フェンリルの毛で編んだという、風の魔法を付与したスピード重視の服を与えている。ちなみに言うとこの素材もアンナが持っていた物。マグノリアには体の重さが感じられなくなる魔法を付与した、シルフと言う風の精霊が宿ると言われる布の服を着せている。これは帝国からの捕虜返還物資に入っていた物資で、皇帝のお宝のうちの一つなのだとか。


 俺は新しくアラクネの糸で編まれた白い全身法衣を着ていた。杖はいつもの物を使わないと、失敗しそうなので代えてはいない。


「聖女様! 宿場が見えてきました!」


「わかりました」


 外はもうオレンジ色の太陽に照らされていた。夕方までに着いたのは良かったと思う。そして俺達が下りたのはホテルでは無かった。城のような場所で、今日はここの領主邸に泊まる事になっているらしい。


 俺達が馬車を降りると、めっちゃ若いイケメンが俺達の元へと来た。そしてカッコよく騎士の挨拶をキメる。なーんかどっかで見た事あるような気がしないでもない。そして俺は微妙に嫌悪感を抱きながらそいつを見ている。


「初めまして聖女様。私、ミゼル・フィル・アインホルン男爵にございます」


 うげ! アインホルン! まさか!


「アインホルン卿。ごきげんよう」


「どうも! 聖女様! ぜひミゼルとお呼びください!」

 

 キラーン!

 

 いやいや、キラーンじゃねえつーの。てかアインホルンて言う事は?


「えーっと、バレンティア卿と何か御関係が?」


「はい! 従弟です」


 いとこ! やっぱり似てると思った! 誠実っぽい雰囲気と無駄なイケメンスマイル!


 そいつの笑顔を見ただけで、間者に攻撃を喰らうよりダメージを負ってしまった。


「そうですか」


「ルクスエリム陛下及び、バレンティアより名指しで宿泊地を指定いただきました! 今日はご安心ください!」


 するとミラシオンがにやりと笑って言った。


「アインホルン。バレンティア殿の従弟とあらば、さぞ剣の腕もたつのでしょうな」


「うーん。どうでしょう? まあ才能はあるよと言われていますが、自分ではよくわかりません! 伯爵様も是非おくつろぎ下さい!」


「伯爵様はやめてくれ。ミラシオンと呼ぶがいい」


「ミラシオン卿! ぜひよろしくお願いいたします」


 そして俺は横にいるアンナに聞く。


「どう?」


「まあまあって所だ。バレンティアよりは下」


 なーんだ。下か、つーかバレンティアは剣豪だからな。比べる方が酷か…でも、氷の騎士と呼ばれるバレンティアとは違って気さくな感じだ。本当に従弟か?


「信用できる?」


「危険な所はない。だがいざとなれば、私が聖女を守る」


 そんなに頼りにはできないつーことね。了解。


 そして俺達一行は、バレンティアの従弟である、ミゼル男爵の領主邸に招かれるのだった。騎士達は周辺の宿に泊まっているらしいので、いざとなったらすぐに駆け付けられる位置に配備しているらしい。酒は厳禁で交代で周囲を騎士達が巡回する事になっている。


 前回の時よりだいぶ厳重なので、恐らくは問題ないだろう。それよりも問題なのは、この無駄に爽やかなイケメンに、俺のリンクシルや俺のマグノリアが気を取られないか心配だ。


 だが二人を見れば全く興味がなさそうなので、俺はホッと胸をなでおろすのだった。

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