第138話 異世界のジャンヌダルク
ヒストリア王国が現状、かなり深刻な状況に陥っている事が分かった。今まではズーラント帝国と東スルデン神国が敵国だと思っていたが、なんと同盟国であるはずのアルカナ共和国が、裏で糸を引く真の敵だという。どうやらアルカナ共和国は、国内の貴族ばかりではなくズーラント帝国と東スルデン神国とも繋がって動かしているらしいのだ。
ルクスエリムが大臣達の質問攻めにあう。
「それでは八方塞りではないですか!」
「うむ」
すると財務大臣が言った。
「それでは、アルカナ共和国を先にたたけばよろしいのではないでしょうか?」
すると法務大臣がそれに首を振った。
「そんな事をすれば、周辺国から非難されるのがおちだ」
そしてそれに対し、ルクスエリムが言った。
「そのとおり。我々が痺れを切らし、アルカナ共和国に攻め入るのが一番の悪手。そんな事をすれば我が国は孤立してしまう」
「それではどのようにすれば?」
「本来であれば国内の不穏分子を急ぎ粛清すればよいのだろうが、此度の内乱の失敗によって一気に敵国に寝返る可能性も出て来た」
「反王派が国を売り渡すという事ですか?」
「そういうことだ」
「そんなことをさせてはなりません!」
皆がざわざわとざわつき、事態の収拾が出来なくなってきた。
ルクスエリムがガベルを叩いて言う。ガベルとは裁判などで使われる木のハンマーだ。
コンコン!
「友人面して近づいて来たアルカナ共和国はとんだ曲者であった。此度の帝国との捕虜返還で分かったのだが、ズーラント帝国はまともな外交をしてきた。そのやり取りで気が付き、密偵をやったところ、どうやら帝国はアルカナに踊らせられたふしがある」
すると財務大臣が言った。
「捕虜返還に関する賠償額が、こちらの想像を上回ったのはそう言う事だったのですか?」
「帝国もはっきりとは言わんが、ようは態度で示して来たというところじゃな」
「であれば帝国は攻めては来ないと?」
「いや。同盟を組んだわけではないのだ。今は聖女の力を恐れて攻めてくる事はない」
皆が一斉に俺の方を向く。確かに帝国を圧倒的に追い払ったのは俺だが、あれは立地と運がよかっただけでアルカナ共和国との戦争では通用しないかもしれない。
するとダルバロス元帥が言った。
「必死に聖女様を狙うのはそのためだったのですな」
「そうじゃ。アルカナ共和国は聖女がいる限り、帝国と上手く付き合う事は出来んじゃろ。だから聖女を消して帝国との同盟を強めようとしたのだろうな」
するとそれを聞いていたミラシオンが手をあげる。
「ミラシオン。発言を許す」
「捕虜返還のおりに、帝国の高官がこちらに言った言葉があります」
「それはどのような?」
「聖女は本当の神の使いなのかと」
「なるほど」
「そして、帝国兵に聖女様へのお目通しを願いたいと。それは敵対するような雰囲気ではございませんでした」
いや。確かに俺もその場にはいた。でも自分の兵を大量にぶっ殺されて、平和に住むのだろうか? と俺は不安になったものだ。
「それはこちらへの書簡にも書かれておったわ。もちろん聖女を帝国兵にさらす真似など出来んがな」
「はい」
そこでケルフェン中将が挙手をする。
「うむ発言を許す」
「恐れながら陛下。帝国から受け渡された領土はどのようになるのでしょうか?」
「まだ決まっておらんのだ」
「であれば、早めにその領地を統治する事が必要かと」
「そう思っていたのじゃがな。騎士団の状態を調べる必要がある」
と言う事はだ。第二、第四、第五、第六騎士団の軍部を抑えれば、次の一手が打てるという事だ。今はまだ帝国の意思が分からないが、もしかするとあれはヒストリア王国に対しかなり譲歩した結果だとも考えられる。最初は罠かとも思ったが、今聞いた内容からすればそうとも限らない。
俺が挙手をする。
「恐れ入りますが陛下! まずは王都の警備を厳重に固める事が必要です」
「それはそうじゃが、身動きが出来る者が居なくなる」
「それでも! 近衛騎士団および第一騎士団には王都に残っていただきます!」
「だから、それだと動けるものがおらぬのじゃ」
「そうでしょうか? 今、陛下の目の前におりますが?」
「フラルがか? ならぬ! 一番狙われているのが聖女なのじゃぞ!」
「王家が残ればヒストリアは存続できます! それに、ここにはカルアデュールのもう一人の立役者がいるではないですか!」
俺に目配せされたミラシオンが立ち上がった。
「陛下! 帝国がしばらく動かぬと想定されるのであれば、我がアルクス兵をお使いください!」
「それはやぶさかではないが、なぜ聖女も一緒に動く?」
するとバレンティアが言う。
「恐れながら陛下!」
「なんじゃ!」
「聖女様の身体強化魔法をご存知でしょうか?」
「目の前で見たわ」
「あの魔法を掛けられれば、百の騎士が万の働きをするかと思われます! 此度の近衛の力を持って思い知りました!」
「なに? それほどのものか?」
「は!」
するとフォルティス第一騎士団長も言う。
「バレンティア卿のおっしゃる通りです。我が第一騎士団からもそのような報告を受けております! ワイバーンがまるで紙切れのように裂けたと! 騎士と聖女様は相性がよろしいかと」
「そうなのか…。じゃがフラルを危険な目に合わせるわけには」
それに俺が答えた。
「陛下! 恐れながら申し上げます! この情況で温存できる駒などありますでしょうか? 猫の手も借りたいほどの状況。ならば動けるものが動くべきです」
「…大臣達はどう思う?」
すると法務大臣も財務大臣も他の大臣達も言った。
「陛下。既に道はないかと」
俺があちこち行く羽目になりそうだが、家に籠って待つよりはずっとましだ。とにかく動かねばソフィアが処刑されてしまうかもしれない。とにかく俺は必死に説得した。
そして俺の隣りに座っている教皇が立ち上がる。
「恐れ入ります。陛下、回復魔法を使える教会の者を騎士様と共にお使いください」
おお、教皇。グッジョブ! 金を握らせて正解だった。
「なんじゃと? 聖職者をドサ周りさせるというのか?」
「はい。聖女がさきほど言っておりました。猫の手も借りたいと! ならば出し惜しみなどしてる場合でございましょうか?」
「……」
ルクスエリムが一時言葉を失った。そして俺はルクスエリムに言う。
「例の孤児学校の件で御座いますが、一般市民に隠れている魔法使いを探させましょう。ギルドの冒険者にですら魔法使いがいるのですから必ずおります。階級にこだわっていては滅亡にかかわる状況にまで来ております」
「…うむ。そうじゃった。その為にフラルは動いておったのだったな」
「はい」
そう。教会に金をばらまいたのも、孤児達に学校を作って学ばせようと思ったのも、全ては女の社会を確立する為の布石。女が強い国は強い、年老いたジジイが政治をしていたからこんな情況になったんんだよ! もう使えない男やジジイ達がのさばる世界は終わらせましょう!
とは言えない。
「すべてはヒストリア王国の為に!」
俺が物凄くキリリとした声で言うと、大臣達と教会と騎士団が盛大な拍手をした。
もうやるしかねえ。異世界のジャンヌダルクとなってやる。
俺は自ら後戻りのできない、表舞台に躍り出てしまった。まあせいぜい気を付けて、ジャンヌダルクのように火あぶりにならないように気を付けようと思うのだった。
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