第135話 王子と姫
王族を聖女邸に匿った事で、俺達も一緒に聖女邸に引きこもるしかなかった。王城に向かった近衛騎士団がどうなったのか? 第一騎士団はいつ王都へたどり着くのかも全くわからない状態だ。ルクスエリムとブエナは地下に籠り、ミラシオンとウィレースが秘密の入り口のある部屋に待機している。ミリィがルクスエリム達の世話をして、リンクシルがドアの前に立って護衛をしていた。
カレウスとビクトレナは俺達と一緒に居たいという。ルクスエリムの許可が下りたので、二人は二階の執務室へと来ていた。俺とアンナが二人に相対して座っていた。
俺は二人に話しかける。
「大変な事になりましたね」
王子のカレウスは腕組みをしながら、ドカッと椅子に座り不満げだった。
「逃げたってどうにもならない!」
「恐れながら皇太子、今は我慢の時です」
「そうですわお兄様。聖女様のおっしゃるとおりです」
「王城が乗っ取られてしまうんじゃないのか?」
「それはあり得ません。忠実な家臣もおりますし」
「でも! このままじゃ!」
ちょっと落ち着けよ! 青年! お前がワイワイ言ったってどうにもなんねえよ!
「いずれ陛下が表に立たなければならない時は来ます。まずは騒ぎを収める事が先決です。近衛と第一騎士団を信じて待ちましょう」
するとカレウスは黙った。むしろこの聖女邸の周りには、ルクスエリム直属の諜報がうろついているはずだ。ここに居ればルクスエリムは守られるだろう。
どちらかと言うと、王子のカレウスよりビクトレナの方が落ち着いている。俺と一緒に居る事で安心してくれているらしいが、久々に見ても化粧が濃くて巻き髪もしっかりとロールしていた。
待てよ…。もしかしたら、今日初めてビクトレナのすっぴんが見れてしまうんじゃね? まあ、今はそんな浮かれた気持ちも半分半分だが。
コンコン!
ドアがノックされた。アンナがドアを開くと、そこにはジェーバとルイプイが立っていた。
「あ、あの! アデルナさんに言われました! ミリィさんの代わりに身の回りの世話をするよう」
ジェーバが一生懸命に丁寧な言葉で話すが、緊張しているようでカチコチだ。ミリィは仕方なく、ルクスエリム夫妻とミラシオンの世話をするために貸してやったのでその代わりだった。
ミリィが取られてしまったようで、めっちゃ寂しいが今は我慢するしかない。
俺達も執務室に鮨詰めだし、聖女邸の面々も今は外出が出来ない。完全に軟禁状態になってしまった。王家族がここに居る事は、まだ外には漏れていないはずだがバレればまずい。
「スティーリアとヴァイオレットは?」
「二人はキッチンメイドを手伝っています」
「マグノリアは?」
「ヒッポを納屋に入れたのでそこに。馬は庭に放してます」
「わかった」
すると俺の側にビクトレナが来て座る。
近っ!
「凄く大変な時ではありますが、こうしてゆっくり聖女様とお話をするのは久しぶりにございます」
確かにそうだ。俺はしばらくビクトレナとは話をしていなかった。ビクトレナは俺の手を取って上目遣いに話をしてくる。まあ…可愛い。
とりあえず俺が話題をふる。
「最近は女子会など開かれて無かったのですか?」
「少し前に、ですが聖女様がいらっしゃらなくて退屈でしたわ」
マジか。少し前ってどれくらいだろう?
「少し前?」
「ええ。聖女様がお忙しくなさっている時でした」
「どんな人が集まったのです?」
「ああ、ソフィアとミステル、アグマリナとマロエ。いつもの子達ですわ」
うっそ! ソフィアと会ったの? そこ、詳しく聞かせて!
まあ…がっつくわけにはいかない。今、ソフィアは火中の人であり、親のマルレーン公爵は反王派だという可能性が高い。
「皆さんは、お元気でした?」
「うーん。どうでしょう?」
「お元気ではなかった?」
「はい。その時はソフィア嬢が塞ぎこんでいたので、皆で元気づけようという会になったのでしたわ」
可哀想! マジ? ソフィアがふさぎ込んでいる? そりゃ間違いなく親のせいだ。
「う、コホン! そうだったのですね。ソフィア様が…」
「聖女様に会いたがっておりました。あるいは聖女様ならば、ソフィアを元気づけられるのではないでしょうか?」
ビクトレナがあっけらかんと言った。と言う事は、マルレーン家と王家の複雑な事情を知らないのか? 余り詳しい事は聞けないな。
「私もお会いしたいです。ソフィア様は笑顔が似合いますから」
「お茶会、依頼ですね」
「そうです」
そうか。ソフィアが沈んでいたか、俺と同じ気持ちなんだろうか? ソフィアちゃん。今、俺は精一杯頑張っているからね! 必ず迎えに行くから待っててね!
するとカレウスがビクトレナに言った。
「気楽なもんだ。女はこれだからいいよな」
うるせえ! お前が一体何をしてるって言うんだ! 平々凡々とお勉強なんぞしやがって。
するとビクトレナがカレウスに言った。
「私の事は良いです。でも聖女様の事は言ってはいけません」
「べ、べつに。俺は聖女の事を言ってはないけどな」
ガキが。ちゃんとわきまえてしゃべれ。
「まあ、よろしいではありませんか。こう言う時ですから気がたってしまう事もございます」
「聖女様にそう言っていただけるとありがたいですわ。とにかく、早く収まることを祈りますわ」
「そうですね」
コンコン! その時、部屋がノックされる。ルイプイがドアを開くと、スティーリアとヴァイオレットがメイドと共に料理を運んで来た。
「お待たせいたしました」
「ふう。少しは一息付けそう」
するとカレウスが言う。
「今は喉を通らない」
食え! ぼんくら!
「いいえ、カレウス殿下。こう言う時だからしっかり食べるのです。もし戦になったら力が出ませんよ」
「戦? 俺が?」
「そうです。ここもバレる可能性がありますから、その時は戦わねばなりません。大勢の敵勢力が押し寄せてきた時、どうするおつもりだったのですか?」
「…そんな。近衛は? 第一騎士団は?」
「ここに敵が来た時は、既に彼らは絶望的でしょう」
それを聞いたカレウスは腕を抱くようにして固まった。恐らく震えを抑えているのだろう。
まあ。自分で戦えないつー気持ちは分かる。俺もヒモ時代は戦いから逃げて来たからな、でも守るものがいる以上は戦わなければならない。
「殿下。どうかビクトレナ様をお守りくださいませ」
「あ、ああ…」
次々に料理が運び込まれ、小さなテーブルで俺とアンナ、カレウスとビクトレナは食事を始める。
アンナはいつもながらガッツガツと補給していた。ここまで戦い尽くしだったので、相当消耗してしまっていたのだろう。俺も大量魔力消費をしたので、ガッツリ食って寝るつもりだった。それを見たビクトレナが健気にも肉にがっつく。カレウスだけ青い顔をしながら細々と食うのだった。
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