第134話 王様を匿う

 第一騎士団とアルクス領兵が、第三騎士団の残党を連行して王都に進む。死んだ騎士達の骸は、一度この事件を収めてから回収する事になった。罪人を連行しながらなので、行進の速度は遅く時間がかかる。またルクスエリムが一緒に居れば、別な勢力に襲われる可能性もあると推測された。


 フォルティスが俺達に願い出る。


「恐れ入ります! 聖女様! その空飛ぶ魔獣で、陛下達とミラシオン卿をお連れ頂けまいか!」


 するとミラシオンが言う。


「我は共に進むが?」


「すまないが伯爵! あなたとウィレースは陛下の護衛について欲しい」


「わかった。フォルティス殿、役に立たずたくさんの部下を死なせてしまった。申し訳ない」


「それはお互い様。突然の裏切りに対応できなかったのは、第一騎士団の落ち度」


 するとルクスエリムが言う。


「今回の事は第三騎士団のライコスが起こした事だ。他の責任は不問とする」


 フォルティスとミラシオンが声をそろえて言った。


「「しかし!」」


「今は時間が惜しいのだ。すぐに行かねば」


「「は!」」


 俺がルクスエリムに言う。


「それでは陛下、馬車にお乗りください」


「うむ」


 そして王様家族と俺とアンナ、マグノリアとミラシオンとウィレースが馬車に乗り込んだ。すぐにマグノリアがヒッポを飛ばし、王都方面へと飛び去るのだった。そして俺がミラシオンに言う。


「スフォルは残念です。いい騎士でした」


「はい」


 するとウィレースが言った。


「あいつは仕事をしました。我が騎士団でも一番の功労者です」


 するとルクスエリムがミラシオンに言った。


「スフォルとやらに家族は?」


「おります」


「ならば二階級特進と名誉勲章を授与し、家族には報奨金をとらせよう。聖女を守ったその功績は大きい」


「ありがとうございます!」


 そして俺達の空飛ぶ馬車が王都上空に差し掛かった。するとルクスエリムが俺に言った。


「聖女邸に向かうがよい」


「危険では?」


「いや。あそこには秘密の部屋がある」


「わかりました」


 はて? 秘密の部屋? そんなのあったっけ? 


 とりあえず俺達の馬車は、聖女邸に降り立った。足早に皆が下りて、聖女邸の中に走っていくとミリィやスティーリアが俺達を出迎えた。俺がミリィに言う。


「陛下がいらっしゃいました」


「は、はい!」


 聖女邸の皆に緊張が走るが、ルクスエリムが言った。


「気を使うな。それよりも、秘密の部屋の場所を教えよう」


「わかりました」


 そして俺達はルクスエリムについて、勝手知ったる我が家の奥に進んでいく。今は使っていない一階の奥にある来客用の寝室に入り、ルクスエリムは暖炉の後ろに手を伸ばす。するとレンガが一つ外れて、その中にレバーのような物があった。ルクスエリムがそれを手前に引くと、ガチャンと音がして暖炉ごと前にずれて来る。


「こんな場所が…」


「元は王室の建物だ。逃げ場所くらいは確保してある」


 俺はくるりと振り向いて、ミリィに火を持ってくるように言った。ずれた場所の下には地下に続く階段が出て来た。ミリィが火を灯したランプと木の枝を持ってくる。


 そしてルクスエリムに続いて、俺達はその石階段を地下へと進んでいくのだった。ところどころの壁にあるランプに火を灯しつつ、下に降りるとそこには丈夫な木の扉があった。それをおして中に入ると、そこにはベッドや本棚などがある広めの部屋があったのだ。ランプに火をつけて、中を灯すと全体が見渡せるようになる。


「ここは安全なのですか?」


 俺が聞くと、ルクスエリムが頷いた。


「ここはワシとブエナしか知らん。まさかここに避難する日が来るとは思わなんだがな」


「陛下。それでは私の使用人が責任をもってお世話をさせていただきます」


「うむ。すまんな」


 すると王妃ブエナがミリィに言った。


「久しぶりねミリィ。きちんと聖女のお世話をしてくれているのね」


「はい。聖女様にはよくしていただいておりますので」


「そう。よかったわ、まさかフラルがこんなに機転が利く人だったなんて、改めて気付きましたよ」


 そりゃ中身が違う人になってるからね。いずれにせよ、王一家にはここで隠れていてもらうしかない。すると後ろでミラシオンが言う。


「私はここの存在を知ってしまってよろしかったのでしょうか?」


 するとルクスエリムが言った。


「隠れる場所はここだけではない。一カ所知られただけでどうという事はない」


「はい!」


「まずは皆座れ。ミラシオンよ、お前にも苦労をかけた」


「いえ。当然の事をしただけです」


「お前は爵位も考えねばならぬな」


「お心遣いはありがとうございます。ですが、それは聖女様に」


「フラルはいらんと言うのよ」


「そうでした…」


 すると今まで青い顔をしていたビクトレナが口を開く。


「聖女様。聖女様が無事で本当によかった!」


 そりゃ俺の台詞だよビクトレナ。可愛いあなたが無事で本当に良かった。


「王女殿下。私はこの国を守るために聖女になりました。私とて当然の事をしたまで」


 俺がきっぱりと言うと、ビクトレナは頬を染めてニッコリ笑う。


「あの、素敵です!」


 おふっ! いきなりのボディパンチ! 俺は思わずビクトレナにチューをするのを堪えた。そしてニッコリと笑い言う。


「王女殿下、皇太子殿下。これからお国の未来を背負って立つお二人を救えたこと、私は誇りに思っております」(特にビクトレナね)


「「ありがとうございます」」


 それを見ていたルクスエリムが言った。


「しかし不甲斐ないのはワシじゃ。国の中がこんなになっても、なかなか手を出す事ができなんだ。今回の一件がどう転ぶか分からんが、この機会に膿を出せたらいいのだが。危うく国を滅ぼした王になるところであったわ。聖女がいなければこの国は終わっとったよ」


「そんなことはございません!」


 俺は慌てて訂正する。しかしルクスエリムが続けた。


「この国がここまで腐敗していたのを見逃して来たのだ。むしろわしの罪は大きい」


 なるほどねー。つーか、ここでルクスエリムに恩を売っておけば、女の自立を促すのに協力してくれるんじゃね? なんとしてもソフィアを救いたいし。


 俺は言う。


「事を急いてはどうにもなりません。また、今回の事件を起こした真の相手は他にいるやもしれません」


 だがルクスエリムが目をつぶって頭を振る。


「おおよその検討はついている。既に諜報がある程度の情報を集めているからな。今は一も二も無く、王城の制圧と王都内の間者の一掃をしなければならん。ミラシオンよ、ワシの手足となってくれるか?」


「かしこまりました」


 はあ…。俺は心の中で深ーいため息をついた。バラ色の聖女邸生活に、邪魔者が入る事がたった今確定したからだ。それでも俺はそれを表情に出さずに、思慮深い顔でそこに立っているのだった。

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