第129話 反乱
容疑者を連れた俺達の行列は、警戒しつつ王都へと向かっていた。俺達の馬車の後には牢の馬車が繋がれている。その周りを隊の中心人物達が警護をしているのだった。フォルティスは全体指揮をとるために先頭を走っている。
周りにはマイオールとミラシオン、スフォルとウィレースがいた。更に第三騎士団長のライコスと騎士達が周りを囲んでいる。第一騎士団の騎士もあたりを警戒してついて来ていた。
聖女邸の全員は三頭立ての大きな馬車に乗り、全員が一緒に固まっている。後ろの窓から後方に繋がれた牢の馬車を見るが、布がかけられており中を見る事は出来なかった。
「手引きした人間がいたなんてね」
「そのようですね。これで敵の正体がわかればいいのですが」
「だよねぇ」
それがはっきりすれば、国内を二分する内乱が始まるんじゃないのか? だがこうなってしまった以上は、いろいろとはっきりしてくる事だろう。
俺が馬車の窓から顔を出すと、すぐ隣にはスフォルがいた。スフォルはミラシオンの騎士団の精鋭で帝国戦では一緒に動いた。スフォルは外をのぞく俺に気が付いてニッコリと笑う。俺は笑い返す事無くスッと席に座った。
「若い男だらけ…」
するとアンナが俺を叱る。
「聖女。不用意に顔を出すな」
「あ、ごめん」
何故かアンナはピリピリしている。周りは騎士達にがっちり固められているのだから、そんなに警戒する事は無さそうなのに。だが、俺はアンナの言う事を聞いて生き延びてこられた。ここは、おとなしくアンナの言う事を聞いておこう。
俺は気を取り直してアデルナに声をかける。
「とにかく、王都についたら次の行動に移ろう」
「左様でございますね。想定以上に戦利品がありましたので、いろんな事が出来そうです。ギルドの上級冒険者なんかを使えるかもしれません」
「そうだね。いつもいつもギルマスを使う訳にもいかないだろうし」
「はい」
中間地点を出発して、三分の一が過ぎた頃だろうか? 何も起きそうにないので、騎士達の安堵した雰囲気も伝わって来た。このまま行けば夕方には王都に到着するだろう。どうやら取り越し苦労だったのかもしれないな。
だが、俺の考えは見事に打ち砕かれる。
アンナの気が更に張り詰め始めたのだ。
「聖女。魔法の杖を、マグノリアはヒッポを呼び寄せておけ」
「えっ! どうしたの?」
「わからん。だが…」
アンナの産毛が逆立っているのがわかる。何かを感じ取っているようだ。
俺は皆に言った。
「みんな。馬車の奥に行って! 短剣は持っている?」
「「「「「はい!」」」」」
皆が懐から短剣を取り出した。すると唐突に外が騒がしくなる。まさかこの集団に襲撃をかけて来た? それはさすがに自殺行為だと思うのだが…
だが唐突に後ろから爆発音のような物が聞こえた。俺が後ろの馬車を見ると、屋根が吹き飛んでいる。
「なに?」
アンナの気が最大限に張り詰め、俺に声をかけて来た。
「全員に身体強化をかけれるか?」
「えっ! わかった」
でも正直ミリィやアデルナの体が持つか分からない。なので攻撃力強化系では無く、防御系の身体強化をかけていく。結界と思考加速をかけ筋力強化をかけ、いつでも逃げれるようにしてやった。
外から争う声が聞こえて来た。
「な、なにをする!」
「ごめん!」
「ぐあ!」
外がバタバタしているが、うかがい知れない。外を確認する為にアンナが、ドアを開けるとそこにスフォルが居た。警戒して後ろを振り向いているところだった。
スフォルはアンナに言う。
「開けないで! 扉を閉めて!」
だが、いきなりスフォルの腹から剣が突き出て来た。スフォルは血を吐き落馬してしまう。その後ろにいたのは、第三騎士団の騎士のように見えた。
バタンとアンナがドアを閉めると、ドアにズボっと剣が差し込まれた。アンナは後ろを振り向いて俺に言う。
「仲間割れだ」
「どう言う事?」
「第三騎士団と第一騎士団が戦っている」
「…うそでしょ」
だがアンナはそのまま、前に乗っている第一騎士団の御者に言った。
「馬を走らせろ!」
「は?」
「早く!」
「は!」
俺達の馬車は少しスピードを上げたが、後ろに繋がっている牢の馬車が邪魔の様でそれほどの加速はしなかった。
「まっていろ!」
アンナは扉を開いて外に出て行ってしまった。俺達が呆然としていると、突然馬車がスピードを上げた。アンナが再び馬車の中に戻って来る。
「切り離した」
俺が後ろの窓から見ると、繋がっていた牢屋の馬車が切り離されていた。
「なんで、第三騎士団が…」
「分からん!」
間違いなくターゲットは俺だろう。スピードを上げた馬車は揺れが激しくなり、立っているのもやっとになって来た。
「どうしよう」
だが俺の言葉に答えずに、アンナがマグノリアに言った。
「ヒッポはまだか!」
「もうすぐ!」
「急がせろ」
「はい」
俺が外を見ると、マイオールとウィレースが第三騎士団の騎士と馬上で斬り結んでいた。他の奴らもあちこちで剣を交えている。だがその時、ドン! と屋根に何かが下りた音がした。
「聖女! 天井に電撃だ!」
「はい!」
俺は無我夢中で屋根に向けて電撃を放つ。すると後方に何かが転げ落ちて行った。
「もっと速度をあげろ!」
アンナが馬を操る騎士に声をかけた時だった。
ドス!
なんと騎士の首に矢が刺さって倒れてしまう。操るものが居なくなった馬は更に暴走し、どんどん加速していく。揺れも激しくなったところで外から声が聞こえて来た。
「聖女様!」
俺が窓を開けて外を見るとフォルティスだった。
「これはいったい! なんです!」
「ライコスが裏切りました!」
「そんな…」
「とにかく御者がいない! 馬車が危険です!」
するとアンナが言う。
「わたしが!」
だがアデルナがそれを遮った。
「アンナ様は聖女様を守っていただかないと! 私が行きます!」
そう言ってアデルナが、ドアの所に向かっていく。アンナが先回りをして言った。
「わたしが上に登る! 引き上げてやる!」
「はい」
猛スピードで走る馬車の上にアンナが登り、アデルナを引き上げた。そのまま前に行き、死んだ騎士の手から手綱を取り返して馬を制御する。
それを確認したフォルティスが叫んだ。
「聖女様はこのままお逃げ下さい! 第一騎士団の方が数は多い! だが危険です!」
「わかりました」
そしてフォルティスは加勢する為に、後ろに下がって行った。アンナはアデルナに矢が飛ばないように隣に立って周りを警戒している。
その時だった。マグノリアが言う。
「ヒッポ、来た!」
すると前の小窓からアンナが叫んだ。
「これから馬を切り離す! ヒッポにこの馬車を持って飛ぶように言え!」
「はい!」
アンナが前に立って剣を振りかぶり、馬を繋ぐ手綱と柱を全て斬る。馬はそのまま駆け出して、馬車はガクンとスピードを落とした。
「やれ!」
アンナが声をかけると共に、唐突に振動が無くなった。
「えっ?」
俺が外を見ると、地面がどんどん遠ざかっていく。なんと俺達が乗る馬車はぐんぐんと高度を上げていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます