第128話 容疑者情報
ミラシオン邸の入り口から、ずらりとどこまでも騎士の隊列は続いていた。ミラシオンも王室への報告へ行くために護衛の騎士団を連れていく。領兵のウィレースとスフォルが来た。
「再び聖女様とご一緒出来る事、光栄でございます」
「帰りはご安心ください。私の命に代えてもお守りいたします」
あー、はいはい。さっきマイオールにも同じことを言われたよ。
そしてミラシオンが、シュバイスとソキウスに語り掛ける。
「留守は頼む。捕虜の返還直後に帝国が動く事はないだろうが、十分警戒を怠らぬよう」
「は! 肝に銘じて」
「お任せください!」
帰りは来た時より更に大所帯となった。一緒に来た第一騎士団と先行していた第一騎士団が一緒になり、さらにミラシオンが率いる騎士も合流する。これだけの大部隊で動けば、刺客など入り込む隙は無いだろう。
だが集団が大きくなれば、それだけ管理が大変になる。まあ第一騎士団とミラシオンのところに、粗相をする騎士がいるとは思えないが、万が一があるので気を引き締めていこう。
行列は一日をかけて途中の宿場町に到着した。だが帰りは、宿には泊まらない事になっている。騎士団の野営地の司令部の側に、俺達の天幕が用意されたのだった。帰りは風呂も無く、食事も騎士団が食べる物と同じにしてもらった。
フォルティス騎士団長が俺達に頭を下げた。
「申し訳ございません。帰りはこのような扱いになってしまいました」
「仕方がありませんよ騎士団長。それに私達は旅行に来たわけではありませんから」
「そう言っていただけると助かります。なお、護衛に関しては鼠一匹入り込む余地はございません」
「期待しています」
フォルティスの説明が終わって、ミラシオンも俺に言う。
「ウィレースとスフォルも護衛に置きます。彼らの剣の腕はたちます。何かあれば命を捨てるように命じております」
「は! 私の命は聖女様の為に!」
「同じく! 命を捧げさせていただきます」
いやいや。暑苦しいし、寝覚めが悪くなるから。まあ本当に危ない時は俺達の為に死んでね。
俺が言う。
「命を賭けるなどと。あなた方も陛下の大切な騎士です。自分の身は大切になさってください」
「「寛大なお言葉! 感謝いたします!」」
ふう…こりゃ、今日はミリィには甘えらんねえな。
ミラシオンが騎士二人に言う。
「くれぐれも頼んだぞ」
「「は!」」
そしてマイオールもグイっと前に出て行った。
「そして私もおります。曲者など近づけさせません」
いやいや。俺にとっちゃお前ら男全員が曲者だけどな。男の中に眠るなんて、危なくてしかたねえ。俺はどうなっても良いとして、ミリィやマグノリアに手を出したらぶっ殺す。マジで。
「ありがとうございます。期待しています」
「は!」
フォルティスとミラシオン、そして騎士達が今夜の警護について話を始めた。その隙にアンナが周りに聞こえないようなちっさい声で言う。
「いざとなったらこいつらは肉の盾だ。聖女はわたしが守る、それが約束だ」
「わかってる。アンナ」
アンナの物騒な言葉を最後に、聖女邸の人間は従者も含めて同じ天幕に入る。俺、ミリィ、アデルナ、三人の従者が中にすわった。カンテラが置いてあり天幕内が明るく照らされている。
そしてアンナが入り口付近に胡坐をかいて座った。
「皆は安心して休んでくれ」
「ありがとうアンナ」
「ああ」
ミリィが俺の服の紐を緩めてくれた。更にミリィが従者達に目配せをすると、三人が寄って来る。
「失礼いたします」
俺の靴を脱がせて、足を優しくマッサージしてくれた。
「ふう、ありがとね」
「いえ。お疲れのようでしたので」
アデルナが俺に言った。
「まさか、残り全部を回してくるとは思いませんでしたね?」
「王宮?」
「はい。王室で全くとらない、と言うのはどういう事なのでしょう?」
「どうなんだろうね。陛下には何か考えがあるみたい」
「そのようです」
「いずれにせよ、有効に使わせてもらう。かなりの額と物資があるし全て自由にしていいらしいし」
「はい。計画が進みそうです」
俺はアデルナに向けて人差し指を唇につけた。
「そこまで」
「はい」
そしてしばらくすると、馬の蹄の音が聞こえて来た。
「なんだろ?」
アデルナが言う。
「また敵襲でございましょうか?」
するとアンナがそれに答える。
「いや。危険性はない、恐らくは味方だ」
「そうですか」
どうやら騎馬隊がやってきたようだ。俺達には関係ないと思うので、適当に寛いでおく。だがしばらくすると、外から声が聞こえて来る。どうやらマイオールの声だ。
「聖女様に? 既にお休みだが?」
「フォルティス騎士団長とミラシオン伯爵からの要請です」
「わかった。ちょっと待て」
そして天幕の方に足音が聞こえて来る。
「お休みの所、申し訳ございません。何卒本部の天幕までお越しいただけませんでしょうか?」
うわあ…めんどくせえ。もう休もうと思ってたのによ!
「わかりました。すぐにまいります」
ミリィがシュッと俺の準備をしてくれ、従者達が靴を履かせてくれた。そして入り口にいるアンナに言う。
「行こう」
「ああ」
俺とアンナが外に出ると、マイオールとウィレースとスフォルがいた。護衛する気マンマンで立っている。
「何事でございましょう?」
「第三騎士団長のライコス様がお見えです」
「わかりました」
俺達が本部の天幕に行くと、第三騎士団の騎士達が俺に跪いた。跪きながらライコスが俺を見上げて言う。
「お休みの所、申し訳ございません」
「いえ。何事です?」
「まだ捜査中ではありますが、面白い者を捕らえました」
「なんです?」
「恐らくは間者の出入りを手引きした者かと、服薬して自害しようとしたところを止めました。今は第三騎士団にて預っております」
なんだと?
「そうですか。それで、その者をどうするおつもりです?」
「それを相談しにきました」
するとミラシオンが俺に言って来る。
「このような大部隊で動く事は滅多にございません。この際、第三騎士団も一緒に容疑者を連れていく事を進言いたします」
ま、それが妥当だね。そしてフォルティスが言う。
「ですが、重要参考人ですので、道中それを殺害しようと襲撃を受ける可能性があります」
「それはそうでしょうね。ちょっと待ってください」
俺は頭をぐるぐると回した。標的になるとすれば俺が第一候補、そして重要参考人が第二候補、マグノリアが第三候補と言ったところか…。バラバラにされると、俺とアンナが動いた時に守りにくいな。
「隊列の再編をしてもよろしいでしょうか?」
俺が言うとフォルティスが答えた。
「どのように?」
「間者の標的になる者が増えました。第一目標は私、第二目標は容疑者、そして襲撃事件にも絡んだマグノリアが第三目標となり得ます」
「そうなるかと」
「守りは一点集中の方がよいです。その容疑者は私の馬車に」
「いや! それはなりません! それでは、同じ馬車に繋ぎ牢を引かせましょう」
まあ確かに、いくら拘束してても同じ馬車は危ないか。フォルティスの案で行くとしよう。
「では、フォルティス騎士団長の案で」
すると第三騎士団長のライコスが言った。
「我も警護に当たらせていただいてよろしいですか?」
「いいでしょう」
「は!」
話は終わった。ライコスは戻り、俺達も天幕へと戻る。
するとアンナが俺に言った。
「…警戒したほうが良いな」
「そう?」
「まだわからないが、明日はわたしから絶対に離れるな」
「わかった」
アンナのただならぬ雰囲気に、俺は気を引き締めるのだった。一夜明けて日の出と同時に部隊を再編、俺達は再び王都に向けて出発するのだった。
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