第124話 捕虜返還前日会議

 無事にアルクス領の城塞都市カルアデュールについた俺達は、一連の襲撃をミラシオンに告げた。ミラシオンの城内に錚々たるメンバーが集まり会議をしているのだった。


 俺の左隣りにミラシオン、そのまた左隣にはアルクス領兵長のシュバイス、そのまた左隣にはアルクスの魔導士のソキウス。そして俺の右隣には第一騎士団長のフォルティス、その右隣に副団長のマイオールが座っている。俺の後ろにも椅子が用意され、アンナが座っていた。直接間者を撃退したとして、証言が必要になるかもしれないとの判断だった。


 今のところミラシオンは確実に王派であるとは思う。第一騎士団のフォルティスも、ルクスエリム王の諜報の話では王派で間違いないらしい。


 だが、今のヒストリア国内が王派と反王派に別れて不穏な動きが出ている事は、ここにいる誰も知らないはずだ。


 ミラシオンが言う。


「間者の集団は国外から入り込んだのだろうか? 我が領では万全の警戒態勢をとっていたので、入り込む余地はなかったはず」


「もしかすると捕虜に内通者がいたとか?」


「それも考えにくい。ズーラント帝国からは人は来れないようになっている」


 ミラシオンとフォルティスが話をしている。それを聞いたマイオールが意見をした。


「聖女様を襲った、仮想敵国である東スルデン神国という線はありませんか?」


「可能性は無くもないが、そもそも捕虜引き渡しの件が国外に漏れているのか?」


「確かに」


 やはり誰もが、国内に対して疑いの目を向けてはいないようだった。そうなってくると、騎士団や領兵の目を盗んで準備する事はたやすいだろう。


 まったく…、純粋に敵国だけならまだしも、内乱の火種があるなんてややっこしい。俺も方々に少しずつ根回しをして敵味方を判別しているが、いまだほとんどがはっきりしていない。


 皆が眉間にしわを寄せて話をしているが、国内の反乱分子路線を加味しないと話は進まないだろう。


 そしてミラシオンが言う。


「この引き渡しのタイミングで、帝国が何かを仕掛けようとしているとは考えられないだろうか?」


 それにフォルティスが聞く。


「それはどう言う事です?」


「やけに敵の譲歩案がこちらに都合がいいのだよ。こちらが喜ぶように仕組まれているような気はしている」


「なるほど。それは陛下も言っておられた…」


 そこで俺が口を開いた。


「今回、帝国は大部隊を率いてはこないのでしょう? あくまでも引き渡し要員だけが送り込まれると言う事なのですよね?」


「その手筈になっております」


「犯人が帝国と考えるのはいささか違うような気がしています。もしこちらにそんなことを仕掛ければ、捕虜交換は決別しますし、引き取りに来る人らは皆殺しに合うと思うでしょう」


「となれば、帝国に捕虜を返してほしくない勢力の犯行でしょうか?」


 多分それも違うような気がするし少し当たっている気もする。俺の想像では純粋に俺の首を手土産に、どちらかの国に行こうとしている奴がいるんじゃないかと思う。だが俺としては、今回の帝国との捕虜交換の件は絶対に進めてほしかった。次の動きをとるためにも、それは必須であると言える。


「ともかく、今回はかなりの兵がここに来ています。速やかに捕虜返還をすべきだと思います」


「それはそうですな。これ以上の捕虜の駐留はヒストリア国の資源の無駄になります」


「そうですね。それでは、明日の捕虜交換は予定通りに行うと言う事でよろしいですかな?」


 皆に異議は無かった。かなりの戒厳令が敷かれた中での捕虜交換となるだろうが、そこで突然戦端が開かれないとも限らない。最新の注意を払っても足りないくらいだ。だがそれでも実行したほうが良いと俺は思う。


 ミラシオンが皆に言う。


「では会議を終わりましょう。食事は有事に備え、各自の駐屯地へと運ぶと言う事でよろしいか?」


「「「「「異議なし」」」」


 そして俺達はバラバラに、自分達が夜過ごす場所へと向かう。結局アンナの証言は後日に持ち越され、明日の捕虜返還に集中するという流れになる。


 部屋に戻ると、ミリィとアデルナとマグノリアが俺の側に、不安な顔で立ち寄って来た。


「聖女様。お疲れ様でございます」


「皆もお疲れ様。これからここに食事が運ばれます。それを食べたらすぐに休みましょう」


「「「はい!」」」


「従者の三人は?」


「他の使用人と一緒になるそうです」


「それでいい」


 少し待つと俺達の部屋に食事が運び込まれた。アルコールは無く、料理と果実水だけが運ばれてくる。俺達はそれをたいらげて、次の日に備えて休むことにしたのだった。


「ふう。いよいよ明日」


 するとアデルナが言う。


「これによって、資金の流れが一気に変わるのでございますね」


「そう言う事になる。みんな忙しくなるけどよろしくね」


「承知の上です」


 話を終えると既に深夜の時間帯になっていた。到着が遅かったために、深夜に時間がずれ込む。明日は早朝から支度をすることになるので、俺達はすぐに寝る事にした。


 朝は暗いうちから襲撃を受けた為、みな疲労困憊ですぐに眠りについた。


 俺はアンナに言う。


「さすがにここは安全。アンナもしっかり寝て明日にそなえるといいね。先の戦闘で身体強化魔法を多重掛けしたから体が悲鳴を上げる」


「わかった。だが護衛の為に一緒に寝る」


「は、はい」


 俺が服を脱ぐとアンナも服を脱ぎ始めた。そして俺がベッドに入り布団をかけると、アンナがそっと横に座るのだった。だがもちろん剣は抱いて寝るようで、一緒に布団の中に潜り込ませた。


 うう、ドキドキする。アンナと二人で同じ布団? 眠れるだろうか…


 俺が興奮していると、アンナの寝息が聞こえて来た。流石に昨日の戦いで疲労が溜まっているらしい。俺はちょっと残念な気持ちになりながらも眠りに落ちるのだった。

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