第123話 第三騎士団へ引継ぎ

 騎士団の野営地にて、フォルティス騎士団長とマイオールと士官を集めて話し合いをする事となった。俺はアンナを連れて大きな天幕へと入る。


 フォルティス騎士団長以下の騎士達が、膝をついて俺を迎え入れた。フォルティスが俺に言う。


「聖女様! 此度の騎士団の失態、深くお詫び申し上げます」


「いえ。警護はきちんとしていました。闇にまぐれて来た、あの間者達の数は想定外だったと思います。失態などしてはおりません「」


「おっしゃる通りではございますが、聖女様の御命を危険にさらしました。この失態はきっちり陛下へと報告いたします」


「その必要はございません。以前のワイバーン襲撃の折も今回も、騎士団の皆様には助けていただきました。私達だけでは恐らく死んでいたかもしれません」


 それを聞いたマイオールが声を上げて言う。


「いえ! いずれも聖女様の支援あっての事。ワイバーン討伐の折もそうでしたし此度もそうです」


 あーもう! めんどいなあ。


「騎士団長! マイオール卿! どうか頭をあげて下さい」


 ウザいから。


「は!」


 騎士団全員が頭をあげた。俺は騎士達に言う。


「この度の間者はかなりの手練れでした。そして百人からの規模で襲って来たのですよね?」


「死体はそのくらいありました」


「それを想定しろと言うのも無理な話です。そして私も失態です」


「聖女様がなにを?」


「こちらも手一杯だったため、能力を全て開放し皆殺しにしてしまいました。おかげで情報を取れる事も無く、今回の襲撃者達が何者なのかを知るすべが無くなってしまったのです」


「致し方のない事。聖女様が怪我や命の危険にさらされるくらいなら、皆殺しにした方がむしろ安心にございます」


「ですが騎士団長。敵から何の情報も取れなかったでしょう?」


「そうですな…。元に繋がる情報は遺体からは探れませんでした。かなり用意周到に準備を行っていたようです」


 なるほどね。この人達には内緒だが、王直属の諜報が動いている中で、これだけの間者を忍ばせる事など難しい。となれば内部の者の犯行の可能性が高いと言う事だ。王や騎士団を欺ける力を持っている人と言ったら、そう多くはない。


「ともかく。陛下には報告するとして、決して失態ではない事を私からも口添えします」


「は!」


 明らかに敵は、俺が王都を離れるのを待っていたのだ。王都ではさすがに兵隊の数が多すぎる。第一騎士団だけではなく近衛騎士団もいるため、俺の警護が手薄になるのを待っていたのだ。ある程度想定していたが、今回のような規模での襲撃は考えていなかった。


「間者の遺体処理はどのように?」


「既に、この西側を管轄する第三騎士団への通達をしています。今日の午前には揃うでしょう」


「わかりました。ではあと数時間ほどはここで待機と言う事ですね?」


「そうなりますが、帝国との交渉に遅れてしまうでしょう。むしろ今回は安全のために、出席を辞退していただいた方がよろしいかと思うのですが」


「いえ。交渉には向かいます。そしてこれだけの襲撃を退けたのです。敵の目論見もかなり外れたと思います。まずはすぐに遺体の処置をして、先に進みましょう」


「は!」


 話が終わるとフォルティス騎士団長が俺に言って来た。


「なんと申しますか。失礼ながら聖女様はまるで将軍の様ですな」


「私が?」


「はい」


 騎士達もうんうんと頷いている。


「そんな事はありません」


「気分を害してしまったのなら申し訳ございません。ですが、本当に女性なのかと思ってしまうほどの胆力が御座います」


 やべえ。俺が男だってバレる?


「大したことはございません。仲間に恵まれたのでしょう」


 そう言って俺はアンナを見た。するとフォルティスが言う。


「鬼に金棒とはこの事かもしれませんな」


「そうでしょうか?」


「いずれにせよ。王都には戻らないと言う事でよろしかったですかな?」


「そうです」


 それから二時間が経過し、第三騎士団の面々が訪れた。フォルティスより一回りデカくて、まゆ毛の太い男が天幕に入って来た。


「フォルティス! 此度も良く使命を果たしたな!」


 だがフォルティス騎士団長と騎士達が気まずい顔をした。代わって俺がその男に言う。


「フォルティス騎士団長は良くやってくださいました」


 俺の声を聞いて、ようやく存在に気が付いたらしく男はザザッと下がり膝をついた。


「これは! 聖女様! 申し訳ありません! 無礼をお許しください!」


「いえ。無礼だとは思っていません」


「は!」


 するとフォルティスが俺に言う。


「第三騎士団長のライコス・ミューゲルです」


「はい。ミューゲル卿」


「ライコスと呼び捨てください!」


「ではライコス。此度の間者の調査は念入りにお願いいたします。第一騎士団及び第三騎士団の目を掻い潜って、手練れの間者が入り込むのを許しておくわけにはいきませんよね?」


「は! 全身全霊を持って調査いたします」


「お願いします。私達は先を急ぎますので、天幕等の処理も含め頼みます」


「かしこまりました!」


 そう言って俺は天幕を出た。何故ならば天幕の中が物凄く男臭くて、居ても立っても居られないくらい臭かったからだ。とにかく我慢していたが、男臭い極みのライコスが入って来たから俺はえずいてしまう。


 あとを追うようにフォルティスが出て来て、全軍に指示を出して行くのだった。俺達はすぐさま出立し、休みの時間を削ってカルアデュールに向かう。早馬で知らせていたので、カルアデュールからも騎士団が出ていた。三分の二あたりまで進んだ時、ミラシオン伯爵自らが騎士達を引き連れて来た。


 俺の馬車の隣りにミラシオンの馬が並ぶ。俺は窓を開けてミラシオンに言った。


「おそくなりました。そろそろ陽がくれますね」


「いえ。ご無事で何より。時間の遅れなど気になさらずとも結構、帝国のヤツラなど待たせておけばよろしいのですよ」


 無駄にイケメンの水色のロン毛を兜の下になびかせて、ミラシオンはきらりと白い歯を光らせるのだった。


 まったく、この世界のイケメン達は、無駄に俺に色気を振り撒こうとしているように感じる。俺は女にしか色気を感じないちゅーの!


 ミラシオンに愛想笑いしながら、俺はぎゅっとミリィの手を握りしめてしまうのだった。

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