第122話 闇夜の襲撃
深夜となり、ホテルの従業員すらもすっかり寝静まっていた。だが、トントンとアンナが俺の肩を優しく叩いて起こす。俺が目を開けるとアンナが真顔で俺に言う。
「少し騒がしい。起きた方が良いかもしれん」
外はまだ暗く、誰も起きている様子はなかった。だがアンナは何かを感じ取ったらしい。俺は起きてアンナに言う。
「ミリィ達も起こしてきて」
「わかった」
そしてアンナは部屋を出て行った。俺が窓ガラスから外を見るが、その騒がしさは感じ取れなかった。まもなく隣りの部屋の三人がやって来る。
そしてミリィが言った。
「着付けを」
「お願い」
ミリィが俺の着付けをし、髪をまとめて薄く化粧をした。アデルナは既に自分で準備をして、マグノリアはただ服を着ただけだ。俺の着付けが終わると、ミリィも自分のメイド服を着こむ。俺は壁に立てかけている魔法の杖を持った。
そこに、一階で寝ていた三人の従者をアンナが連れて来る。
「みんな揃ったね?」
「「「「「「はい」」」」」」
すると間もなく、外から男達の張り詰めた声が聞こえて来るのだった。にわかに慌ただしくなってきたので、俺達は一階のエントランスに向かう。一階につくと、カウンターで番をしていた使用人が慌てて俺達の元に来た。
「ど、どうなさいました?」
「何やら外が騒がしいようです」
「えっ? ちょ、ちょっと見てきます」
「いや。あなたはここに居なさい」
「えっ? でも」
「いいから」
サッとアンナが玄関口に立って剣に手をかけた。すると、突然玄関が開いて男が飛び込んで来る。アンナはその男の首に剣を突き付けた。
「き、斬るな! 私だ!」
飛び込んで来たのはマイオールと部下の騎士だった。俺が行ってマイオールに尋ねる。
「どうしました?」
「おそらく賊です。まだ捕まってませんが、恐らくは聖女様を狙ったものであるかと」
「そう。私達はどうすればよろしい?」
「身支度を…。いや、身支度はもうされているようですので、このまま私達の護衛で騎士団の野営地に向かってただいた方がよろしいかと」
「わかった」
俺達がホテルを出ると馬車が用意されていた。騎士も二十人ほどいて既に護衛の体制は整っている。俺達が二台の馬車に乗り込むと、マイオールが馬に乗り号令をかける。
「出発だ」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
俺達の馬車が進み始めた。すぐに馬車の外からマイオールが話しかけて来る。
「すでに連絡がいっています。間もなく駐屯地からも兵は来るかと」
「急ぎましょう」
「は!」
俺達の馬車が先に進むが、間もなく馬車は止められて外から声が聞こえて来る。
「何奴! 我々は第一騎士団である! 速やかに道を開けるがよい!」
マイオールの声だった。どうやら何かが道を塞いでいるようだ。ミリィやアデルナが青い顔をしているが、俺は二人に落ち着くように言う。
「大丈夫。第一騎士団もいるしアンナも私もいる」
「「はい」」
外がどんな状況か分からないが、もう一台に乗っている御者たちは大丈夫だろうか? 万が一、俺の使用人に何かあったらただじゃおかない。そう思っていると、外から剣と剣が合わさる音が聞こえて来た。どうやらマイオール達が、正体不明の敵と戦っているらしい。
アンナが俺に聞いて来る。
「どうする?」
「第一騎士団に任せていいんじゃない?」
「怪我人が出ているようだぞ?」
「ホント?」
「本当だ」
「仕方がない。出よう」
するとミリィが言う。
「えっ! 危険では?」
俺は首を振ってミリィに言った。
「私とアンナが出たら鍵をかけなさい。誰が来ても開けないように」
「わ、わかりました」
するとアデルナが言う。
「お気をつけ下さいまし!」
「分かってる」
マグノリアも怯えるように俺を見ていた。俺はマグノリアの頭をポンポンとして言う。
「ヒッポを呼びなさい」
するとマグノリアはコクリと頷いた。
俺達が外に出ると、騎士団と正体不明のやつらが鍔迫り合いをしていた。何名かが路上に倒れているのが見える。真っ暗だが辛うじて馬車のカンテラであたりは薄く照らされていた。
バシュッ! と俺が天空に光魔法を撃つ。まあ照らすだけの魔法ではあるが、照明弾の役割にはなった。周りで騎士達が戦っているのがわかった。マイオールはなんと三人を相手どって戦っていた。
そして俺を見たマイオールが言う。
「いけません! 馬車に!」
気をとられたマイオールは、腕を斬られてしまった。
「ぐっ!」
熱血の馬鹿野郎が、自分に集中してろってんだ。俺はアンナに言う。
「いくよ」
「ああ」
すぐさま俺はアンナに身体強化をかけ始める。もう様子見などしていられないし、既にどんな効果があるかは実証済みだ。第一騎士団に怪我をさせられるという事は、相手は相当の手練れである事がわかる。もうフルパワーの俺達でいい。
俺が声を張って言う。
「騎士団は下がれ! あとは私に任せるがよい!」
暗闇からの攻撃に押され気味の騎士団が、俺の声を聞くが下がろうとしない。それだとアンナの邪魔になる。
「マイオール卿! 下がらせて!」
「くっ! は、はい!」
マイオールが悔しそうに言った。
「みな! 下がれ! 命令だ!」
騎士達は曲者と戦いながらも、後方にじりじりと下がって来た。その間も俺はアンナに支援魔法をかけていく。
「筋力向上、筋力最向上、敏捷力上々、敏捷力最向上、思考加速、思考最加速、結界魔法、毒耐性付与、魔法無効化、金剛」
アンナが光り輝いていき、まるで龍の咆哮のような息吹を吐いた。
「グおおおおお!」
アンナが、シュッと消える。すぐさま俺は俺自身に絶対結界と金剛、身体強化、思考加速をかけていく。結界内にいる怪我したマイオールと騎士達には軽い回復魔法をかけた。
そして…
俺達の前に武神が現れた。いや、もはや鬼神と言ってもいいかもしれない。そこからのアンナはもう人では無かった。まさに一方的な蹂躙と言っても過言ではない。あまりにもの圧倒的な力量差に、黒装束の手練れの間者たちが紙切れのように斬られていく。
「ひ、引け!」
黒装束達が、逃げようとした時だった。
バクン! 突如現れた巨大なヒポグリフに一人の間者が飲み込まれてしまう。そして逃げようとした黒装束をズドンとふむ殺した。
「くっ!」
ヒポグリフが俺の所に来る。するとマイオールと騎士団が剣を構えヒッポに向けた。俺はそれを下げさせる。
「大丈夫です。それよりも皆はここに!」
「聖女様はどうされるのですか!」
俺はそれに答えずに、ヒッポの背中に飛び乗った。ヒッポが走り出し空中に飛び立つ。空から見ると、何処に黒装束がいるのか手に取るように分かった。俺は黒装束の上にいき、思いっきり電撃を下した。下から見れば雷を落とされているように見えるだろう。
「ぐあああああ」
「うおおおおお!」
不審な男達が電撃に倒れていき、アンナがトドメを刺していく。上から見ても既に黒装束の姿は見えなかった。俺はヒッポに皆の所に戻るように言った。
「降りて」
ぶるぅぅぅ! ヒッポが返事をして、静かに馬車のある場所に降り立った。アンナが周囲を警戒しているうちに、俺がヒッポを飛び降りて倒れている騎士に回復魔法をかけていく。二人の心肺が止まっていたので、俺は急いで蘇生魔法をかけた。騎士達が息を吹き返したので、俺は更に回復魔法をかける。
「ぷはぁ」
「うう」
騎士達を生き返らせ。俺はマイオールの所に行く。
「騎士はこれで全員?」
「はい!」
それを聞いて俺は魔法の杖を掲げた。
「ゾーンメギスヒーリング!」
するとそこにいる騎士達が一気にフル回復する。俺はすぐにマグノリアの所に行って言う。
「私だ。マグノリア! ヒッポを山に返して」
「はい」
するとヒッポは飛び立っていき、闇夜の空に消えて行くのだった。そこに騎士団の援軍の馬の音が聞こえて来る。来たのはフォルティス騎士団長と三百名からの騎士だった。倒れている間者を見て愕然としている。
「こ、これは…」
「騎士団長様、こちらです!」
俺が呼ぶと、フォルティスは一目散に俺の所に馬で駆けつける。
「聖女様! ご無事で?」
「はい。どうにか! 騎士様も蘇生しました」
「かたじけない! マイオールお前はどうだ?」
「聖女様に治していただきました!」
「なら、お前はそこで聖女様を守っていろ!」
「は!」
そしてフォルティス騎士団長が騎士達に号令をかける。
「間者の死体を集めろ! そして町にまだ紛れているやも知れん! 家探しも許可する!」
「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」
騎士団員達が一斉に町に散って行った。薄っすらと空が青くなってきている、あと二時間もすれば陽が上がるだろう。それから敵が現れる事は無く、俺達は何とか敵の襲撃を生き延びたのだった。
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