第117話 裏情報を聞き出す

 ビスティーに聞いたところ、自分の所のギルド以外の情報は正確なところまでは入ってこないらしい。特に他国のギルドの情報は、冒険者の伝手で入ってくるのがほとんどだそうだ。


「ビスティー。仕事じゃなくても、聖女邸に遊びに来たらいいのに」


「えっ! どうしてですか?」


「だって、ビスティーと話をするの楽しいし。もっといろんな話が聞きたいなあと思って」


「まあ…でも、ギルド員の情報や冒険者情報を伝える事は出来ない決まりになってます」


「それはもちろん分かってる。あ、あと美味しいプリンがあるんだけど、ちょっと食べてみる?」


「さっき、ご飯の前にお菓子はいただきました」


「いいからいいから」


 俺が言うとビスティーはとっても幸せそうな顔をした。そして有名店のプリンを出してビスティーに差し出す。ビスティーはスプーンですくって口に運んだ。


「ふわぁぁぁ、おいしい! こんなプリン初めて」


「それは良かった! 聖女邸に来ればいつでも食べれるからね」


「はい!」


 そこにミリィがやって来た。


「お風呂の準備ができました」


「あ! そう! じゃあビスティー。入りましょう」


「いいんですか?」


「もちろん」


 俺はビスティーの手を引いて風呂場に行く。いつものように他の人らがいると緊張するといけないので、二人きりで脱衣所に入った。


「タオルはこれを」


 ミリィがビスティーにタオルを差し出した。フッカフカの柔らかいタオルを。


「ありがとうございます。気持ちいいですね」


「では、ごゆっくり」


 ミリィはチラリと俺を見て出て行った。俺が先に服を脱ぎ始めると、ビスティが頬を染めて俺から目を離す。俺はこれ見よがしにビスティに近づいて言う。


「女同士なんだから、恥ずかしがらないで」


「は、はい」


 ビスティーも下着を脱いで丁寧に畳んでいた。もちろんお客さんとして来ているので、礼儀正しくしているのだろう。そして髪を解き始める。


「聖女様とお風呂だなんて…いいのですか?」


「仲良くしてくれるのでしょう?」


「それはもちろんです」


「なら良いと思う」


「はい」


 ビスティは裸になってタオルを前面に垂らしている。


「えっと、小さいタオルがいいね。これは体を拭く用だから」


「は、はい」


 俺は小さな手拭いをビスティに渡す。そして最後にビスティーの眼鏡に手をかけた。


「外すね」


「あ、すみません」


 眼鏡を外すとビスティが言う。


「ぼやけるので恥ずかしさが減りました」


「それはよかった」


 俺からはバッチリ見えてるけどね。とりあえずビスティの手を引いて浴室に入った。そして俺はビスティに言う。


「うちは王室と同じ石鹸と洗髪粉を使っているんだ」


「凄く良い匂いがします」


「洗ってあげる」


「いけません! そんな、聖女様にそんなことをさせるなんて!」


「いいからいいから」


 俺はビスティーの頭に粉をかけてお湯をちゃぷちゃぷとかけた。そして一気に泡立ててビスティーの髪を洗っていく。


「痒い所は?」


「あ、あの。気持ちいいです。大丈夫です」


 そしてちょろちょろとお湯をかけてあげる。ビスティーは自分の手で髪をゆすいだ。


「背中を流すね」


「そんな! そこまでは!」


「いいからいいから」


 俺は泡立てた布で、優しくゆっくりとビスティーを洗う。


「ふぅ、気持ちいいです」


「それはよかった」


「あ、あとは自分で」


「いいからいいから」


 俺はビスティーをくまなく洗い、ビスティーは真っ赤な顔でされるがままになっている。完全にセクハラ行為だが、俺は聖女と言う地位を乱用しビスティーは抗う事が出来ないでいた。


 ジャバ! とお湯をかけて泡を流してあげる。


「石鹸もいい香りでしょ?」


「はぁ。そうです…ね」


 放心状態のようだ。皆は俺に体を洗わせてくれないが、ビスティーは初めてなのでこれが普通だと思っているのだろう。そして俺はビスティーの手を取って湯船に誘った。


「どうぞ」


「はい」


 ちゃぷ。ビスティーは湯船に浸かって言った。


「気持ちいいですぅ」


「でしょ?」


「はいぃ!」


 気に入ってくれたようだ。俺もさっさと自分の体を洗い、ビスティーの所に行って湯船に浸かった。そしてビスティ―に聞いてみる。


「冒険者には、いろんな国を旅する人とかいるの?」


「おります。自国から出ない人もいますけど、他国に来て稼ぐ人もおります。様々なダンジョンがあったり、その地方じゃないといない魔獣がいますから」


「そうなんだねー。それこそ冒険者って感じだね」


「ですね。どちらかと言うと階級の高い冒険者に多いです。よほどの腕が無いと、他国に行って稼ごうなどと思いません」


「なるほどなるほど。うちの国にも来る?」


「もちろんです。出入りの厳しい国もありますが、それは国際情勢によっても変わってきます。冒険者のふりをして間者が入り込む場合もありますので」


「えっ? そうなの?」


「はい」


 なるほど。冒険者だと偽ってスパイをするわけね。と言う事は逆も然りか。


「うちの国からも行ってるかな?」


「国の事は良く分かりません」


「そうか。ギルドでは分からないか」


「はい」


 そこで俺はビスティーの手を握る。


「な、なにを?」


「あのね。冒険者って誰でもなれるのかなって」


「もちろんです」


「私は一度断られたよね?」


「それは、聖女様を冒険者などと認定できません」


「なるほど。王族が冒険者になれないように?」


「はい」


 俺は更にビスティーに体を密着させて言う。


「どうやって冒険者と分かるの?」


「ギルドカードです。ギルドの登録があって初めて冒険者と分かります。アンナも持っていますよ」


「そうか。ギルドカードってどうやって手に入れればいいの?」


 するとビスティーが俺から少し離れていう。


「だ、ダメですよ! きちんと認定されてないと冒険者とは認められません」


 そりゃそうだ。


「ギルドカードを持っているのが本人だという証明ってどうするの?」


「それは、ギルドに行かねば分かりません。ギルドにはそれを照合する為のあるものがあるのです」


「あるもの?」


「それは教えられません」


「そうかぁ。でも今の話だとギルド外では、本人のカードかどうか分からないって事だよね?」


「もちろんそうです。ギルドに行かねば照合が取れませんので。ですが他人を偽ればギルドに処罰されます」


「そっかそっか」


 俺はビスティーの後ろに周って肩に手を乗せた。そしてゆっくりとマッサージをしてあげる。


「どう?」


「きもちいいですー」


「疲れてるみたいだったから」


「はは。結構ギルドも大変なんです」


「だろうねー」


 俺は軽く癒し魔法を発動する。そのおかげでビスティーはすっかりリラックスし始めた。


「冒険者でも悪ーい人いるよね? 例えば、孤児を囮に使っちゃうやつとか」


「そ、それは、今回厳罰の対象となりました」


「だよね。そんな事しちゃいけない! 悪い!」


「はい!」


「除名になったりするんだよね?」


「そうです」


「なるほどなるほど」


 と言う事は、あの奴隷を使った冒険者達は同じことは出来ないと言う事だ。万が一同じことをすれば、処分されてしまうらしい。


「さあて、そろそろ上がろう。のぼせてしまう」


「はい」


 俺はビスティーの手を引いて浴室を出るのだった。ビスティーは体がすっかりピンク色になって、のぼせる一歩手前になっていた。座らせてパタパタと扇いでやる。


「じゃあ湯冷めする前に服を」


 二人が服を着て外に出ると、ミリィが待ち構えていた。


「冷たいお飲み物を準備しております」


「ありがとう」


 食堂に行くと、ミリィが俺達を座らせる。そして冷たい飲み物を二人に差し出した。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 ビスティーが飲んでいるのは、果実と甘ーいシロップの入った強ーいカクテルだ。だが一瞬アルコールだとは感じないはず。


「おいしい!」


「ささ、飲んで飲んで」


 そしてビスティーがだんだんと仕上がって来た。


 そろそろかな?


「東スルデンあたりに行く冒険者っているのかな?」


「おります」


 よし!


「もしかしたら、向こうから陶磁器を持って来たり?」


「えっ? どうしてそれを?」


 ビンゴ!


「もちろん当人から聞いたんだけどね」


 と嘘をつく。


「そうでしたか! そうなんですよ。今は仮想敵国認定されているので、あまり行く人はいないんですが。ある貴族の依頼で時おり行くパーティーがあります」


 ビンゴ!


「そう。そんなすごい人、今度会ってみたいな」


「えっと、来週あたり戻ってくると思うのですが」


「そうなんだ! それはぜひ!」


「ま、まあ。出入りしている酒場を教えるくらいなら」


「お願いね。ささ! 飲んで」


「ありがとうございます」


 まあ仕事に支障があるほど飲ませてはいけないので、ほどほどにしてビスティーを開放した。水を飲ませ回復魔法をかけると、酔いは飛んでしゃっきりして帰って行った。ちゃんとお土産も持って行ったようだ。


 玄関を締めて俺が振り向くとミリィが笑う。


「聖女様は本当に…」


「まあ、時にはそんな事も必要かなと」


「怖いです」


「いいの。そのうちビスティーも仲間になるだろうから」


「そうかもしれませんね」


 そして俺とミリィは俺の部屋へと戻って行くのだった。

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