第109話 孤児学校正式決定

 ミラシオンが王都に来た。俺もアンナを護衛につけて、スティーリアとヴァイオレットを連れ城に来ている。何かと事務的な話があると思うので、彼女らにいろいろとやってもらう予定だ。


 俺達が控室で待っていると、ドアがノックされてお迎えが来る。俺は迎えの女官に聞いた。


「何人連れていけます?」


「今日は全員でよろしいとの事です」


 俺達は全員が謁見の間に連れていかれる。この前来たばかりなので久しぶりと言う感じもしないが、今日は珍しくバレンティアやマイオールがエスコートしなかった。


 恐らくはミラシオンが来ているので、アイツらも忙しくしているのだろう。今日は正式にたくさんの貴族も着ているはずだ。


 謁見の間の前に来ると、騎士が頷いて扉を開けてくれた。


「聖女様が参りました!」

 

 中に入ると両サイドに騎士達が並んで、中央部にはミラシオンが跪いていた。更にその両側に大臣の面々が並んでいた。側にいる騎士が俺達に声をかけて来る。


「お付きの者はこちらへ」


 三人は部屋の端の報に連れていかれ、俺がそのまま前に進みミラシオンの隣りに跪く。


「本日はお招きいただきましてありがとうございます」


 ルクスエリムが高い所から言う。


「うむ。今日は大臣がたも同席する」


「はい」


 大臣達がいるのに俺がVIP扱いとはね。まあルクスエリムがそうしたいなら構わない。本来なら俺が先に入っていても良いようなものだ。


 すると王の列の、壁にいる人が大きな声を出した。


「それでは! 帝国捕虜返還についてのご報告をお願いいたします」


 するとミラシオンが話を始める。


「数度にわたって帝国との話し合いを行ってまいりました! 陛下との調整をさせていただき、捕虜引き渡しに関しての報告をさせていただきます!」


「うむ」


 ミラシオンが手にした目録のようなものを広げた。


「それでは読み上げさせていただきます! まずは保釈金から!」


 皆がそれを黙って聞いていた。


「まずは貴族の返還についてでございます」


「うむ!」


 それから帝国兵の爵位に沿った金額の提示があった。なんと伯爵の家族には一人、大白金貨五千枚。日本円にすれば五億円と言ったところだ。後は爵位が下がるにつれて金額が下がって来る。末端までの報告があり、末端は一派ひとからげと言ったところだ。


 金額の報告が終わり一旦ミラシオンが話を切る。

 

 すると大臣から声が上がる。


「宣戦布告をしておいて、金で解決か?」


 それを聞いたミラシオンが言う。


「いえ! 次に領土の譲渡についてです」


「なるほど」


 話では帝国領の南側の領地の一部をこちらに渡すらしい。だがそこは大河の対岸にあたり、そこを統治するとなると敵国にいつ攻められるか分からない。


 統治したい奴なんていないだろ…


 ルクスエリムがそれを聞いて言った。


「新しい領地を統治する者がいるな。大臣と話をして決める事にしよう」


「はい」


 そして次にミラシオンは、賠償金について話し始めた。実際のところ、こちらには一切の被害も無いので必要ないようにも思えるが、そう言うわけにはいかない。その金額も結構な金額で大臣たちからも苦言は無いようだった。


 俺はただひたすらそれを聞くだけだった。ミラシオンがつらつらと読み上げて、時に大臣から質問が飛んだが揉める事無く進んだ。


「以上であります」


「そうか。異議のある者はおるか?」


 すると大臣から手が上がった。


「なぜ帝国はそこまで譲歩して来たのでしょう? なにかの目論見があるのでは?」


 ルクスエリムが答えた。


「例えばどんなことを考える?」


 質問返しだった。


「自国の領地を与えておいて、そこに攻め入るつもりでは?」


「うむ。その懸念はある。よって人選は吟味せねばならん」


「陛下のお考えは?」


「まだ決まっておらん。とにかく報告したまでじゃ」


「かしこまりました」


 おおよその話が終わり、ミラシオンもホッとしたようだ。だがそのままルクスエリムが続ける。


「じゃがミラシオンよ。お主は借りがある者がおるよな」


「は!」


「その者への返済があるじゃろ」


「もちろんでございます。聖女様の助力があってこその事でございます」


 なるほど。俺が金を貸したようなものだからな。


 大臣達が一斉に俺を見る。


 仕方ねえ、しゃべるか…。苦手なんだよなあ…


 ルクスエリムが俺を呼ぶ。


「聖女よ! 前へ!」


「はい」


 そして俺が前に出て行くと、会場がシンと静まり返った。こいつらがヒストリア国内情勢の事を知っているのかどうかは分からないが、こいつらの中にも反王派がいる。痛い視線を浴びながら俺は話し始めるのだった。


「私はお国の為に助力をしたまでです。それに私一人の力ではございません。ここにもおられる大臣や貴族様のおかげによるものです。聖女財団の資金を提供は致しましたが、私の力ではないと言う事をお知りおきください」


「うむ」


 ここしかないな。


「私は陛下の国、このヒストリア王国を更に強い国にいたしたいと常々考えておりました」


 俺の言葉に、大臣達が若干ざわつくがお構いなしで続けた。


「国は人があってこそ。恐らく帝国はそれを知っているのでしょう、そのため捕虜に大金を支払った。中には貴族でもない兵士がいたはずです。ですがそれらにも金品を払って、自国へ戻そうとしているようです。前線に投入されるくらいですから、腕に自信のある者もいたと思われます。帝国はそれを捨て駒にはしなかった。この事実は大きいと思います」


 すると大臣の一人が言った。


「何がおっしゃりたいのです?」


「帝国の強さの秘密は人にあると思います。それは貴族だけに留まらないと」


「というと?」


「単刀直入にお話をさせていただきます。我が国に貴族以外の学びの場をお作り頂きたい! 陛下に進言申し上げます!」


 貴族達からどよどよと声が上がった。やはり貴族以外に学びなど必要ないと思っているのだろう。


 大臣の一人が言った。


「無駄であろ」

 

 まあ。そういうわな。一旦それを飲みこむしかない。


「無駄であるかもしれません」


「なら必要ないのでは?」


「ですが、やってもいないうちから切り捨てるものではありません」


「どう言う事だ?」


 俺は大臣達に向かって言った。


「ギルドはご存知だと思います」


「ギルドがどうしたかね?」


「彼らのほとんどは貴族ではありません。ですが一騎当千の冒険者がおります」


「あ奴らは魔獣を狩るのが仕事であろう?」


「お言葉ではございますが、魔獣にはとてつもなく強い物もおります。ですが彼らは組織的にそれらを討伐する。もちろん騎士団も魔獣討伐をすることはございますが、騎士団とは違い独学でそれらをやってのけるのです」


 なんとなく俺が言いたいことが分かって来たらしい。


「野にも優秀な奴がいると?」


「はい。それはもちろん武だけではなく、知においても」


 どうも大臣達はピンとこないようだ。やはりルクスエリムの鶴の一声がいる。


「陛下。ミラシオン卿から返済される資金をそれに充てたいのです。何卒ご許可を!」


 じゃないと、反王派についちゃうよん。


 するとルクスエリムが教皇を呼んだ。前に出て来た教皇が、俺をチラリと見てルクスエリムに言う。


「王よ。女神フォルトゥーナのみ名において申し上げます。聖女の言う事も一理あるかと、ですから試しと思って自由にやらせてみてはいかがでしょう?」


 大臣達がざわつくが、ルクスエリムが諫める。


「静かにせよ。そして聖女フラルよ。いずれにせよおぬしの金じゃ、自分の責任のもとでやってみるがよい」


 俺は跪いてルクスエリムに頭を下げた。


「ありがとうございます! 全力で取り掛からせていただきます」


 孤児学校の設立が正式に決まった。貴族達は腑に落ちないようだが、王の命であるので誰も口を挟まなかった。一部、俺に刺さる視線が痛いが、俺はどこ吹く風といった感じに真っすぐ前を見て無視するのだった。

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