第106話 思わぬ再会
俺がヴァイオレットに頼んで出していた、ある書簡の返事が届いた。俺は騎士団に対してある事を依頼していたのだった。その許可が下りたらしく聖女邸の門を騎士団が叩いた。
俺がアンナとリンクシルの修練を眺めていると、メイドが俺を迎えに来た。
「マイオール様がいらっしゃいました」
「第一騎士団の副団長様が直々にか」
するとメイドが言う。
「聖女様だからではないでしょうか?」
「まあ、そうかもね。すぐ行くよ」
「はい」
そして俺はアンナに声をかける。
「アンナ。出かける準備をしておいて!」
「わかった」
そして俺が玄関に行くと騎士が数名待っており、その中にマイオールも混ざっている。無駄にイケメンでムカつく。
「ああ、マイオール卿。すみませんね」
「いえ。聖女様のたってのお願いとあらばすぐに駆けつけます」
「それはよかった。書面にもあったと思うけど、騎士団の屯所に行きます」
「は!」
「護衛を連れて行っても?」
「私達が命を賭けて守りますが?」
「あー、それでも私がお花を摘みに行った時には、ついて来れないでしょ」
「は、はい! 失礼いたしました! それでは護衛のかたもご一緒に」
そんな話をしている時、唐突にマイオールと騎士達がズササッと後ろに下がって剣に手をかけた。俺は騎士達に声をかける。
「いかがなさいました?」
「はっ、い、いえ! 申し訳ございません。なんともうしますか、驚きました」
俺が後ろを向くと、そこにはアンナとリンクシルが立っていた。どうやら騎士達はアンナに反応して構えをとろうとしたらしい。
「ああ、これが私の護衛です」
「そ、そうでしたか。は、はは、失礼しました。まるで抜き身の真剣ですな…」
マイオールと騎士達のこめかみを汗が落ちる。とにかく俺は騎士達に言う。
「少々お待ちいただけますか? 出かける準備をしてまいります」
「わかりました」
俺に続きアンナとリンクシルが玄関に入る。すぐに俺のもとにミリィが来て、俺はミリィと共に自室に戻った。うんと時間をかけて法衣を着こみ化粧をした。それから俺が下に降りていくと、既にアンナもリンクシルも準備をして騎士達と待っていた。
「大変お待たせしました」
するとマイオールが慌てたように言う。
「いえ! 聖女様のご準備を待つことは、何の苦にもなりません」
俺がマイオールの後ろの騎士を見て言う。
「後の方はそう思ってないのでは?」
すると後ろの騎士二人も慌てて言った。
「滅相もございません!」
「私達はなんとも!」
「それならいいのですが、それでは参りましょう」
俺達はミリィとメイドに見送られ、騎士団の用意した馬車に乗り込んだ。アンナとリンクシルは俺の対面に座る。
「出発!」
マイオールの掛け声で、俺達の馬車と騎馬隊が出発した。ほどなくして騎士団の屯所に到着する。馬車を降りて屯所に入って行くが、やっぱり男臭くてかなわん。あまり好んで来るような場所ではない。中に入って行くと中庭で大勢の男らが剣を振っていた。どうやら稽古の最中だったらしい。
「皆さん励んでおられるようですね」
「は! 日頃の鍛錬が大事ですので」
アンナがチラリとそれを見るが、興味無さそうにすぐに目を逸らした。俺から見てもアンナの修練から比べると大したことはない。リンクシルは興味を示したようで凝視しているが。
「それではこちらです」
俺はこの先に行った事がある。アンナとリンクシルは初めてだが、アンナは一切動じていない。リンクシルだけがきょろきょろとしていた。
地下に進む石階段を降りていくと、鉄格子が見えそこに兵士が立っていた。
「聖女様がいらっしゃった。開けろ」
マイオールが言うと騎士が黙って鍵を開けた。俺達が鉄格子を潜って中に入ると、そこは牢屋だった。最初の牢屋には捉えられた人がいた。
「あれは?」
「盗みを働いたものです。むち打ちが決定してます」
「そう…」
貧しそうな青年が捕らえられていた。ま、男にゃ興味はねえ。適当に鞭で打たれろ。
俺達が更に奥に行くと、騎士が一人立っている牢があった。そこに俺達が行くとマイオールがその騎士に聞く。
「きちんと食事はとらせているか?」
「はい。聖女様に言われたとおりに、きちんと着替えも風呂も定期的に与えております」
マイオールが俺を振り向いてニッコリ笑う。指示したとおりしてたでしょ? って顔なのだろうがウザい。
「それはよかった。私の意見を取り入れていただきありがとうございます」
「いえ!」
マイオールがまんざらでもない顔をしているのがムカつく。
牢屋の中を見ると、俺が与えたワンピースを着た少女がいた。少女は天井付近の小窓をじっと見ていて、こちらを振り向く事は無かった。俺は少女に声をかける。
「マグノリア!」
俺が声をかけると、バッと少女はこちらを振り向いた。
「聖女様!」
ダッと、マグノリアが鉄格子に駆け寄り俺の側に来る。俺が声をかけようとした時だった。
「マグノリア!」
俺の脇に居たリンクシルが突然声をあげた。マグノリアは不思議そうな表情でくるりとリンクシルを見る。
「り…リンク! リンク!」
「マグノリア! どうしてこんなところに!」
「リンクシルこそ!」
流石にアンナも驚いたようだ。むしろ、俺とアンナが二人を見比べるようにして目を丸くする。そして俺がリンクシルに尋ねる。
「えっ! マグノリアを知っているの?」
「あ、はい! そうです! マグノリアは幼馴染です!」
俺はマグノリアを見た。するとマグノリアも言う。
「あの、リンクシルが何かしたの? それなら絶対に間違いだ! リンクシルは悪い事をしない!」
「あ、ちがうよ。リンクシルは一緒に住んでるんだ」
「一緒に…聖女と一緒に?」
「そう」
するとマグノリアはホッとしたような表情を浮かべて言った。
「よかった! リンクは悪い事しないもん」
「そうだね。でも知り合いだとは思わなかったよ」
「びっくりした」
「わたしも!」
二人はお互いを確かめるようにじっと見つめ合う。そして俺はマイオールに言った。
「入っても?」
「恐れながら、知り合いを連れて来たので?」
「これは想定外です。私達も知りませんでした」
「騎士の立ち合いのもとであればかまいません」
「では、それで」
そして俺達はマグノリアの牢に入るのだった。
「元気そうだ。ご飯は食べてる?」
「もらってる」
「お風呂は?」
「三日に一回は体を洗っている」
「それはよかった。服も着てくれているんだね」
「これは大事」
マグノリアはくるりと回ってみせた。最初に会った時のようなギラギラした目付きじゃなくなっている。人間らしい生活をさせたことで、表情が戻って来たみたいだ。マグノリアもリンクシルもお互いをちらちらと見ている。
すると騎士が俺の為に椅子を持って来た。俺はそれに座ってマグノリアとリンクシルに言う。
「さて。聞かせてもらおうかな?」
二人は俺を見て大きく頷いた。
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