第三章 世直し編

第100話 新たな朝に

 俺はこの世界に来て仲間というものの大切さに改めて気づかされた。前世では独りよがりのヒモ男で、女達の気持ちを何も考えない最低な奴だった。女を自分が生きる為の道具のようにしか考えていなかった。


 本物のクズだ。


 俺が女に生まれ変わったのは、その罪滅ぼしをさせようという神様の仕業じゃ無いかと思えて来る。この国で信仰されている女神フォルトゥーナの思し召しかもしれない。自分も女に生まれ、女達と生きているうちに恋愛感情だけではない感情が生まれてきたのを感じている。


 今日は朝から、主要な聖女邸メンバーを執務室に集めていた。


 ミリィ、スティーリア、ヴァイオレット、アデルナ、そしてアンナが俺の部屋にいた。リンクシルはジェーバとルイプイと共に、厨房でキッチンメイド達にいろいろ教えてもらっているだろう。


 俺が皆の前に立って話を始める。


「朝からごめんね。皆の予定もあるというのに」


 俺がそう言うとアデルナが笑って言う。


「聖女様より優先させるべき事なんて、私達にあるわけが御座いません」


 それを聞いた他の面々が笑ながら言う。


「アデルナの言う通りです」

「そうです。聖女様がおっしゃる事が最優先です」

「私なんか、聖女様が黒を白と言えば白だと思います」


 ミリィ達の言葉を聞いたアンナが言う。


「聖女よ。わたしはお前に身も心も捧げた剣、聖女に仇名すものは全てわたしが斬る」


「ありがとう。私は、皆のおかげで聖女としていられるんだと思う」


 俺が頭を下げるとスティーリアが慌てて俺の体を支えて言う。


「頭など下げないで下さいませ。聖女様は私達がいなくても聖女様でございます」


 いや…、俺はもともと女をないがしろにする最低男だったのさ。皆のおかげで、女の為に人生をかけようと思えるようになったんだ。


 なんて事は言えない。


「ありがとうスティーリア」


 俺は一人一人の手に触れて微笑みかける。皆は俺に手を触れられるだけでも幸せそうな顔をしてくれるので、聖女パワーのおかげだなと思ってしまう。


 そして俺は続けた。


「私は王城で聞いた事を、身内にも話すなと言われてる」


 俺がそう言うと、皆がシンっとする。


「私が情報を漏らしたことを知られれば、聖女とはいえ懲罰が下ると思う。そしてその情報が漏れれば、王国の存続に関わる事になるかもしれない。それだけ重要な事が、この王都の水面下で起きていると言う事を知ってもらいたい」


 皆が静かに聞いている。俺は続けて話をした。


「だから詳細までは言えない。皆を信じていない訳じゃない。だけど、私が話したことで皆にいらぬ嫌疑がかけられてしまうのは避けなければならない。それだけ重要な状況にあると言う事だけは知っていて欲しい」


 皆が真面目な顔で聞いている。俺の話っぷりからも、事の深刻さを感じ取ってくれているみたいだ。


「今は私の代わりに皆が外に出てもらっているけど、皆だって安全だとは言えない。だからと言って何も行動しなければ、王国は向かってほしくない方向へ向かっていくと思う。だから私は諦めない、こうしている間にも友達が苦しんでいるかもしれない。私はそれを救いたい」


 皆は一言も口を挟まなかった。


「これからやるべき事を言うね」


「「「「はい!」」」」

「ああ」


 皆が鬼気迫る顔で俺に迫る。その迫力にちょっとビビったりして。でも俺は負けずに言った。


「まず。皆が外を動く時の護衛の件だけど」


 するとアンナが俺の目を見た。そう、この件はアンナにお願いする必要がある。


「アンナ」


「ああ」


「リンクシルはどう?」


「やっぱりそうか」


「うん。彼女は護衛出来そう?」


「元より身体能力は高い、ちょっと覚えは悪いが体で覚えるタイプだ」


「剣を教える事は出来る?」


「いや。武器は剣じゃない方が良いかもしれない」


「どうすれば?」


「その見極めは、わたしがやろう。今は素人だが、わたしの修練を穴が空くほど見ているからな。それほど時間をかけずに、王宮騎士並みにしてやるさ」


 そりゃ凄い…


「お願い」


 そして今度はスティーリアを見る。


「スティーリア。私は教会に助けを求めます」


「はい」


「教会に依頼を出して、モデストス神父に孤児院と学校の設立を頼むつもり」


「適任かと思います」


「学校を設立した際には、救出した孤児達に働いてもらおうと思う」


「はい」


「ヴァイオレットは教会に差し出す嘆願書を書いて」


 ヴァイオレットが真っすぐに俺を見て頷いた。次に俺はアデルナに言う。


「アデルナ」


「はい」


「ギルドには大きな貸しがあるから、ギルドには私達の為に動いてもらう」


「かしこまりました」


「内容は大雑把に考えているけど、これから詰めて行こうかと思ってる。まず手始めに、ある人の身辺調査をやってもらおうと思う。王宮の諜報部には筒抜けになるかもしれないけど、私には私のやり方があるから」


 アデルナが笑って言った。


「そうで御座いましょうとも。聖女様は転んでばかりなど居ない方です。私も聖女様の威を借りて存分にギルドを利用してさしあげましょう」


 頼もしい! 肝っ玉かあちゃん!


「お願いする」


 そして最後にミリィに向かって言った。


「ミリィ」


「はい」


「メイド達に護身術を覚えてもらおうかと」


 するとミリィはチラリとアンナを見て、恐る恐る聞いて来る。


「あ、アンナに教えてもらうのですか?」


「ただのメイドが、アンナに教えてもらったら死んじゃうでしょ。ちょっと陛下にお願いしてある人を呼ぼうと思っている」


「誰です?」


「それは来てからのお楽しみ」


「わかりました」


 一通り全員に指示を出した俺は、椅子に腰かけて軽く息を吐いた。


 アデルナが言う。


「聖女様は苦労が絶えませんねぇ」


「苦労は承知の上。皆も私の苦労に巻き込まれて災難だね」


「災難だなどと思っておりませんよ」


「そうです。聖女様が一番苦労されているではないですか?」

「ほんとですよ。時には私達を頼ってください」

「わ、私もやりますよ!」


「ありがとう、アデルナ、スティーリア、ミリィ、ヴァイオレット」


 そして最後に俺は皆に言った。


「男達だけには任せられない。女の底力、みせてやりましょう!」


「「「「オー!」」」」


 それを見て、普段あまり笑わないアンナがニッコリと微笑むのだった。

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