第97話 久しぶりの登城

 王宮に行く日。いつもならばこちらで準備した馬車に乗って行くはずが、今回は王宮から出迎えが来た。まだ都市内の警戒態勢が取られているらしく、俺は素直にそれに従う事にした。


 お付きのミリィが玄関を開けると、これでもか! って言うくらいのイケメンがいた。近衛騎士団長のバレンティアが。イケメン嫌い。


 俺が先にカーテシーで挨拶をする。


「これは。近衛騎士団長様、お元気そうで何よりでございます」


「ははは。しばらくぶりだからといって他人行儀な」


 バレンティアが、スッと膝を引いて俺の手を取ろうとする。


 なんて気持ち悪いやつだ! 手を出したら最後、手の甲にキスなんかしてくるはずだ。まあごくごく一般的な挨拶ではあるけど。


 そうなる前に、俺はサッと手を引いて言った。


「あら? バレンティア卿と私はそれほど親しかったでしたか?」


「あいかわらず手厳しい」


 こいつが氷の騎士とかよばれる理由が分からん。デレデレしやがって。


 そして俺はアンナを呼んでバレンティアに紹介する。


「アンナ!」


 アンナがバレンティアに対し軽く会釈をする。するとバレンティアは、若干警戒した感じに引いて俺に聞いて来た。恐らく騎士としてアンナの力量が分かるのだろう。曲がりなりにも近衛騎士団長の肩書は伊達ではなさそうだ。


「こちらの方は?」


「物騒な世の中でございましょう? ギルドマスターにお願いをして護衛を依頼しているのです。常に私の安全を守る約束事をしているのですが、連れて行っても問題はありませんか?」


「はあ…護衛ならば我々近衛がおりますが?」


 いや。お前らからジロジロ見られんのが嫌なんだよ! でもそれはそれで信用していないようで失礼か…。まあ失礼を承知で言っているのだが。


 俺は少し俯き加減になって言う。


「恐れ入りますが、殿方では私がお花を摘みに行くときにそばを離れますよね?」


 おまえはトイレにも入って来るのか! おんどりゃああ! ゴルァ! という意味だ。


「失礼いたしました。おっしゃる通りでございます。念には念を入れるその姿勢は、近衛としても見習うべきところが御座います」


 ああ。十分役立ててくれたまえ。


「そんなそんな。近衛騎士団長様にそのような事を言われると、冗談に聞こえます」


「冗談ではありません」


「そうですか」


「「ふふふふ」」


 うわ。バレンティアと俺の笑いがそろった! キモイ!


 バレンティアが改めて言う。


「さあ。そろそろお時間もおしてまいりました。女騎士とメイドがお付きと言う事でよろしいでしょうか?」


「はい」


 バレンティアに案内されて、俺とミリィとアンナが王宮から来た豪華な馬車に乗り込んだ。バレンティアが号令をかけると、護衛の騎士の馬が走り出し周りの騎士達も駆け足を始めた。


 アンナが俺に聞いて来る。


「都市内で、こんな人数が必要なのか?」


「ははは。アンナから見たらそう思えるかもしれないけどね。王宮の護衛と言ったらこのくらいの数は普通なんだよ」


「無駄な事だ」


「まあね。だけどいざとなったら、彼らを肉の盾にして逃げるつもりだから」


「酷いじゃないか」


「彼らはそういう役割だから。アンナとは相互で守り合うけど、彼らは一方的に盾にして良い人達なんだよ」


「怖いな」


「何が?」


「聖女が怖い」


 するとミリィが苦笑いをして言う。


「聖女様は殿方に対しては厳しいのです。アンナ様は御存じなかったですか?」


「ああ」


 男に優しくする意味は皆無だ。男なら女を守りやがれ! この世界は平等じゃないんだからよ! って思う。一応言うと、盗賊団の女房は殺してないし。


 乗り心地の良い王家の馬車は、ほどなくして城についた。外からバレンティアが声をかけて来る。


「到着いたしました」


「はい」


 外から扉が開けられ俺が下りようとすると、凝りもせずバレンティアが手をさし伸ばしてくる。だが…さっきのアンナの指摘が気になったので、俺は大人になってバレンティアの手を取った。


「あ…」


 今までにない行動をした俺にバレンティアが一瞬驚いたが、そのままエスコートされて降りた。


「では、こちらへ」


 俺達はバレンティアにエスコートされるままに、王城に入り控室まで連れていかれるのだった。控室で俺とミリィとアンナが待っているとバレンティアが顔を出す。


「では、聖女様だけ」


 その言葉にアンナがピクリとするが、流石に王と謁見するのに元冒険者を連れて入るわけにはいかない。俺は振り向いてアンナに言う。


「大丈夫。ここは王城だからね。王都で一番安全な場所だから、アンナとミリィはここで待ってて」

 

 するとミリィが言う。


「アンナ様。お待ちいたしましょう」


「ああ」


 そしてミリィとアンナに送り出されて、俺はバレンティアと共に謁見の間に向かった。王宮はいつ来ても同じ、俺が歩いてもあまり見る者はいない。さすがに不敬になるような行動は慎んでいるという訳だ。


 謁見の間の前に騎士がいて、バレンティアが目配せをすると扉を開いて俺を中に招き入れた。


 すると中からルクスエリムが声をかけて来る。


「おお! フラルよ! 久しぶりよのう! 良く来た!」


「これは陛下。陛下もお変わりないようで、若々しくおられる」


「世辞はいい。ささ、こちらへ」


「はい」


 俺はルクスエリムの側に膝をついて挨拶をする。


「息災か?」


「何かと息の詰まる日々を過ごしておりました」


「そうじゃろうな。不自由をさせてしまったようじゃ」


「いえ。その間は充電期間だと思って、いろいろと学ばさせていただいておりました」


 そうかそうかとルクスエリムは目を細めて俺を見ている。そしてバレンティアに目配せをして言った。


「ここで待て。わしは聖女と内密の話がある」


「は!」


 俺はルクスエリムに連れられて別の部屋へと移動する。俺に座るように言って、ルクスエリムが対面に座った時ルクスエリムが言う。


「わしの虎の子に説明をさせる」


 ん?


 唐突に俺の後ろに人が立っていた。いつの間にそこに居たんだろうか? 俺と一緒に入って来たような雰囲気は無かったが…


 その男はベールで顔を隠し、全身が黒っぽい服で包まれている。ニンジャというほどではないが、暗殺者というのが近いかもしれない。殺す気であれば、今の間に俺は殺されていただろう。


「お初にお目にかかります」


 男は、俺の前に膝をついて深々と礼をした。


 なるほどね。これが王直属の諜報部員って事か。ルクスエリムの側にいると言う事は、地位的にも高いのだろう。


「初めまして」


「此度はいろいろと御面倒をおかけしております。今回は調査に進展が御座いましたので、陛下に通達したところ直接お伝えするようにとの事です。私の仕事の都合上、顔をお見せする事が出来ないのですがご容赦ください」


「かまいません」


 ルクスエリムが男に向かって言う。


「さあ。座れ、調査結果を話すのだ」


「は!」


 そして黒いベールの男が、調査結果を話し始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る