第82話 盗賊の集落に潜入

 俺達は逃げた盗賊とそれを追うトゥーステイルリザードを追って、けもの道を駆けあがっていく。すると盗賊の集落の方からピィィーー! という甲高い口笛の音が聞こえて来た。いくつもの大声が聞こえて来て、どうやら盗賊達は魔獣の襲撃にてんやわんやになっているらしい。


 チャンスだ。このどさくさに紛れて、ジェーバとルイプイという女を探し出し助け出す。万が一、盗賊にどっぷりつかっていたとしても眠らせて連れ出す!


 しかし…そう事は簡単には進まなかった。なんと俺達の前に突然、五匹のトゥーステイルリザードが草むらから出て来て通せんぼする。


「えっと」


 と俺が躊躇していると、アンナが強く俺に言う。


「立ち止まるな! 走れ!」


「はいい!」


 とりあえずアンナの言うとおりに、二人でトゥーステイルリザードに突っ込んでいく。


 うわうわうわ。もう目前に迫ってるんだけど! 食われるんじゃないの!


 だが俺の心配は杞憂に終わる。アンナが飛びかかっていき、あっという間に二体の首が飛んだ。残り三体がアンナに飛びかかるが、その牙がアンナに届く寸前に止まる。そして三体の首がずり落ちて倒れてしまった。


 五体のトゥーステイルリザードの死体の中を、何事も無かったように走っていく。


 凄い。


 これが特級冒険者と呼ばれたアンナの力。騎士団のヤツラなど足元にも及ばない。


「こっちだ」


 アンナは集落の裏手に周って走っていく。俺は息切れしてきたが、辛うじて自分に回復魔法を施しながらついて行った。もちろんアンナは本気で走ってはおらず、俺が離れないように調節してくれている。


 そして集落のボロ屋の裏手に出た。集落にはトゥーステイルリザードが入り込んでおり、盗賊たちが剣を取って戦っているところだった。


「どう見る?」


 俺がアンナに聞かれる。


「多分だけど、頭の女房みたいな奴がいたでしょ。そいつに近い場所かな? もしくは正反対に遠いところに置いてるかもしれない」


「どうしてだ?」


「女房公認なら側に置いてもいがみ合わないけど、もし公認じゃなかったら嫉妬しそうなおばさんだった」


「ぷっ!」


「へ? おかしかった?」


「そんな理由か?」


「そう」


 いたって真面目に言っている俺の顔を見て、アンナが言う。


「でも、今の話を聞いて少し思うところがある。上から見ていて気が付いた」


「わかった。そこに行って見よう!」


 そして俺とアンナは集落の裏手を一目散に駆け抜けていき、盗賊とトゥーステイルリザードが戦っている場所から離れていく。と言う事は、公認じゃない方向に向かっているって事だ。


 なぜアンナがそう思ったか知らないが、俺はひたすらアンナを追った。


「こっち」


 アンナはボロ屋では無く、木で作られたログハウスのような場所の前に立った。


「ここ?」


「ここだけはやたら立派だし鍵がかかっている。恐らくは逃げられないようにしている」


 なるほど。俺が考えをまとめる暇も無く、アンナは木の扉の鍵を斬り落とした。そしてスッと中に入りこんだ。


「いた」


 暗闇の中に何と、鉄で出来た牢があった。その鉄の折に繋がれた三人の女がいる。俺は前に出て檻の前に立った。


「ひっ!」


 突然入って来た俺達に、女は小さな悲鳴を上げて檻の中に引っ込んでいく。一人だけバッと俺に飛びかかろうとしたが、檻に繋がれておりその手は届かなかった。


 アンナが言う。


「容易に近づくな。獣人だ」


「獣人?」


「力が強い。腕を持っていかれるぞ」


「わかった」


 それでも俺は目的を達成しなければならなかった。


「ここに、ジェーバとルイプイはいる?」


 すると獣人の女がふと後ろを向いた。恐らく奥の二人がジェーバとルイプイだ。俺はそのまま奥の二人に語り掛ける。


「話を聞いて。私はあなた達を助けたい」


 すると獣人の女が俺をぎろりと睨みつけて来た。


「女? どうやってここにはいった?」


 俺の聞いた答えにはなっていない。だが奥の二人がそろりそろりと前に出て来て俺に言うのだった。


「私達の名前をどうして?」


「あなた達は孤児院の出でしょう? 何故こんなところに?」


「それは…」


 二人の女と獣人、そして俺たち二人はにらめっこを続けるのだった。だが少しして女が口を開いた。


「娼館や魔獣の餌になるくらいなら、盗賊の慰み者になった方が良いと思ったから」


 そう、女が言うと獣人が手をかざして遮る。


「おい!」


 だが俺はそれを無視して話をしてくれた子に話しかける。


「それで、結果はどうだった? 望み通りだった?」


 すると二人の女はフルフルと首を振った。どうやらこの扱いは全く想像していなかったのだろう。


「ごめんね獣人さん。私はこの二人を助けたい。でもあなたも囚われているのかな?」


「そうだ」


「ならあなたもここを出ましょう」


「盗賊とは関係ないのか?」


「あなた達は盗賊の敵? 味方?」


 ここでの証言を信じられるかは分からないが、俺はとにかく単刀直入に聞いてみた。


「敵」


 獣人がそう言う。


「二人は?」


「敵だと思う。でも本当に助けられるの? 私達は危なくなったら、盗賊に攫われそうになったというかもしれない」


「ごめん。その時は置いて行く。だけど信じてついて来てくれるなら、必ず助け出す」


「「‥‥‥」」


 すると獣人の女がスンスンと俺の匂いを嗅いだ。そして女二人に言う。


「こいつ、嘘ついてない」


 当たり前だ。


「わかった。助けて!」


「獣人さんにも言っておくけど、抵抗しないでね」


 俺はアンナを指さして言う。


「この人、もの凄く強いから」


 獣人がぎろりとアンナを見るが、すぐにぱたりと犬耳を閉じた。


「…そのようだ」


 どうやらアンナの強さを本能で嗅ぎ分けたらしい。俺は改めてアンナの凄さに気が付く。


 アンナが言う。


「離れていろ」


 獣人が下がるとアンナは腰の剣に手を置いて、次の瞬間キンッと音がする。アンナは剣を抜いたようには思えなかった。


 ボトリ


 アンナが斬った錠前が床に落ちるのだった。

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