第80話 アジトを突き止める

アンナが先を進み盗賊の後ろを追っていた。どういう話し合いが行われたかは分からないが、盗賊らは俺達が乗って来た馬車を引いてどこかに進み始めた。周りを警戒しているのか歩みは遅い。そのおかげで追跡しやすくなっていた。


「縦に長い隊列になっているな。盗賊の動きにしては、いささか統率が取れているようだ」


 アンナが言う。騎士崩れが盗賊にいる可能性が高い。


「どうしたらいいかな?」


 俺がアンナに聞くと、いまさら? といった表情で言う。


「効率よく減らしていく」


「わかった」


 アンナが言うには、三十メートル先くらいに盗賊の最後尾の奴らがいるらしい。その二人は周りをきょろきょろと見渡しながら進んでいるようだ。さっき眠って焼け死んだ盗賊や、アンナが斬った奴らの死体は置いて来てしまったのだろうか?


「死体はどうしたんだろうね?」


「恐らく置いて来たんだろう。じきに魔獣がきれいにすると知っているんだ」


「犯人を捜そうとは思わないのかな?」


「そんなに意識の高い奴らではない。死んだら運が無かった、それぐらいのもんだ。まあそうは行っても警戒はしているだろうけど」


「なるほど」


 と言う事は知らんうちに人を減らしても気が付かなそうだな。


「オリジン」


 アンナがコードネームで呼んでくる。


「なに?」


「後ろの奴から仕留めて行こう」


「わかったエンド。念のため結界を」

 

 俺が魔法の杖をかざしてアンナに結界を張る。俺の魔力が続く限りは何度でも張れるバリアだ。次の瞬間、アンナはシュッと俺の前から消えた。俺は暗闇の中でめっちゃ不安になる。だが間もなくアンナが戻ってきて俺に告げた。


「二人仕留めた」


「うん」


 再び俺達が追跡を始める。するとどうやら本隊の方から、二人が後ろに向かって走ってきているようだった。恐らく最後尾の人間が居なくなったので確認しに来たのだろう。飛んで火にいる夏の虫とはこの事かもしれない。


 二人が近づいて来たので、俺はデバフの電撃魔法を放つ。すると二人は糸が切れた操り人形のように転んだ。シュッシュッ! と、アンナの刀の先が、二人の頭に突き刺さった。


「よしエンド。次に誰かを差し向けてきたら捕らえよう」


「わかった」


 しばらくはそのまま進んだが、アンナが言うには本隊が二つに分かれたらしい。恐らくはついてこない奴らを捜索する為に、人数を割いたようだ。


「五人が来る」


「わかった」


「待ち伏せよう」


 そしてアンナは俺の腕を取り瞬間的に木の上に登った。そして下を見下ろしていると、五人の盗賊たちが剣を構えてきょろきょろしながらやって来る。


「アンナ、これは良い作戦」


 俺はアンナにニッコリ笑いながら、杖をかざして水魔法を発動させる。すると俺の弱ーい水魔法がパシャリと木から下に降りていく。盗賊たちに水がパシャリとかかると、男達は何事かと上を見上げた。俺と目が合ったが、その時は既に俺が電撃魔法を発動させていた。


 パリパリと言いながら、男達がバタバタと倒れていく。するとアンナが俺を連れて下に降りた。一人一人足で裏返しにして、顔を上に向けていく。


「どれがいい?」


 全員むっさい男だった。どれも嫌だ。


「えーっと、比較的若い男を」


「よし」


 そしてアンナは身動きの取れない男達の額に、剣を突き入れてとどめを刺していく。とりわけ若い男の首根っこを掴んでずるずるとひきづって来た。


「よし。聞いてみよう」


 アンナが言うが、電撃を発しているので痺れてしばらく話が出来ないだろう。


「ごめん。デバフ魔法でしばらくまともに喋れないと思う」


「大丈夫だ」


 そしてアンナが男の目線にしゃがみ込み、男の目を見て言った。


「我々の問いに答えろ。躊躇すれば他の奴らのように死ぬ。わかったら瞬きを二回」


 すると男は瞬きを二回した。


「よし。いい子だ。お前達のアジトはこのあたりか?」


 男は二回瞬きをする。


「なるほど、じゃあ次は違ったら一回まばたき。当たっていたら二回瞬きだ」


 男は二回瞬きをした。そしてアンナが俺を見る。俺に尋問しろという事らしい。


「じゃあ答えてもらう。お前達の仲間は三十人か?」


 一回瞬きをした。


「五十人か?」


 一回瞬きをした。マジか…それ以上いるって言うのか?


「七十人か?」


 それでも一回瞬きだ。まさか十人以下? いや情報ではそんなことはないはずだが。


「百人か?」


 すると男は二回瞬きをした。


「エンド。盗賊の百人という数は多いの少ないの?」


「多い方だ。前情報の倍近い」


「なるほど」


 そして俺は男に向かい聞いた。


「盗賊団に女はいるか?」


 すると男は二回瞬きをした。


「一人か?」


 一回瞬きをする。


「二人か?」


 一回瞬きをする。そして二回の瞬きをしたのは四人目の時だった。俺達が救出対象にしている女は二人。その四人の中に含まれていればいいが、もしかしたら既に死んでいて含まれていないかもしれない。


「ジェーバという名は聞いたことあるか?」


 すると男は二回瞬きをした。


「ルイプイという名を聞いた事は?」


 男は二回瞬きをする。


「その二人は生きてる?」


 すると男は二回瞬きをした。


 よし! 生きてる! ならばまだ救える可能性があるって事だ。


「追跡しよう」


「わかった。こいつはどうする?」


「正直に答えたし、見逃してやろうかと」


「オリジン…甘いぞ」


「でも…」


 するとアンナが、男の両腕の肘から先を斬り落としてしまう。そして立ち上がって言う。


「盗賊は生かしておけば報復をしてくる。我々の顔を見られていないから危険は少ないが、ジェーバとルイプイが狙われてしまうぞ」


 それはダメだ。


俺は両腕を無くした盗賊に向けてさらに電撃をくらわせて失神させた。そしてアンナに言う。


「放っておけばどうなる?」


「腕から流れる血の臭いを嗅ぎつけて魔獣が掃除してくれるだろう」


「じゃ、このまま行こう」


「わかった」


 そして俺達は再び盗賊のアジトに向けて追跡を開始した。盗賊達はある所から横道に入って行ったようだ。そこに道とは呼べないが、荷馬車が通れるくらいのけもの道があった。盗賊達の足跡がそちらの方に続いている。


「ここから入ったみたい」


「ああ」


 そして俺達は森の奥へと進み始めた。俺達が盗賊の痕跡を辿っていくと、山の奥になんと数棟のボロ小屋が見え始めたのだった。灯りが点いており待っている人間がいるようだ。俺達が森の中から見ていると盗賊が荷下ろしをしているところだった。


「おい! 帰ったぞ!」


 盗賊が中の人に声をかけると、ぞろぞろと大人数が出て来る。そいつらが馬車に群がって荷物を落とし始めた。


「馬はどうすんだい?」


 女の声だった。すると皮の鎧を着た髭の男が答えた。


「こんなやせ細った馬は使えねえ。明日にでも裁いて食っちまおう!」


「そうだねえ。それが良いねえ」


 女は年増だった。どう考えても俺達が追っている女じゃない。


「あの女なんだろう?」


「さて、頭の女房か?」


「とにかく寝静まるのを待った方が良さそうだ」


「様子を見よう」


 アンナはまた俺を担ぎ上げて木の上に登った。木の上からだと全体が見えやすく、このボロ屋の集落を見渡す事が出来る。この中に救出対象の女がいるはずだ。


「すんなりついて来てくれればいいが…」


「もし言う事を聞かなかったら?」


「眠らせて連れ出す」


「そりゃまた難しい事だ」


「大丈夫。私とアンナならやれるよ」


「わかった」


 そして俺達は集落が寝静まるのを待つのだった。

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