第62話 Aランク冒険者からの推薦
ロサの面談をしてから俺はまたしばらく待つのかと思っていたら、次の日の朝にロサがまたやって来た。しかもロサだけではなく、数人を引き連れてやってきたのだった。応接室では狭いので、そのまま食堂に入ってもらう事にする。
そして俺がロサに挨拶をした。
「おはようロサ。今日は大勢で来たね?」
「ああおはよう。聖女様、こっちがパーティーの連中だ」
おお! なんと全員が女! まさかの! もしかしたら全員でウチに勤めてくれる?
「えっと、全員が女性?」
「そう、朱の獅子は全員が女さ」
「驚いた。女だけのパーティーがあるなんて」
「うちらくらいのもんだよ、女だけは。とりあえず自己紹介を」
ロサが言うと、赤のショートヘアの筋肉質の女性が口を開く。
「パストだよ。タンクをやってる」
「ごめんなさい。タンクとは?」
「盾役さ。私はデカいだろ? 体力にも自信があるんだ」
確かにデカい、皆より頭一つ抜き出ている。一番ごつくて強そうだ。
「私はシャフラン、魔法使いです」
いきなり敬語だった。冒険者ってのは敬語を使わないんじゃなかったっけ?
ダークグレーのストレートロングヘア―とローブ。確かに魔法使いらしいいでたちだが、そのしぐさにもなんとなく気品がある。
「えーと、もしかして学校とか行ってました?」
「はい。魔法学校を卒業しております。ずいぶん昔の話ですが」
「なるほど、佇まいがそんな感じでしたので」
「聖女様。私に敬語などは不要です」
「わかった、じゃあやめる」
そして次に、茶髪のポニーテールの女が挨拶をする。
「イドラゲア、斥候と弓を担当している」
「よろしくイドラゲア」
「よろしく」
そしてもう一人が後ろに控えているが、俯いて話そうとしなかった。何故か静かに後ろにいる。
「あの、そちらの方は?」
朱の獅子のメンバーが後ろを振り向いた。だがその女は下を向いて何も言わなかった。するとロサが大声を出す。
「おい! 挨拶しろよ!」
そう言われても、女は更に後ずさって沈黙を守っていた。
「おい!」
またロサが強い口調で声をかける。俺はそれに待ったをかけた。
「ロサさん。なんか嫌がってるみたいだし、彼女もパーティーで何かの役割を?」
自分では話したくないみたいなので、俺はロサに紹介をしてもらう事にしたのだった。
「あ、いや…。彼女は朱の獅子のメンバーじゃないんだ」
「パーティーメンバーじゃない?」
じゃ、なんで連れて来たの? なんかめっちゃおどおどしてるし。
「あの…すまんが、ここだけの話にしてもらえるかな?」
なんかロサが気まずそうに言って来た。別に俺が他で話すような事はないが一体何なのだろう?
「もちろん」
「これは私の姉だよ」
「‥‥‥」
全く雰囲気が違うのでなんて言っていいか分からなかった。ロサがそれに気が付いて言う。
「全然似てないよね? でも髪の色が一緒だろ?」
確かにそうだ。ロサの金と茶色の間のような髪の色と似ている。というかちょっと太めのまゆ毛がそっくりだ。だけど、ロサと違って細身な気がする。ロサは筋肉がついていて、腹もガッツリ割れている。それに比べ姉の方は細い。服を着こんでいるため良く分からないのかもしれないが、全体的にほっそりしていた。。
「確かに。姉妹と言われればそうだね」
俺の言葉に、ロサは後ろを振り向いてまた言う。
「お前、自分で喋れよ!」
だが女は黙っていた。
「まあまあ、話したかったら話せばいいし」
「はあ…」
どう言う事だろう? パーティーメンバーじゃない実の姉を連れて来て、それを頭ごなしに怒っている。そもそも何故、この引きこもりみたいな姉を連れて来たんだろう?
「それで、今日は一体どのような話かな?」
俺はまた聞き返した。するとロサが気まずそうな表情を浮かべて俺に言う。
「昨日の話を聞いて、もしかしたらと思ったんだけど…ちょっと無理みたいだ」
「何がかな?」
「実はコイツは姉で名前はアンナっていうんだ。昨日の聖女様の話を聞いて、もしかしたら仕事に合うんじゃないかと思って、パーティーメンバー総出で無理やり引っ張って来たんだ」
うそ! こんな人をうちの仕事に?
「ほら! アンナ!」
ロサが何度もアンナに向かって話しかけるが、プイっとそっぽを向いてしまった。
「えっと、そんな無理にしなくてもいいよ」
「すまない」
俺は後ろに控えているアンナに声をかけてみる。
「どうも。聖女のフラル・エルチ・バナギアです。アンナさんは、なんでついてくる気になったんです?」
「‥‥‥」
「おい! 聖女様が聞いてるだろ!」
「‥‥‥」
やっぱり答える気は無いようだ。そもそも俯いたりそっぽを向いているので、ちゃんと顔が見えていない。前髪も長いし表情が良く読めなかった。俺はロサに言う。
「えーと、彼女がうちの仕事に向いてるっていうのはどう言う事?」
するとため息をつきながらロサが言った。
「うちの姉、こう見えて腕っぷしが強いんだ」
「「「「えっ!」」」」
俺とスティーリアとヴァイオレットとアデルナが、一斉に声をそろえて驚いてしまった。
「やっぱそう思うよね。こんな感じだし腕っぷしが強いとは思えないよね?」
「いや…、まあ…そう言う風に見えない事が無いような気もしなくも…」
俺はなんと言っていいか分からずに口ごもってしまう。
「そうなるよね? でもあたしより強いんだ」
ちょっと情報を整理してみよう。ロサは確かAランク冒険者だと言っていた。だがそれよりも強い? この華奢で物静かな姉ちゃんが? 見た感じ弱そうにすら見える。
「まあ疑うわけではないけど、本当にそうなの?」
するとロサが難しい顔で言った。
「悔しいけどそうなんだよね、だから私は昨日、お茶を濁して帰ったって訳さ」
昨日の歯切れの悪い終わり方の答えが、いま分かった。どうやらロサはこの姉が心当たりとしてあったらしい。だけどこんな感じで仕事なんてできるのだろうか?
「あー、アンナさんはギルドに属しているの?」
アンナが答えずにロサが答える。
「昔はそう。というか彼女は特級だから。ギルドの中ではトップクラスになる」
うっそ、トップクラス? これが?
「じゃあ、凄いランクって事だね?」
「そうなんだけどね、ある日いきなりギルドを辞めてしまってね。でもこんなんだから訳が分からなくて」
「えっと、アンナは今は何をしているの?」
「ずっと家にいるかな?」
マジで引きこもりだった。どうやらロサは姉の就職を心配して連れて来たらしい。
「アンナが特級パーティーに居た頃は、パーティーメンバーとコミュニケーションをとっていたんだよね?」
「はは…アンナはソロだったんだよ」
「えっと、ソロ?」
「パーティーは組まずに一人で冒険していたんだ。人と話すのが極端に苦手だから、いつも一人で活動していた」
凄いね。一人でそんなランクに上り詰めたのか…
「そんなに強いんだ?」
するとロサが言う。
「アンナは物心ついたころから剣の虫で、ずっと剣を振り続けて走り続けていた。気づけば十三の頃に騎士を打ち負かしてしまったりね。朱の獅子のメンバー全員じゃないと、ここに連れてくる事は出来なかったし」
「十三歳で…」
「働きにも出ずに親のすねをかじっていたんだ。終いにゃあたしの家に転がり込んで無駄飯を喰らってた。だからあたしが見かねてギルドに推薦したんだ。そしたら何が気に入ったのか、一人で森に行ったりダンジョンに潜ったりし始めて、あっという間にあたしを追い越して特級になったんだ。だけど突然辞めたのさ」
もったいない。
「それじゃ、凄く稼いだんじゃないの?」
「ああ、そりゃもう。えらい稼ぎでたんまり金は持ってるはず、剣や防具意外に金を使わないし」
「えっと、食事とかは?」
「あたしが面倒見てる」
うわ。だが俺はピンときた。
「なるほど。アンナさんは冒険でお金をたんまり稼いだから、辞めて悠々自適に暮らしてるって事か?」
「まあそう言う事になるねえ」
ロサが残念そうに言う。
だが俺は思う。アンナは逸材なんじゃないかと。ギルドに属しておらず腕っぷしが強くて口が堅い。これ以上、条件に当てはまる人材なんて居ないと思う。コミュ障以外はオールオッケーだ。
俺がそんなことを考えていると、ロサがぺこりと頭を下げた。
「すまない。忘れてくれ、うちで油を売ってる姉をどうにかしたかっただけだ。腕はあるのになんにもしないで、剣ばっかり振ってる姉をどこかにやりたかったのかもしれない」
ロサはやっぱり正直者だ。姉を追い出したいとはっきり言った。その姿勢は嫌いじゃない。
「じゃ、帰ろう。ほらアンナ! 行くよ!」
ロサがパーティーメンバーとアンナに声をかけたが、俺は慌てて言った。
「まって!」
「「「「んっ?」」」」
「いいんじゃないかな?」
朱の獅子の四人が意表をつかれ驚いている。ロサが首をかしげて言う。
「何が?」
「アンナがうちで働くって言う事で」
「…いやいやいや。迷惑がかかりそうだから」
「でも、ロサはうちで働くのが良いと思ったんでしょ?」
「聖女様の所に連れてきたらあるいは、っていうはかない期待だったさ。だけど聖女様の迷惑になっちまう。仕事の条件を聞いたらアンナは当てはまると思ったんだけど、こんなんじゃ仕事になりやしねえし」
ロサが言っていると朱の獅子のメンバーも、ウンウンと頷いていた。当の本人は、未だにどこかを見て早く終わらないかな? って雰囲気を醸し出している。
だが俺はそれを押して言う。
「アンナは剣を振りたいんだよね?」
俺がアンナに話しかけた。だが反応はない。
「聖女邸なら、ずっと剣を振ってていいよ! 三食出すし、好きなだけ剣を振ればいい。お金を使いたくないんだったら、衣食住全部持つ」
するとロサが慌てたように言った。
「いや、聖女様! それじゃあ迷惑がかかっちまう。あたしがお払い箱にしたみたいだ」
「いいっていいって、だって彼女にはやりたいことがある。だったら私は彼女の応援がしたい。ずっと剣を振っていればいい、ねっアンナ。それでいいね? まず美味しいもの食べよう!」
俺がそう言うと、やっとアンナは俺の方を向いた。まじまじと正面から見ると、顔が整っていてロサとは似ていない。手入れとかをすれば美人になりそうな顔をしていた。
「何が食える?」
「一流のお菓子、あとは肉と魚と果物も食べられる。バランスよく食べて体を鍛えられるよ」
「‥‥‥金は?」
「一切使わなくていい。というより払う。あなたは剣を振る、私は金を払う。それで問題は?」
するとアンナがしばらく考え抜いて言う。
「ない」
「よし! 決定! そうとなれば話は早い。すぐに我が家に引っ越しを」
とんとん拍子に話が決まると、朱の獅子のメンバーがキョトンとしている。
まあ、仕事をするしないは後から考えればいい。とにかく俺はアンナに興味が湧いて来た。こんな女は他に居ない。むしろダイヤの原石を拾ったような高揚感が俺を襲っている。
そう、実はこの女を洗練させたいという願望が強かったのだ。
磨き甲斐があるぞー!
俺はニコニコしながらアンナを見つめるのだった。
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