第51話 少女を裸に剥いてみる
昨日は捕らえた少女に紅を贈り、食事を自分で取れるようにと騎士にお願いした。そして今日は三日目、俺はミリィと更に三名のメイドを連れて牢屋にきていた。マイオールが側について邪魔をしてきそうだが、静かにはしているようだ。牢屋の前に立って少女に声をかける。
「元気そうで何より。ご飯も食べていそうだけど、他は昨日のまま?」
そう言いながら、俺は牢の番をしている騎士を見た。すると騎士が答える。
「いえ。流石に臭くなってきましたので、聖女様のおっしゃる通り便所にはいかせております。もちろん見張りはつけておりまして、便所の時は首輪をはめております」
「まあそれはしかたないでしょう。あと、すみませんがこの屯所に大きなタライはありますか?」
「もちろんです。洗濯に使いますので、庭にあるかと」
「そのタライを持って来て下さい」
「は?」
するとマイオールが厳しく行った。
「聖女様のお言葉を聞き返すな! 言われたとおりにすぐに動くんだ!」
「は!」
牢屋の外にいた騎士が走って地下から出ていく。その間に俺は少女に声をかけた。
「ご飯は食べてる?」
「ふん。食べてるよ」
つっけんどんではあるが、昨日の反応よりずっといい。何も答えないという姿勢じゃなく、きちんと俺の問いかけに答えた。
「それはよかった。顔色も良いみたいだしね」
すると少女は目の前のテーブルに置いてある、俺が置いて行った紅を見て言う。
「それ、貰っていいのか?」
「どうぞどうぞ、あげる為に持ってきたのだから」
「そうか」
もちろん処刑されてしまえば必要のないものだが、俺はそれがある事で少女に未来を考えさせようとした。未来を考えれば、この自暴自棄の態度も改めるかもしれないと考えての事だ。
「聖女様! 持ってまいりました!」
騎士が大きなタライを持ってきたので、それを牢屋の中に入れさせ俺達も中に入った。もちろんマイオールと騎士二人も入って来る。俺は少女に言葉をかける。
「だいぶ臭くなっちゃったね」
「仕方ないだろ! あたしは縛られたままだったんだ」
「確かにね。気持ち悪いでしょう?」
「当たり前だ!」
少女が憤慨して怒る。俺は騎士達を振り向いてさらりとある事を言う。
「マイオール卿。騎士達を連れて牢屋から出てくださいますか?」
「いえ! 聖女様! それは出来かねます!」
「あれ? さっき、そっちの騎士にはすぐに私に言われたとおりにしろ! とか言ったのに、マイオール卿がそれでは示しがつかないのではありませんか?」
「それとこれは話が別です!」
「大丈夫。私を誰だと思っているのですか? こんな小娘一人に何か危害を加えられるとでも?」
「いえ。しかし万が一がございます!」
「万が一は無いです」
「しかし」
「心配なら牢の前で待っていると良いでしょう、責任は私が持ちます。騎士の皆さんは、何かがあったら私の証言を陛下にお伝えください。私に万が一があっても、全ては聖女の責任においてやったことだと」
マイオールと尽き従ってきた騎士が考え込んでいる。しばらく沈黙が続いてマイオールが言った。
「責任うんぬんの話ではないのです。聖女様に何かがあったら、私が嫌なのでございます」
なんか、いきなり連れて来られた子犬のような雰囲気でマイオールが言う。キモイ。
「あなたねぇ…」
俺が言おうとすると、捕らえられた少女が割って入って来る。
「はははは! この男はお前に惚れてんじゃないのか!」
それを聞いたマイオールが顔を真っ赤にして怒る。
「その様な不敬な思いは持っていない! 聖女様に対し私など! 貴様!」
めっちゃ怒っているので、俺はマイオールに言った。
「分かっています。陛下に忠義を尽くしているのでしょう? だけどそんなに怒る事もないでしょうに」
「し、失礼をいたしました!」
「で、出てくれます?」
「わかりました。時間は如何ほど?」
「そうですね。十分もあればいいでしょうか?」
「そんなに長い時間」
「問題ありません」
「‥‥‥わかりました。おい! 一旦外に出るぞ! そして聖女様、牢の入り口は開けておきますので、それは了承いただきたい!」
「いいです」
そして騎士達が牢の外へと出て言った。だが俺は一つ忘れていた。
「あー、騎士さん。この子の鍵をすべて外して行って」
するとマイオールがすぐに牢の中に飛び込んで来た。
「何を言っているのです! そんな事をすれば! 何をされるか分かりませんよ!」
「身体検査はしたのでしょう?」
「もちろん」
「武器はありますか?」
「無いですが…」
「なら問題になりません」
マイオールが少し固まったが、騎士に声をかける。
「はずしてやれ」
「は!」
だが、その話を聞いて少女が含み笑いをしながら言った。
「いいの? あたしはあんたを噛み殺すかもしれないよ」
「おお! 怖い。あなたは狼かなにか?」
「非力な女が数人だけなんて、あたしは強いんだ」
「でもその後で、騎士に叩き斬られますね」
「知るか」
俺は後ろを振り向いて力強く騎士に告げる。
「枷を外してください」
「は!」
そして騎士は少女の手と足に架せられた鉄の輪の鍵を外した。少女は手首をさすって俺の方を睨む。
「あんたらは猛獣の部屋にいるのと同じだよ」
「猛獣なんて何処に? とにかくあなたは臭い、体を洗った方がいい」
騎士が剣に手をかけたまま立っているので、俺がそいつに言う。
「レディの入浴を覗くのですか?」
「しかし!」
「マイオール卿! この人を外へ」
「お前も外に出るんだ。聖女様を信じよう」
「は!」
そして騎士が外へと出ていく。俺はすぐさまタライを置いて、水魔法でなみなみとそこに水を溜めた。ミリィがタライの縁にタオルを置いた時だった。少女が俺の方に向かって飛びかかって来た。ミリィが叫ぶ。
「聖女様!」
パシン!
俺は一瞬で少女にあらゆるデバフ魔法をかけた。そのせいでドサリと少女が床に落ちて、身動きが出来なくなってしまう。少女が驚いた顔で俺の顔を見上げている。
「なにをした!」
「静かにしてもらおうと思って。さあ、みんな手早くやってしまいましょう! 騎士達は覗かないように!」
俺の魔法で動かなくなった少女を見たマイオールが、笑いながらいう。
「すみません。私は聖女様が聖女様だった事を忘れていたようです」
「それが分かったら覗かない!」
「は! 失礼をいたしました! 皆も後ろを向け!」
「「「は!」」」
騎士達が後ろを向いたのを確認して、俺はミリィと三人のメイドに指示をする。
「じゃあ脱がせましょう」
「や、やめろ! やめろぉ!」
そう言いながら少女はあっという間に服を脱がされ、胸が露わになり履いていた下着もとられてしまう。だが全く身動きが取れないので、ただなすがままに体をだらりとさせてわめくだけだった。
「タライに入れましょう」
俺達五人で少女を持ち上げ、タライに溜めた水にいれた。
「あれを出して」
「はい」
そしてミリィが王家御用達の石鹸をカバンから取り出す。それを布に含んでごしごしと泡立て始めた。その泡で少女の体をごしごしと洗い始める。
「やめ! くすぐったい! いますぐあたしを動けるようにしろ! くすぐったい! あははは」
暴れようにも暴れる事も出来ずに、体のあちこちをメイド達に洗われていくのだった。
「あらら、いーっぱ垢がでる。女の子はこうではいけない」
「みるな! みるなよ!」
俺達は無視して女の子の体を洗い続ける。頭には専用の洗剤をかけて、ごしごしとやった。泡だらけになっていく女の子を見てちょっと楽しくなってきた。俺は思わずわき腹をコチョコチョとしてしまう。
「あ、やめろ! あ、あははははは! やめろぉ!」
そして女の子に水をかけて泡を落としていく。
「ちょっとやってて」
「はい」
ミリィ達に体を洗うのをまかせて、俺は床や椅子に水をまいた。垂れ流しだったので汚れているからだ。床と椅子を磨いてから一気に魔法で乾かす。
「じゃあタライから出して」
「「「「はい!」」」」
メイド達が少女を水から出したので、俺は汚物をそのタライに放り込んだ。水魔法で手を洗い、すぐに少女の所に行く。
「椅子に」
「はい」
そして裸のまま少女を椅子に座らせ、新しいタオルで体の水けを取り頭を拭いた。俺が少女の後ろに立って風魔法で髪の毛を乾かしていく。あっという間に乾いたので、俺はミリィに指示を出した。
「オイルを」
「はい」
ミリィはバックの中から香油を出して、女の子の髪に馴染ませていった。そのそばから二人のメイド達が、少女の髪の毛を編み込んでいく。少女は脱力しているので、一人がその体を支えていた。
「ミリィ」
「はい」
今度ミリィは牢屋の外に出て行き、大きな包みを運び込んで来た。そしてその包みを開けると、そこには下着とかわいいワンピースと赤い靴が入っていた。皆でそれを少女に着せてやると、やっぱり少女は可愛かった。きっちりと髪の毛を結って後ろにまとめ、クリッとした目でこっちを睨んでいる。
「似合うね」
「よ、余計な真似を!」
「あと、これは汚いから、洗ってもらいましょう」
「あ! 持って行くな!」
「大丈夫。捨てないから」
そして俺は入り口で向こうを向いている騎士に入ってくるように伝える。するとマイオールと騎士三人がこちらを振り向いて中に入って来た。
「えっ!」
「は?」
「さっきの子?」
騎士達が見惚れるように少女を見ている。何処からどう見ても可愛らしい、良家の少女になったような彼女を見て驚いていた。
「じゃあ仕上げに」
俺はテーブルの上の紅の箱を開け、また彼女の唇にそれをぬってやった。
「騎士さん。この汚れた服を洗ってあげて欲しい。あとタライの水は捨ててくださいますか?」
「は!」
そう言うと騎士は、新たに数名の騎士を連れて来てあれこれ指示を出した。
「恐れながら、こやつを拘束させていただいても?」
「ああ、もう着替えたから良いですよ」
「は!」
そして再び少女は椅子に拘束されてしまう。可愛らしいワンピースの少女が、鎖で椅子に縛られる様は見るに堪えないが、あんな風に飛びかかって来るんじゃ仕方がない。むしろそんな事をしたら騎士に斬られてしまうだろう。
そして俺は少女に言った。
「やっぱり可愛い! 最初見た時からそうだと思ったんだよね!」
「はあ? おまえ何言ってんだよ!」
「いや、思った通りの事を言っているけど?」
「なんだよ…これは…」
そして俺はすぐにマイオールに向かって言った。
「帰ります」
「えっ?」
「だから、帰りますけど?」
「尋問はよろしいので?」
「今日の目的は達成しました」
「それはどういう…」
「見ての通りです」
そう言って俺は捕らえられた少女を指さした。マイオールと騎士達は何が何だかわからないと言った顔をするが、俺はそんな事はどうでもよかった。とにかく女の子が綺麗になったからそれでいい。
「あ、そうそう」
そして俺は少女のデバフを解いた。
「は! う、動く! お、おまえ…」
「それは良かった…、あっ! 忘れてた!」
そう言って俺は鞄から一本の小瓶を取り出す。そして俺は女の子に近づいて、その小瓶の蓋を開け、ちょっとだけ中に入っている液体を指につけた。そして少女の首筋にその指を這わせる。
「うーん良い匂い。やっぱりこの香水が一番いい」
「な、なんだよ!」
「私のお気に入りの香水だけど、これもあげるから。ただし付け過ぎに注意、ほんの少し指につけたらそれを手首や首筋につけるだけ。あんまり付け過ぎると逆効果になるよ」
「おまえ…いったい…」
えっと、俺は俺のやりたいことだけをやっている。パッと見可愛い感じがしたから着飾りたくなった。それだけの話だ。
「では、また来ます」
「何だ…なんなんだよ! おまえは! なんなんだ!」
後ろで少女が叫んでいるが、俺はミリィと三人のメイドと共に牢屋を出るのだった。マイオールと騎士二名が不思議そうな顔をしてついて来る。それもその筈、昨日は飯を食わせたり紅を塗ったり、今日はお風呂に入れて着飾ったりしただけなのだから。
「聖女様…恐れながら、これで良いのですか?」
マイオールが不審げに聞いて来た。
「はい」
俺はただそう答えるだけだった。そのまま真っすぐにミリィたちと馬車に乗り込み、騎士団の屯所を後にするのだった。
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