第11話 感情


 (…………静かだ) 



 森の中。いつものような街の夜とは違い、周囲の静けさに少し驚く。

 そして冷静になって気がついた。結婚したという事実に。いや、厳密には契約の指輪がはまっているから結婚しているということなのだけど。だからリューに対しては好きという感情はない。

 この子はリュゲルドの子。だからあたしにはこの子のために尽くす義務がある。



 「……う~~ん。。」

 「…………かわいい」



 ベッドの真横でリューの寝顔を見るとあらためて可愛らしい顔をしていると思った。かわいい。これは恋愛感情なのだろうか。それとも単純にかわいいという感情なのだろうか。……よく分からない。

 それでも横ですやすやと良く眠っているリューを見るとリューのことが気になる。



 『ぷにゅ……ぷにゅ……』



 「……やわらかい」



 気がつくとあたしはリューのほっぺたをぷにぷにと触っていた。本当はこんな行為が許されるはずはない。けれど、あたしがこの子のためにできることはすべてしてあげたい。契約の指輪はその後で外す方法を考えて、あたしはこの子の元から去ろう。いや、この子に殺されるという最期でもいいかもしれない。そうであれば魔王竜ヴァロルグに殺されるよりもよっぽど本望だ。



 「本当に……なりゆきとは言えどの顔でこの子の横で寝ているんだろう。……あたしは……」



 かわいい寝顔を見ながら想う。本当のことを知ったらこの子はあたしをどう思うのだろう。殺意を抱くだろうか。それでも仕方がない。あたしはそれだけのことをしたのだから。



 「きゅぴぃいいいいいいいいいいい!!」

 「えっ……な、何!?」



 ベッドの中で物思いにふけっていると突然外から大きな叫び声が聞こえていた。おそらくはさきほど追い出したラメスライムのどれかの色だ。



 『ピシャアアアアアアン!!』

 「うわぁああああああああ!!」



 「えっ……な、何が起きてるの!?」

 「…………う~~ん。何の音?」

 「分からないけど、ラメスライムに何かあったのかも。ほらっ、早く起きて! 行くよ」

 「う~~ん……眠いよ~~……」



 あたしは眠そうに目をこするリューの手を引き、音の方向へ走った。

 





 ♦ ♦ ♦






 「あっ!!」

 「……きゅぴ?」



 向かった先には闇夜でキラキラと光るイエローラメスライムがいた。そしてその横には誰かが倒れていた。人だ。



 「やった……じゃなくて!! まずいでしょ、これ!! だ、大丈夫ですか?」



 ラメスライムの凄まじい力に思わず喜んでしまった。が、今は倒れている人物の救護が先だ。あたしは倒れている人物を確認する。



 「ルーニャ。その人、大丈夫?」

 「んっ、今調べてるから……良かった。息はあるみたい。…………あっ!!」

 「どうしたの?」

 「この人……ギルドの……」



 救護しようと倒れている人物の服装を確認して気がついた。この服装はギルドの、あたしの勤務していたギルドの紋章だ。つまりこの冒険者はあたしの街にあるギルドからやってきたということになる。

 まずいと思った。もしこの事態がギルドに伝わればより強い冒険者がここへやって来てしまう。そうなればこのラメスライムたちではひとたまりもないかもしれない。



 「と、とりあえず治療をして森から運び出すよ。リュー、そっちの足持って」

 「う、うん。分かった……うわっ、重い……」

 「………………」



 あたしはとりあえず冒険者を治療し、森の外に運び出すことにした。気がつくと周囲は明るくなり始めていた。

 

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