第9話 誕生、ラメスライム


 「う~~ん、上手くできない……」

 「きゅ……キュピィ……」



 ふと隣で同じようにスライムにラメを練り込んでいるリューを見るとリューの両手からスライムが必死に逃げようとしていた。


 

 「もうっ!! 何やってんの。しっかり掴んでもっと力強く練らないとダメだよ? ほらっ、こうやって!!」

 「きゅ……キュピィ……」



 あたしは苦戦しているリューに見本をみせるようにスライムを力強くこねる。魔法粉の使用は均一性が重要だ。均一でないとラメがない部分が急所となってしまう。



 「あっ!! だ、ダメだよルーニャ!! スライムが痛がってるってば!」

 「……え? 痛がってるって……リューはスライムたちの言葉が分かるの?」

 「え……う、うん。分かるけど……ルーニャは分かんないの?」



 驚いた。あたしにはスライムたちがただただ「きゅっきゅっ」と鳴いているだけに聞こえる声がリューにはスライムが嫌がっていると分かっているらしい。



 (そっか…………痛がっているのか……)

 「……きゅぴ?」



 リューにスライムの気持ちを聞き、ふと手を止める。が、このスライムたちは今いる貴重な戦力だ。それに可哀想だからと強化をやめてしまえばスライムたちは結局冒険者たちに殲滅させられてしまうことだろう。



 「……きゅ?」

 「でもこのままだと結局やられちゃうし……大丈夫大丈夫!! この魔法粉は害はない成分だし、ふん! ふんっ!」

 「きゅ、きゅぴーー!!」



 『こね……こねっ』

 『ぐりんぐりん!!』



 「キューキュピーーー!」



 そう言ってあたしが再び手元に力を込めると再びスライムは苦しそうな声をあげる。



 「あっ、やめてあげてよ!! ルーニャ」

 「大丈夫大丈夫!! ほらっ! リューももっとたくさんこねて!! ちゃんとこねないとラメが偏っちゃうでしょ!」

 「う……わ、分かった……」



 本当は魔法粉とスライムを回転機に入れて均一に混ぜようかとも思ったけど、この様子からするとスライムの断末魔が聞こえていたかもしれない。

 やらなくて良かった。でも作業はやめない。スライムたちには悪いけど今ここにいるのはこのスライム達だけだ。

 あたしとリューは魔力粉がしっかり均一に混ざるように必死にスライムをこね続ける。



 「キュ!! キュピィイイイイ!!」

 「キュウウウウウウウィイイイイ……」



 スライムたちの悲しい声がしばらくの間、部屋の中に響いていた。






 ♦ ♦ ♦






 「……ふぅ、出来た」



 【キラキラキラキラ】



 目の前には色鮮やかな5色の物体が整列している。

 半日がかりでギルドからもらってきたスライムにすべてラメを練り込んだ。

 先ほどまで無色透明だったスライムたちは実に鮮やかなラメで装飾された。



 「うわぁ。きれいだね~~」

 「そ、そうね」



 スライムたちはキラキラとした輝きを放っている。そのあまりの輝きに心配になった。



 【森の中で目立ちすぎて冒険者たちから狙われるのではないか】と



 本当ならラメを混ぜ込む前によく考えておくべきだった。魔法粉は通常はとは言え、誕生したスライムたちを今更どうこうすることは出来ない。少し色味を抑えればとも思わなくはなかったが、隣であまりにも嬉しそうにはしゃいでいるリューの姿を見て剣や弓に練り込むためそれほどその色味が目立つことはない。しかし、今回使用した対象は無色透明のスライム。それ故に練り込んだラメはもろにスライムの身体全体をキラキラと輝かせてしまった。



 「すごい綺麗だなぁ~~♪ これって強くなったのかな?」

 「きゅ……きゅぴぃ」



 それでも目の前の綺麗なスライムたちを嬉しそうに眺めるリューを見てやはりつくって良かった。そう思った。



 「ねぇ、ルーニャ」

 「ん? 何?」

 「このスライム達の名前って何にする?」

 「名前? ……そうね」



 あたしはリューにそう尋ねられて少し考える。そしてそのキラキラとした色味を見てひらめいた。そしてリューの顔に目を向けると、リューがこちらを向いて何かを言いたそうにニコニコと笑っている。



 「「ラメスライムーーー!!」」



 「ははっ、あはははっ!!」

 「ふ、ふふっ♪」



 あたしが閃いた名前とリューと声が揃い、あたしは思わず笑顔のリューと向き合って笑い合う。こんなに笑ったのはいつ以来だろう。

 しばらくの間、部屋の中にあたしとリューの笑い声だけが響いた。

 

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