第7話 魔物ギルド登録


 「ねぇ、リュー。どこまで行くの?」



 「もうすぐだよ!!」



 人魔化してしまったあたしはリューに引っ張られて森の中を歩いている。本当は人魔化したこの身体をもっと調べたかったけど、リューに引っ張られてきた。

 周囲には人間でない様々な容姿をした者たちがいる。そう、魔物だ。リューに連れて来られたのは魔物達が集まる街。ここには様々な魔物たちが集まるのだという。



 「ほらっ! ルーニャ、ここだよ!! 早く早く!!」



 「ちょ、ちょっと! 引っ張らないでったら!!」



 リューは目の前の建物を指さし、あたしの手を引っ張る。どうやらここがリューの目的地らしい。



 「本当にここで登録するの? その……魔物登録……」



 「うん! そうだよ?」



 ここはギルド。といってもあたしがいた街の冒険者ギルドとは違う。魔物ギルドというらしい。ここでは魔物としてのステータスを登録し、魔物としての実績を登録する場所らしい。

 登録が終われば正式な魔物として魔王を目指すこともできるという。逆に言えばギルドに未登録である魔物は正式な魔王ではないということなのだという。

 そのため魔王になりたいリューのためにあたしも無理やりここへ引っ張られてきたという訳だ。



 「すみませーん! 魔物登録をお願いしたい……んです……けど……」



 「ああ? なんだチビ?」



 ギルドの受付では図体のデカいミノタウロスがリューとあたしを見下ろしている。それを見て瞬時に分かった。ここはリューが来るような場所ではないことに。ミノタウロスは物凄い形相でこちらを睨んでいる。



 「あの……ぼ、お……俺、魔物登録……したいん、ですけど……」 



 「ああ!? テメェみたいなチビが魔物登録なんてできるわけねぇだろ? とっとと帰りな」



 「そ、そんな……今日のために登録料だって頑張って貯めてきたのに……」



 「はん? 金があってもテメェみたいなチビが魔物登録なんて……できます。と、登録させていただきます」



 リューに無礼な言葉を放ち続けていたミノタウロスは途端に言葉を改める。怯えたようにリューの隣にいるあたしを見つめている。ただただ冷たい視線をぶつけていたあたしの顔を。理解したのだろう。あたしとの実力差を。

 本来ならあたしが出しゃばる場ではないけれど、せっかくリューが嬉しそうに登録をしに来たんだ。せめて魔物登録くらいはさせてあげたいと思った。



 「ではこちらに必要事項の記入を……」



 「わーー、やった~~♪」



 (良かった……)



 あたしは嬉しそうに登録用紙に必要事項を書き込むリューを横目で見つつ、受付のミノタウロスを睨み続けた。






 ♦ ♦ ♦






 「はい、こちらで大丈夫です」



 必要事項の記入も終え、受付のミノタウロスが記載内容を確認している。これでリューの魔物登録は完了したらしい。



 「では魔物登録も完了しましたので、配下モンスターの支給を行います。え~~、あなたは特に実績はないので支給できるモンスターはスライム、ゴブリン、キラービーの3種類ですね」



 「……えっ」



 ミノタウロスがそう言うとリューの動きが固まった。スライム、ゴブリン、キラービー……。どれも最弱レベルの魔物だ。魔物ギルドの決まりはよく分からなかったがスライム、ゴブリン、キラービーなんてモンスターを貰っても困る。あたしは受付の机の上に登り耳元でミノタウロス囁く。



 「……おいっ、……あたしの夫に対して舐めた態度をとるなよ?」



 「……え、い、いや……あ、あの……ですが、その……特に実績もないので……最初に配給できるのはこれくらいでして……」

 


 「ふぅううううう!!!」



 あたしは力いっぱいにミノタウロスを睨みつける。リューに対しての無礼な態度はあたしが決して許さない。この子は魔王リュゲルドの息子だ。あたしの友の子に対する無礼はあたしが許さない。



 「……よこしなさい」



 「……え?」



 「もっと強い魔物をよこしなさいよぉおお!!」



 『ガンガンガンガン!!』



 「ああっ!! つ、机がぁあ!!」



 人魔になって力が強くなったのだろうか。机が足元で大きく変形してゆく。



 「ひ、ひぃいいいいい!!」



 「る、ルーニャ!! や、やめてあげて!!」






 ♦ ♦ ♦

 





 結局リューになだめられてあたし達は魔物ギルドを後にした。



 「…………ふぅ。。」



 ああ、なんて悲しそうな顔をするのだろう。リューは平然を装っているようで必死に涙が溢れそうな目を上に向けている。それでも時折いっぱいになってこぼれそうになる涙を袖でごしごしと拭いている。声をかけて慰めてあげたいが、言葉をかけた途端に泣き出しそうなので黙って隣を歩く。


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