第2話 リュナード
「こんなところで何をしてるの? 早くこの森から逃げた方がいいわよ? 近くにまだ魔王竜ヴァロルグがいるかもしれないんだから」
あたしは目の前の
「お、大きなお世話だ!! お、俺はヴァロルグを倒すために来たんだ!」
「あんたが魔王竜ヴァロルグを……倒す? ふっ。冗談でしょう?」
あたしは目の前のあたしよりも小柄な人魔を見上げて失笑した。魔王竜ヴァロルグは魔物の王である魔王。その魔王の中でも最上位の魔王。この世界には竜族以外にもアンデット、獣人などの魔物が存在し各種族に王である魔王が存在している。が、人魔はその容姿が人間に近いこともあり、身体的な能力は他の種族に大きく劣る。そんな人魔の、それもこんな小さな人魔があの魔王竜ヴァロルグに勝てるはずがない。
あたしは目の前の少年を見つめ、大きく、深くため息をついた。
「ば、バカにするな!! ぼ……俺は、この世界で一番偉大な魔王になる男だ! そ、それにあいつを倒すのはまだ……もうちょっと先で。きょ、今日はあいつを偵察に来たんだ!」
「あっ、そう……」
子供のようにむきになる目の前の少年を見てあたしは少年から目を逸らし短く一言返答した。そして満身創痍の身体を起こし、目の前の少年の目の前まで歩いた。向かい合うとその少年の背丈はあたしとほぼ同じ。それほど背丈のないあたしと同じ程度の背丈。
「あんた歳は?」
「20歳」
「そう……」
思った通りだった。
あたしが少年を見つめそんなことを考えていると目の前の少年が目を輝かせてあたしの顔を見つめていることに気がついた。
「それにしてもお前、強いんだなぁ」
「見てたの?」
「うん!!」
少年は満面の笑顔であたしの問いに大きくうなずく。どうやら先ほどのあたしの戦いを見ていたらしい。
「負けたけどね」
「いや、そんなことない! すごかった。人間で魔王竜ヴァロルグ相手にあんなに戦えるなんて……」
「それはどうも……」
「お、俺、リュナード。リュナード」
「別に名前なんて聞いてない」
「俺はお前が気に入った!」
「あたしはあんたに興味ないけど……」
「でもぼ……俺はお前に興味がある! 名前はなんて言うんだ?」
「………………ルーニャ」
「ルーニャかぁ。へぇ~~♪」
「………………はぁ」
あたしは再び大きくため息をついた。興味半分で歳なんて聞くんじゃなかった。変な相手に興味を持たれてしまった。調子が狂う。目の前の綺麗な目。綺麗な黄色の髪と同じ澄んだ黄色い瞳。この目を見てると思い出す。勇者だったころを、あの時のことを。あたしは目の前の人魔のペースに乗らないように視線を逸らす。
そんなあたしのペースを乱すかのようにその人魔はあたしに言葉を発した。
「ルーニャ。俺の妻になれ」
「……………………は?」
これがあたしの夫、リュナードとの最初の出逢いだった。
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