魔族に嫁入りしたので魔物強化に勤しみます!
ツーチ
第1話 ルーニャ
「……あたしがあんたの妻になれって……言うの?」
「そ、そうだ!! 僕……じゃない。……お、俺の妻になれ!!」
♦ ♦ ♦
あたしはルーニャ。ルーニャ・ミディアス。かつて勇者として名を
そんなあたしは今、満身創痍の状態で森の中にいる。その理由は魔王竜ヴァロルグの討伐だ。魔王竜ヴァロルグは魔物の竜族の王。かつて勇者として名を馳せたあたしも今ではこのざまだ。もっとも勇者として活躍していたのは今からもう5年ほども前。その後は街のギルドの持つ研究所で冒険者たちの装備品の研究や薬品の調合をしていたのだから身体の動きも当時のような機敏さはなかったのだろう。
(…………やっぱり、ダメか。。)
自分でも何となくわかっていた。敵うはずがないと。それでもあたしはたった1人で魔王竜の討伐にやってきた。かつてやり残した想いを遂げるために。
もしこの討伐が失敗しても悔いが無いように、1人で。
あたしが死んでもその亡骸が誰にも見つかることのないように、1人で。
かつて勇者として名を馳せたこのあたしの無様な姿を誰にも知られることのないように、1人で。
ギルドで働いているかつての友に頼んで極秘の依頼としてここにやって来たのだ。
「勇者をやめて5年……、色々頑張って来たけど。ダメだなぁ、あたしは」
勇者を辞めてから、あたしはギルドの研究所で冒険者のためにたくさんの装備品や薬品を作った。それはもちろん冒険者たちのためでもあったけれど、あたしのしたかった1番の目的はそれじゃない。今は亡き友のために、仇を討つために多くの装備品を作り、ここに来た。友を殺した魔王竜ヴァロルグを討つために。
――――友? いや、違うかもしれない。
あいつは魔物だから。あたしの、勇者だったあたしの倒すべき敵だったんだ。
――――でも。友だった。いや、ただの顔見知り? 気の合う……親友。もっと……大切な。
「いつっ!!」
魔王竜が去った静かな森の中でそんなことを考えていたあたしの意識は身体の傷によって現実に戻された。
でも、正直もう、どうでも良かった。あたしは負けたんだ。かつての勇者ルーニャは負けた。やり残した想いも叶うこともなく、あたしはこの静かな森で人生を終える。
そう思ったその時、
『がさっ……がさっ……』
(!? 何かいる!!)
あたしは咄嗟に音の方に身構えた。死の覚悟はできていたがそれは魔王竜ヴァロルグに殺されたならばだ。元とは言え、かつての勇者の最期がスライムやゴブリンのような最弱モンスターにやられるようなことはあたしのプライドが許さない。死ぬのなら茂みから現れたモンスターを蹴散らしてからにしよう。あたしは茂みから現れる物の登場を待つ。
『がさっ……がさっ』
「あれ? じ、
目の前の茂みから現れたのはスライムやゴブリンではなかった。それはあたしと同じくらいの背丈の魔物だった。衣服を身に付け、頭部から2本の真っ黒な角が生えた魔物。それ以外の容姿が人間と同じであることから察するにおそらくは
あたしはその魔物の姿を見て驚いた。その魔物の髪は綺麗な黄色。それはかつてあたしが勇者だった頃に何度も剣を交え、最期まで倒すことのできなかった魔王にそっくりだったから。
かつてあたしが倒すことのできなかった唯一の魔王。リュゲルド・アーテリウスに。
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