第31話
翌日になって、僕とソフィアは市街中心部。
時計塔が隣接する市役所に来ている。
「大きい……。」
いや、本当に大きい。
「これは私の家の創始者の娘。《テレサ・ヴァイオレット》がこの街がまだ何も無い村だった頃に作ったらしいのだけれど……。」
と、ソフィアはそう濁しながら説明した。
まあ、ちょっと信じられないのはわかる。
それから僕達は街中を回った。
炭鉱の歴史資料館。
鉄鋼工場の隣にある博物館。
歴代の貨物列車や貨物船の状態保存がしてある港の一部を改修した博物資料館。
やろうと思えばまだ使えるらしい……。
それからというものの。
ゆく先々でたれたうさ耳の少女が見える。
首にぶら下げた懐中時計。
灰色のジャンパースカートにエプロンドレス。
黒い鉄道帽に黒いブーツ。
白いタイツに手袋。
各所にフリルが装飾されていて、落ち着いた色合いながらなかなかにファンタジーな服装になってる。
そんな少女にしばらく見とれていると。
「どうしたのですか?。」
「あそこにちょっと変わった女の子が……。」
「どこですか?。見当たりませんが……。」
「そう……。」
見間違い……。ではないよな……。
転生してからというものの、この童話のようなファンタジーによく会う。
しばらく歩いていると、ソフィアは急用ができたとのことで離れることになった。
「すみません、ユイ。私これから教会の方に行かないといけなくなったので。ごめんなさい。」
「いいよ。一緒に行こうか?。」
「ありがたいのですが……、ごめんなさい。」
「そう、頑張ってね。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って、ソフィアは急いで教会の方へ行った。
教会で何があるのか気になるけど、まあ楽しみに取っておこう。
そんなこんなで私は再び時計塔に来ている。
改めて近くて見ると、ほんとに大きくて、高い。
イギリスの時計塔に似せたらしいのだけれど、正直よく分からない。
ドンという衝撃とともに僕は体勢を崩す。
「あっ、ごめんなさ〜い。」
そう、うさ耳の……。
うさ耳の少女が抜けて行った。
僕はカランとなにか金属の落ちる音を聞いて、音源をだどってみる。
「oh......。まさか本物を目にするとは……。」
落ちてたのは、まだ自動改札機が無かった頃に駅員が使ってた切符の穴あけのやつ。
「まさか、実物を目にするとはね……。」
と、そんなこと考えてる場合じゃない。
今すぐこれをあのうさ耳の少女に届けないと。
あれから僕は、うさ耳の少女を追いかけた。
入り組んだ西洋風の街並みを縦横無尽に。
右へ左へ。上へ下へ。
少ししたら、裏道の十字路でうさ耳少女を見失った。
「どこ行った……。」
十字路の真ん中で辺りを見渡す。
なにか手がかりは……。
「あっ、そうだ。」
僕は唐突に、時計の白うさぎからもらった銀色のチケットを取り出した。
チケットにはロゴのような模様が描いてあっって、それぞれの道に連なったロゴの看板と重なるように注視する。
「あれか……。」
【蒸気機関を担いだ三日月のうさぎ】。
あのロゴで間違いなさそう。
そう確信して僕はその道を行った。
石畳の道を進んだ行くと、あるところを境にコンクリートのような道に塗り替えられていく。
「トンネル……。」
明らかに別世界に通じるトンネル。
確証はないけれど、これまでの経験がそう確信させる。
「大丈夫……だよね……。」
僕は恐る恐るトンネルを進む。
足元に流れ込む蒸気がどんどん濃くなっていき、次第に頭まで全身を包み込む。
「何も見えない。」
白い蒸気の世界が視界を埋める。
本当にこのまま進んで良いのかと恐る恐る歩を進めると、ぶぉーんという汽笛とともに、白い世界が風に乗って流れていった。
「いやぁ……、えぇ……。」
山沿いには蒸気とシリンダ、歯車の工場群。
平地には時計塔を中心にそびえ立つ、昭和の頃に想像された未来のビル。
地上にはタイヤのない浮遊する自動車に、見たことない蒸気機関車。
そして空には、透明なチューブのような道を進む鉄道に、巨大な液晶のようなガラスを付けた装甲飛行船。
「マジかぁ……。」
スチームパンクとレトロフューチャーを混ぜた世界に、どうやら僕は招かれたらしい。
女の子に転生してから15年、聖夜前の昼下がりに失恋した少女を拾いました。 アイズカノン @iscanon
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