第30話
朝食を食べ終えた僕は裏庭にある広い檻の中でうさぎたちと遊んでいる。
白く塗装された木の檻は、地面に、空間に対しての境界線。
うさぎとお世話係のみに許された箱庭の異世界。
まあ僕は頼んで咲菜さんの付き添いで一緒来ているのだけれどね。
「うさぎって思ったよりも細いのね。」
うさぎを抱き抱えた僕は誰に話しかけるでもなく、ただそう呟いた。
ソフィアは久しぶりの帰省で、いろいろと挨拶回りをしないといけないので、僕は今は暇である。
しばらくうさぎと戯れていると。
「こんなところにいたのか。」
ソフィアの姉、レミアだ。
仕事の合間の息抜きだろうか?。
「私もよくここに来る。」
「そう……ですか……?。」
「意外か?。」
「あっ……いえ……。」
「いいんだ。」
ポンポンと僕の頭を叩く。
「本当にかわいいな。」
胸に抱き寄せて、頭を撫でてくる。
それが心地よくて、安心できて。
「えっと……。あの。」
「あっ。あぁ、ごめん。ソフィアはこれで安心してくれるからつい。」
「そうなんですか。」
「あぁ。」
「もっと聞かせてもらえますか?。」
「あぁ、良いだろう。」
それからレミアさんはソフィアとの思い出を話してもらった。
初めて小学校に上がった日。
2人で母親に怒られた日。
ソフィアはここを離れた日。
そして、レミアさんが初めて姉になった日。
「私は元々ここで生まれた人じゃない。」
「引き取られた?。」
「そう。だから、アリスさんも本当の母親じゃない。」
「……。」
「そんな顔をするな。これでも私はここでの生活に満足している。」
「そう。」
「アリスさんは実の親のように叱ってくれるし。何より。」
「何より?。」
「ソフィアが不安だった私を「お姉ちゃん」と呼んで迎え入れたことが嬉しかった。」
「そうですか。」
ポンポン。
「だから私は嬉しい。こんなかわいい子が私の新しい妹になるのだから。」
と僕の頭を撫でる。
優しく。うさぎ達に囲まれながら。
「さて、少し長居しすぎたな。」
「ごめんなさい。」
「いや、いいんだ。おかげで君のこともよく知れたしね。」
「はい……。」
「じゃあ、遅くならないようにね。」
「ありがとうございました。」
レミアさんは手を振りながらうさぎの箱にはを去っていった。
トン。となにかに背中を押された。
振り返るとそこには赤い目の時計の首輪を付けた白うさぎ。
「どうしたの?。」
その問いに対して時計の白うさぎは「ん。」と銀色のチケットを咥えて差し出した。
「チケット?。」
なにかの招待状だろうか?。
疑問に思い再び時計の白うさぎを探すが、そのうさぎは姿を現すことは無かった。
それがオレンジと紫のグラデーションに染まる時間。
僕はお世話係に時計の白うさぎのことを聞いた。
しかし返ってきた回答は―。
「そんなうさぎはうちにはいませんよ。」
だった。
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