第6話
僕は今、後悔している。
親友との約束は、自分にできるギリギリのラインでしないことであると今世で学んだ。
たった今。
まあどうしてこうなったかというと。
やったのよ。
あおいが。
堂々の一位で無事試験を通過したのよ。
この子やれる時のやる気が違う。
違いすぎる。
「ママ〜。約束通りできたよ-。」
「うん。えらいえらい。」
「うへへへ。」
まあ可愛い笑顔だからよしとしよう。
さすが元アイドル。
さてここからだ。
なんでもしていいと約束してしまったゆえに要求が気になるところ。
「ところであおいのやりたいことって?。」
「私の家でお泊まり会と明日のデート。」
「お、おう。」
多少身構えていたけど、これならまあ良いか。
度々やってるし。
時間は放課後に入り、鞄に色々と入れて身支度をする。
>今日は友達の家で泊まるから迎えに来なくて
大丈夫だよ
返信どころか即読もこない。
と教室の廊下側の窓を見ると。
いる。もう。というか早い。
そんな時間だったかなぁ。
とそんなこと考えていると。
横であおいがソフィアに対してドヤ顔でマウントとってる。
やめれ。
あぁー。めっちゃジェラってるオーラ出してるよ。
だからやめれ。
私はあおいの背中を押して教室から出す。
と教室を出たタイミングでソフィアに「ごめんね」のジェスチャーで鞄を渡した。
渋々受け取ったタイミングであおいが煽るように私の右腕に抱きついた。
そしてドヤ顔。
完全に煽ってますわーこれー。
やめてー。
ソフィアも真顔だけどジェラってるオーラずっと出てるよこれ。
身体を動かして無理やりあおいを引っ張る。
あおいは嬉しそうに速度を合わせて歩く。
後ろからすごいジェラシーオーラ出てるけど。
あおいの家の前に到着。
まあ普通の二階建ての一軒家。
僕の家と徒歩10分圏内のところにある。
「いらっしゃい。」
あおいがのお母さんが出迎えてくれた。
ある出来事をきっかけにある程度はここにくる中になっていて。
僕専用の食器や私服、パジャマ含めた一通りのものは揃っている。
結構手厚い。
たわいもない親子喧嘩をほのぼのと見たあと、あおいに連れられて二階のあおいの自室に行く。
部屋の中は思いのほか殺風景であり。
飾ってあるのは僕と一緒に撮った写真。
そして僕の写真と台座があるロザリオが棚の中に神棚のようにしてある。
毎回ここにくる時びっくりするのよね。
信仰的というか。僕をある程度特別視している傾向にあって少し不安。
僕は今、あおいの家のお風呂に入っています。
あおいと一緒に。
「先に入って良いよ。」と言われたから入ったら。
完全に罠だった。
なぜナチュラルに一緒に入ってくる。
早く親離れしてくれ。
「こう見るとユイの身体はよく成長してますね。」
「そう。」
「こことか特に。」
「あんたが育てからじゃないの?。」
「ふへへへ。そうですか~。」
そう言いながらナチュラルに揉むんじゃない。
でも優しく揉んでくるからなんか身体が受け入れてる。
そんなこんながすぎて、夕食を食べて、軽いお菓子とジュースを持ってきて、あおいの部屋でパジャマパーティーの時間だ。
僕は白いベビードール。
あおいは青のベビードール。
もちろんペアルックである。
だいぶあおいの下心丸見えの選抜だったけど。
「ママ〜。ミルク〜。」
「おいこら。」
お泊まりの時はいつもこう。
隙あらば僕の胸を吸おうとする。
まあ仕方ない部分もあるから良いけど。
ベビードールの肩紐を下ろそうとした時。
「やっぱりいい。」と制止された。
誕生日にやってもらうつもりなのだろう。
そして僕たちは一緒のベッドで寝る。
「ママ…。」
(まあ良いか。)と思いながら僕はあおいを抱いて寝落ちていく。
今日は久しぶりにあおいとのデートだ。
今日はアイコンタクトのあおい。
気合いは十分。
衣装は僕はオフショルの白ワンピ。
あおいは白シャツに青いパーカー、プリッツのミニスカート。だいぶアイドルっぽい見た目になってる。
あおいがこの時はだいぶ気合いが入ってる証拠である。
僕の腕に巻きついたあおいに引っ張られてショッピングモールを回っていく。
そして出ました定番イベント。
あおいプロの僕のファッションショー。
アイドルっぽい衣装。ゴスロリ衣装。スポーツウェア。イラストとかでよく見かける衣装。あとは当たり障りのない衣装。
「これ買います。」
僕はクタクタだけど。あおいが嬉しそうで何より。
やっぱりこの子は笑顔でいる方が僕は好きだ。
あおいとの楽しいデートを終えた僕はあおいの買った衣装を片手に家に帰る。
「ただいま。」
玄関を開け中に入って、扉を閉めると。
ソフィアが突然抱きついてきた。
まるで感触を確かめるように。
僕は何も言わずにそっと背中を撫でた。
――――――
ユイは私の希望の光だ。
あの頃の私はとにかく頑張っていた。
忙しくて疲れるけど楽しいアイドル活動。
小学生の頃から続けて5年。
アカネとも組んでこれからユニットとしてやっていこうとしていた時に。
太陽に向かって高く飛んでいた葵鳥は突然地に落ちた。
何が原因だっただろうか。
ただ皆言われた通りにやって。演じて。理想のサファイアになったのに。
SNSに溢れる殺意や憎悪。
身勝手で無責任な大人たちの切り捨て。
あぁ…。私はもう。
自室にこもって。お母さんの声も聞こえない暗闇の中でひとつ光なにか。
私は誘われるようにその光を追った。
>あおい大丈夫
》ちょっとコンビニ行ってくる
光を追った。
あれを追えばこの暗闇を脱出できる。
そしていつもの日常に戻れる。
全部悪い夢で。
あの光に着いたら元に戻れる。
だから。
突然身体がなにかに引っ張られる。
「い"や"ー。」
私は叫んだ。どんどん遠くにいく光に置いていかれる恐怖に支配される。
この悪夢から終わらせてくれる光が。
「離して。」
離して。
「私は-。」
「大丈夫。」
優しい声が私の耳元で囁く。
「大丈夫だから。」
急に暗闇が晴れる。
私のいるところは柵のない屋上。
そして抱かれて押さえつけられる。
まるでこれから飛び降りのを阻止するように。
飛び降り…。
急に心拍数が上がり。息が上る。
「大丈夫だよ。」
優しく包み込む腕。そして声。
この声知ってる。
「ユイ…。」
「大丈夫だから…。ね。」
あぁ。私はまだここにいていいんだ。
安心したのか私は眠ってしまった。
目が覚めると、そこは私のベッドの上だった。
傍らには看病していたのだろうか。誰か寝ている。
泣いてないのに視界がぼやけている。
あれ…。こんなに目悪かったっけ…。
客席の1番奥のファンまで見えるくらい視力あったのに。
「あれ…。起きたの。」
この声は…ユイだ。
でも視界がぼやけて誰だか分からない。
「ごめん…なさい…。」
声しか分からない。
「ごめんなさい…。」
今目の前にいる人が誰かさえも分からない。
ユイと思われる人が私の頭を撫でて、優しく抱いている。
それは心地よく。
だからこそいっぱい泣いた。
これまでの分。
今の分。
これまでの分。
いっぱい。いっぱい泣いた。
それかユイは私が回復するまで毎日看病に来ていた。
嬉しかった。
だから甘えたのかもしれない。
いつしかユイのことを「ママ。」と呼んだ。呼んでいた。
メガネやコンタクトの補正があるものの。
視力はある程度回復した。
その時だろうか。
ユイを『私だけのマリア』だと意識しだしたのは。
そんな身勝手な私をユイは何も言わずに受け入れてくれた。
だから誰にも渡したくない。
ユイは私のママなのだから。
――――――
(家がこんなに静かだなんて。)
ユイが友達の家に泊まりに行ってからはや数時間。
私は物静かな家で一人立っていた。
一人は慣れていた。
かつてはそうだったから。
でも今はユイがいて。
毎日が騒がしくて。
それが日常になって。
それが嬉しくて。
(ユイちゃんが恋しい。)
心にぽっかり穴が空いたような感覚だった。
こんな気持ちは初めてだった。
あぁ。私はユイを無意識に必要としていたんだ。
私は静かになったリビングで夕食を食べていた。
いつもはユイが話し込んでいたから寂しくなかった。
暇だからテレビを見る。
つまらない。
いつもはユイがリアクションしているから。
(ユイちゃん……。)
私の生活はいつしかユイが中心になっていたことを無意識に自覚した。
翌日になり。半日以上がたってようやくユイが帰ってきた。
どうしてそういう行動に出たのか分からない。
でも私はユイを必要としていた。
私が私でなくなる気がしたから。
私は勢いよくユイに抱きついた。
抱きついていた。
その行動の理由も分からずに。
それでも私は…。
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