第5話
私は今日。天使に会いました。
〈葉っぱが1つもない並木道で可憐に歩く長い黒髪、ルビーのような赤い瞳に、黒い冬服のセーラー服を着ている美少女。そう私です。《初霜アカネ》です☆。〉
はぁ、帰りたい。
けど行かないと。
〈私が向かっているのはこの並木道の先にある高校。そう。星乃原高校。〉
〈実は私。昔ここの中等部にあたる星乃原中学校にいたことがあるのです☆。〉
そう。私はここの出戻り組。
あることがきっかけで離れることになった。
〈私。昔はサファイアって子と一緒に中学生アイドルをやってことがあって。あの子もここに。充当に行けばここまま同じ高校に通うことになるのです☆。〉
そう。サファイアこと、《雪風あおい》。
あの子は元気にやっているだろうか…。
…うぅ。少しお腹痛い。
〈しくじりました。まさか緊張で体調を崩してしまうとは。です☆。〉
臨時の救護室の先生からは「それなら保健室に行った方が良い。」って言われた。
どうも精神的なものらしい。
辛い。
でも。
なんの為に戻ってきたの。
あの子に向き合うためでしょ。
〈保健室が見えてまいりました。です☆。〉
保健室のドアに手をかける。
〈とりあえずベットで休みましょう。です☆。〉
誰かいる。
窓際でたたずむ白いジャンパースカートの制服の小柄な白っぽい青い髪に、白桃色の瞳の少女。
あの制服は知ってる。かつて着てたから。
〈あの制服は星乃原中学校の制服です☆。〉
……。
神の演出か。それとも必然の奇跡か。
白く。光で半透明になった保健室のカーテンが風にあおられて。白い制服と、差し込む日光が、合わさって、光の翼を形造った。
「あっ…。」
何故か自然とお腹の痛みが引いた。
けど何故?。
窓際の少女がこちらを見ている。
「こんちには。」
その笑顔が美しかった。
光が。カーテンが。青い髪が。その瞳が。
私にそう認識させた。
確定させた。
〈「天使。」〉
「天使。」
「え?。」
何故そう呟いたのか分からない。でも。
そこには天使がいた。
そして私はその天使ちゃんに膝枕をされている。
以外ともちもちして心地よい。
さぁ…さぁ…。
そして頭もしっかり撫でられてる。
いいのこれ。お金払わなくて良いの!?。
「どしたの?。こんなところにきて。」
どうしてだろうね…。
「先生に言われて…。」
「そっか〜。」
軽い。そして今気づいた。結構可愛い声。私の好み。この声好き。
「こんなことになるのにどうしてもここに受けにきたの?。」
「……。」
言えない。でもこの子になr。
「言えないなら無理に答えなくて良いよ。」
先手を打たれた。
でもありがたかった。
私はまだあの子に謝れていないのだから。
……。
ずっと膝枕状態で頭を撫でられてる。
……。
そろそろ離れないと。
「私はもう大丈夫ですから。」
「そう?。」
「はい。」
起き上がって、そう言って、私は天使のような少女から離れた。
「ありがとうございました。」
ドアを開け。私は頭を下げた。
「行ってらっしゃい。」
そう言って少女は手を振りながら私を見送ってくれた。
少し笑がこぼれる。
これまでの緊張が嘘のよう。
……。
あっ…。
……。
あの子の名前を聞くの忘れてた。
まあ春には会えるでしょう…きっと…。
きっと会えるよね。
お願いします神様。
―――――――
僕は今、保健室にいる。
しかも僕一人。
当然のように先生はいない。
いない理由はそう。
受験生向けの臨時救護室にいるから。
ほかの学生スタッフは受験生の緊張をほぐすピエロだったり。
各種案内だったりでいる中。
僕は保健室にいます。
どうやら受験生のメンタルケアの為にいるそうです。
「なんでじゃろうなー。」
静寂しきった保健室で誰も聞かないつぶやきを言ってしまった。
念の為に言っておくと保健室の棚はちゃんと鍵でロックされてるから僕は一切触れないぞ。
時刻はお昼頃。
直近の経過としては…意外と人が来た。
みんな悩んでるのね。
なんか場末のスナックのママさんみたいに人生相談をしたような感覚だった。
ガラン。
保健室の窓を開く。
涼しい。
少し空気を入れ替えてみる。
風が心地よい。
「ん〜…。」
身体を伸ばして。疲れをほぐした。
意外と疲れた。
けど悪くない。
ガラン。
ドアの開く音。
そこに立つ一人の、黒髪の、赤い瞳の少女。
ブォン。
突風が窓から入ってくる。
思わず髪を押さえる。
そのまま少女の方に振り返ると。
「天使。」
「えっ?。」
成り行きで膝枕を僕はしている。
成り行きで頭を撫でる。
……。
心地よさそうだ。
まあ、事情はだいたい察しがつくし。
なんか本人が勝手に喋ってくれた。
ある少女に。かつて友達だった幼なじみに会って、謝る為に。
そんな話を僕の友達。あおいも似たようなこと言ってた気がする。
あおいがかつてやってた中学校アイドル。
そこのサファイアって名前のアイドルだったと。
そしてとあるリアリティ系番組でいろいろあったらしいことも。
確かその相手がルビーって子で。
容姿は…そう。
今、膝枕をしているこの子に似ていた。
少女が起き上がる。
もう大丈夫らしい。
「ありがとうございます。」と頭を下げる少女。
そんな少女に僕は「行ってらっしゃい」と見送った。
……。
似ているだよね。
…まさかね。
ガラン。と強くドアが開く。
ガラッ。…反動で少し閉まる。
入ってきたのは。
ソフィアだった。
なんか怒ってるっぽい動作で僕に近づいて。
そのまま膝枕。
あぁ…。
嫉妬かなこれは。
……。
無言で頭を撫でた。
……。
満足してる様子。
良かった。
そろそろ昼食の時間だ。
ソフィアを起こす。
……。
なんか物足りなそうな顔。
……。
帰ったら続きをやることでどうにか折り合いがついた。
僕達は昼食を食べに食堂へ向かった。
―――――――
私、ソフィアの担当は受験生が校内で迷ってないかどうか巡回して回る係。
(早くユイちゃんに会いたい。)
まあそんな人はいない…意外といますねこれは。
(はぁ。なんで迷うの。)
とにかく案内。
案内。
案内。
……。
疲れた。
(保健室でユイちゃんに癒されたい。)
何故か足は自然とユイのいる保健室に向かっていた。
保健室について廊下側の窓ごしに室内を見ていると。
(だれよあの女。)
ユイが黒髪の少女を膝枕した状態で頭を撫でていた。
……。
受験生だろうか…。
(!?。)
私は慌てて廊下の角の影に隠れた。
「ありがとうございます。」の件の少女の声。
「行ってらっしゃい。」のユイの声。
(……。)
羨ましい…とはこのことだろうか。
ガラン。
私は怒ったような態度でドアを開けてしまった。
ガラッ。と反動で少し閉まる。
「!?。」
ユイがびっくりしてこちらをみる。
(ごめんなさい。ユイちゃん。)
私はそのままユイの元に行き。
……。
寝転がった。ユイの太ももを枕に。
「……?。」
困惑してるのが顔見なくてもわかった。
(ユイちゃんごめんなさい。こんな私で。)
それでもユイは何も言わずに頭を撫でた。
(優しい。)
嬉しかった。
(こんな私でも優しく受け入れてくれる。)
でもなんでこんな行動に出たのだろうか。
(私がめんどくさい人だから。)
いくら考えてもわからない。
(ごめんなさい。)
ユイに促され起き上がる。
「お腹空いたから食堂に行こう。」と昼食に誘われた。
有無を言わずにユイに手を引かれた。
(ユイちゃん。こんなわがままな私でごめんなさい。)
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