冬、雪積もる

「 雨が止む頃、あなたたちは雄叫びを上げる」

そうウツミ先生は言っていたが、秋の長雨が止んでも姉弟きょうだいは変わることなく、その後の冷たく乾いた空気の匂いに、ただ虚しさを覚えるだけだった。


そして、その年の冬も例年と同じくらい寒かった。よく晴れた朝は地面が凍り、空気は痛いくらい冷たかった。


姉弟はなるべく冷たい空気から遠ざかり、部屋の片隅に身を寄せ合いながら過ごしていた。


その冬の記憶は、無い――。

段々と冷えていく部屋の空気に包まれて、姉弟は起きている時間よりも深い眠りに入ってる時間の方が長くなっていた。


そのうちに、凍てつく冬は終わろうとしていた。しかし、完全には解け切らず、それまで以上に雪は降り積もった。積もった雪は日が高くなる頃には解けて消えたが、数日後にはまた、雪が降った。


間もなく冬が終わる頃に、幾度か雪は積もったが、姉弟のいる部屋はほのかに暖かかった。雪積もる季節は、やがて低気圧が何度か列島を通り過ぎるうちに、雨降る季節へと変わっていった。


3月の初めに日本海の低気圧が雨を降らせた頃には、強い風と共に暖かな空気が南から吹き込んできた。


春の足音は、南風と共に桜のつぼみが膨らむ街を駆け抜けた。


(春に続く)

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