第9話
翌日。
Pandarin社の180階会議室の椅子に、三人の若い女性が座っていた。
青いドレスに大きなリボンをつけた少女。星宮すずり。
白いジャケットを羽織った、ミニスカートの少女。桜影ここね。
そしていつもの黒スーツの平紗やゆ。
今日は、第4回配信の結果を受けてのミーティングである。
「社会階級別視聴率です。
上級市民:不明
中級市民:0.079%→0.071%
下級市民:0.08%→0.072%
推定最下層民:3,000人規模」
やゆがタブレットを読み上げる。各人の端末には各街頭モニター前の様子が映っている。
すずりがため息をついた。
「右肩下がりですわね」
「それはえっと、おれがいけないんだと思う」
気まずそうに目をそらす、ここね。
「おれが最下層民の扮装をしているから、他の階層の反発をかってる」
「それならば、最下層民の視聴者が増えそうですが、横ばいですわ」
「えーとですね」
やゆがテーブルの上に手を組んで割り込んだ。
「お2人は気付かれないのでしょうが、ここねの扮装はあまり上手くいっておりません」
「え、そ、そう?」
「はい。体は上手く隠して髪も汚していますが、まず話し方が問題です。語彙が豊富すぎますし、上品すぎます。それに仕草がとても最下層民には見えません」
ここねという少女は、見た目が美しいだけではない。
あらゆる仕草一つ一つが、他人に衝撃を与え、引きこんでしまう魅力を持っていた。
これは隠しようがない。
「あの」
すずりが発言する。
「そもそも、根本的な話なのですが」
「はい」
「わたくしたちはVtuberですわよね」
「はい」
「お面で顔を隠しているここねはまだしも、わたくしたち2人はなぜ生身で配信しているのかしら?」
すずりの疑問はもっともである。地球のVtuberとは仮初のアバターを立てて配信を行う存在だ。対してすずりたちは完全生身顔出し本名まで開示のスタジオ撮影だ。
「ええとですね」
今度はやゆが気まずそうに言う。
「まず我が世界には、地球のVtuberのようなイラストを描く芸術家も、それを動かすための技工士も存在しません。演算機の仕組みが違うので地球に依頼もできません」
頭をかかえる、すずり。
「本当に無い無い尽くしですわね、わたくしたちの世界は」
「地球が例外なのですよ。それに悪い点だけではございません。絵が動いて話す。という配信を受け入れられるほど、我が世界の文化は成熟しておりません。おそらく普及はより困難になったかと」
「そうですわね」
「と、とにかく対策を考えないと」
ここねがやゆを見て言った。
やゆは意図してその目を覗き込んで微笑んだ。
ここねは目を逸らさなかった。努力しているのは見て取れた。
「実はわたしから提案があります。メンバーの増員です」
「先日わたくしが提案した時は、難しいとおっしゃったのでは」すずりが驚く。
「考え方を改めました。わたしたちは、星宮すずり、桜影ここね、平紗やゆとして三人で今後も活動します。そして、愛媛マロとして活動する新たなVtuber、他二名による新ユニットを立ち上げるのです」
「あ。でもそれは」意図を悟ったここねが口ごもる。
「はい。我々は市民階級以上をターゲットとしたユニットとして、愛媛マロたちは最下層民による最下層民のためのユニットとして活動します」
「そうですか」
すずりがうつむいた。
声にいつもの張った弦のような響きが無い。
「ここねは賛成ですか?」
「ん。いい提案だと思う。ソフィーアも賛成だぜ。でも実現にはいくつかハードルがあるけど」
「ハードルなど乗り越えるか倒せばいいのです。しかし」
考え込むすずり。
「この件は少し考えますわ。後日連絡します。やゆさんは募集の準備を」
「了解しました」
その後は『絵を描いてみよう!』の内容に話が移った。三人とも絵をかいた経験がなかったので、手探りの配信だったが、今後も継続して行う、という結論になった。
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